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第四章 ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~
第二十四話 水上の闘い~戦前~
しおりを挟む水上での奇妙な戦い――――
その対戦カードが決定した後も、しばらく対戦する二人の少女が、周囲の者に色々と苦言を申し立てたが……。
結局のところ、この場のルールに従わなければ、脱出もままならないと周囲の者に説得されて、二人は渋々対戦することを了承した。
「で……最初の勝負は?」
半ば投げやりに言って、ステフが第一エリアのスタート場所に歩いて行く。
水上アスレチックのある広大なプールの手前側に、それらしき場所がある。
溜め息を深く吐いて、ルナフィスも銀髪を結い上げながらステフの後を追って行くが――――
「ダーン、君はああいう髪型がお好みの様だね」
髪をポニーテールに結い上げながら背中を見せているルナフィスを、つい視線で追ってしまっていた蒼髪の少年は、背後からの言葉に悲鳴を上げそうになった。
恨めしそうに振り返れば、金髪の優男がニタニタしながらこちらを見ている。
「べ……別にそういうことで見ていたわけでは……」
明らかに狼狽している蒼髪の少年に、金髪の優男は軽やかな声色で言う。
「とすると……やはり彼女のキュッとしたおしりの辺りを……」
「髪だッ……髪を見てました、ごめんなさい」
「あはははっ……素直でよろしい。でも、どうやら早くも君たちペアは問題を抱えたみたいだね」
涼やかに笑って告げたケーニッヒは、意地悪な表情を浮かべたまま顎で前方を示唆すると――――
――うわぁ……最悪。
ダーンは胃の辺りが重い痛みを覚える気がした。
男二人の視線の先には、お互いのパートナーの姿がある。
耳まで真っ赤に紅潮しつつもそっぽを向いているルナフィス。
その前方には、こちらに背を向けたまま、肩を怒らせて全身から怒気を立ち上らせている蒼い髪の少女。
『あらあら……早くも劣勢ですか』
「うるさいわねッ! こんな勝負に本気になるもんですか」
胸元の宝玉がからかうように念話で言ってくるのを、不機嫌に言い返すステフ。
『大丈夫です……水着姿のスペックは貴女の方が有利です。いつものようにその胸であの朴念仁を誘惑すれば圧勝でしょう』
「何の勝負よッ? っていうか、あたしがいつも胸で誘惑しているみたいなこと言わないでくれる」
『そうですか……いっそのこと下半身で勝負を……』
「やかましいッ」
「なにやってんのよ?」
自分の胸元に向かって、興奮して文句を言っているステフに対し、ルナフィスが後ろから追いついて怪訝な表情のまま問いかけてきた。
「あ……いえ……その、気にしないで」
ソルブライトが念話で話しかけてきていることに対し、自身は大声でまくし立てていただけに、ステフは急に恥ずかしい気分になってしまう。
――そう言えば……。
ステフはふと思い返してみる。
ソルブライトの念話は一体どれだけの人が聞いているのだろうか?
これまでの状況から、自分とダーンは契約に関わる者として当然だが、他にスレームとも会話をしていたし、カレリアもソルブライトの念話は聞こえていたようだ。
だが、敵であるルナフィスには聞こえているのか?
いや、そもそも念話自体が精神波の波長を合わせて交信するものなのだから、ソルブライト側に伝えようという気がない相手には聞こえないだろう。
つまり、念話を発する際に、ソルブライトが聞く側の波長に合わせているはずなのだ。
『ねえ、ソルブライト。あなたの念話ってこの娘には聞こえていないのかしら?』
手っ取り早くソルブライトに直に確認しはじめるが……。
『そうですね……、先ほどの場外施設のような場所はともかくとして、この競技場の中では聞こえていないと思いますよ。お忘れですか? ここのフィールドが《水神の姫君》の具象結界の効力で、全ての異能が封じられているのです。そして念話はサイキックの一種ですから』
『へ? じゃあ、なんであたしとアンタは会話できてるの?』
『念話のようで念話ではないからです。私と貴女の間でのみ秘話ができる理由と同じですが、契約者の貴女と私は様々な因果が結合していて、念話として飛ばすのではなく有機的に接続した回線で会話するような状況にあります。要は、無線ではなく有線の交信です』
『そういうことか……。えっと、じゃあ……もしかして今は、ダーンにも聞こえてないってこと?』
『その通りです。なお、貴女とダーンの間でする念話も、肌が直接触れたとしてもここでは通じません。私とあなたの関係だけ特別と思ってください』
『…………なんか、やな予感』
『あら……聞こえないからいいじゃないですか、姫。所々で思いっきりガールズトークしましょうね』
神器の意志の念話が急に明るい感じになったが、対してその主は暗澹たる気分で、思わず重い溜め息が出そうになった。
『や……やっぱり……』
『さて……まずは、アーク王国第一王女として、水着姿のダーンの評価をしていただきましょうか。……いやなんなら、先日露天温泉でお確かめになった、彼のアレについても……』
『……この場で捨てるわよ』
ペンダントヘッドの付け根の鎖を指でつまみ上げ眼前に持ってきたステフは、緋色の宝玉を半眼で睨みつける。
『あら……ソレは流石にご無体ですね……。でも、彼の方は貴女の水着姿に少なからず興味がおありのようですが』
「ホント?」
少女の弾むような声が、あたりに反響し、その場にいた人間の視線が彼女に集中した。
『ステフ、声にでてますよ』
ステフはソルブライトの言葉に顔を真っ赤に紅潮させて押し黙る。
「変な子ね……」
そんな蒼い髪の少女を横目で見ながら、銀髪の少女が溜め息混じりに呟いていた。
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