超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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序章  朴念仁を取り巻く環境~宮廷司祭と駄目男~

第二話 訓練試合

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 アテネ傭兵隊屈指の実力者たる二人のけんげき戦は、訓練といえども生半可なモノではなかった。

 その第一撃目は距離を詰めながらの打ち合いになった。

 ダーンは剣先を左下へ下げてからの逆袈裟に切り上げ、ナスカは全くの逆、剣先を右上へ上げてからの袈裟切りで、二人の剣がまともにぶつかり合う。
 
 耳鳴りを覚えるほどの甲高い金属音。

 その轟音を成す剣と剣の合間から、突風が巻き起こる。

 音速に近い域まで加速した切っ先と、長剣に込められた二人の闘気と闘気がぶつかり合い起こったものだ。

 お互い、爆発的な加速をもって打ち付けた衝撃と合間に起こった突風で、後ろに弾かれそうになる。
 二人はその反発を利用し一旦間合いを開けた。

 そして軸足の着地と同時に再度、前に踏み込んで相手に打ち付ける。

 ダーンは一撃目の剣の軌道を逆回しにして体を反時計回りに一回転させ、ナスカはダーンとは全く逆の時計回りに体を一回転。

 お互い回転による遠心力の上乗せされた第二撃――ダーンは袈裟切り、ナスカは逆袈裟に切りつける。

 一撃目とは逆の形で剣がぶつかり合い、先ほどよりも大きな反発を生む。

 その反発は、剣戟を重ね合う二人の剣士以外にまで効果が及んだ。

「きゃあッ」

 巻き起こった砂混じりの爆風。
 二人に一番近い位置にいたエルが、たまらず悲鳴を上げ、慌てて飛び退いた。

「おおッ……純白ッ!」

 ナスカが剣戟とは全く無関係の咆哮を挙げる。

 ――ぴきッ。

 膝よりわずかに裾上のスカートを両手で押さえるエルと、試合の様子を笑顔のまま見下ろすホーチィニのこめかみに青筋が立った。

「これって俺も同罪かよッ」

 鍛えられた剣士の視力がわずかに捉えてしまった純白に後悔しつつ、ダーンは言い放つ。

 二撃目の衝撃に二人の距離は一足一刀とはほど遠い間隔に開いていた。

 すぐさまダーンは剣を腰だめに構え直し、砂埃が立ちこめ姿がぼやけたナスカ、その影の中心へと切っ先を突き向けて、自らの体躯を弾丸のように撃ち出す。

 一瞬遅れて体制を整えたナスカの元へと、鋼の切っ先が猛然と迫った。

「チッ!」

 舌打ちのような鋭い息を漏らして、ナスカは剣を両手で握り直して正中線上に立てて構える。

 そのまま迫り来る切っ先の右面に鍔元をあてがう形で、剣を中心に自らの体躯を反時計回りに回転させ前さばき。

 そのまま回転と反動を利用して剣を振り上げ、左脇を通過するダーンの肩口に斬撃を落とす。

 ダーンは渾身の突きが躱されることを悟るや、さらに大地を思い切り蹴りつけて前へ加速。
 背後から来るナスカの斬撃を紙一重に躱した。

「クッ……」

 加速優先で若干体勢を崩したダーンは、剣を大地に突き立てて急ブレーキをかける。
 剣先と踵が大地を抉り、背中ががら空きになったところへナスカの追撃が来た。

 完全な減速ができないままに、体を捻って剣を重ね応撃。

「負けた方に三万ガエン……パンチラ代として」

 若干しゆうに頬を赤く染めた女弓兵エルがぽそりと呟いた。


  剣士二人は接近したまま、今度は振りの小さい連撃の応酬となった。
 相手の剣戟に合わせては、太刀筋の合間を縫うように相手の隙を突こうとする。
 だが、お互い有効な一撃とはならないでいた。

「どうするよ、オイ……給料の十分の一要求だぜ? 一瞬の純白によォ……」

 細かい連撃の金属音に隠れるように、ナスカは正面のダーンにささやくように話し始める。

「いきなりレートが上がったな。……っていうか、お前が悪いんじゃないか?」

 ダーンも小声で応じるが、剣戟の速度や手数を緩めない。

「お前だって見たろッ。葉っぱみたいな模様のレース付き……」

「悲鳴を上げたんで視線がつい行ってしまったんだ。……あと、俺の方が目はいいようだな、白いバラの模様だった」

「完っ璧に見えてんじゃねぇか」

 ナスカはニヤリと笑うと、一歩踏み込みつばせりり合いに持ち込もうとする。

 ダーンもそれに応えて、お互いの連撃が止まった。

 金属同士の軋みながら擦れ合う音を立て、二人の力がきつこうする。

「次で決まりにするぜッ」

 ナスカは言い放つと、剣をさらに押し込み、反動を利用して一気に飛び退き間合いを開けた。

 ダーンも同じように後ろに飛び退き、二人は腰をわずかに沈めると第一撃目と同じ太刀筋で、渾身の一撃をたたき込む。

 それは第一撃と同じ軌道ではあったものの、二人とも込められた闘気と剣の速度が明らかに違っていた。
 切っ先が一瞬ではあるものの音速を超え、その斬撃に小さな衝撃波を纏う。

「あ……痛ッ」

 テラスにいたホーチィニが両耳を押さえ、その顔を不快に歪ませる。

 これまでで一番大きな金属同士の打ち合う轟音と、発生した衝撃波がぶつかり合って霧散する際に発生した超音波が、離れた位置にいた彼女にも耳鳴りを覚えさせていた。

 「勝負ありッ」

 エルが両耳を押さえ涙を滲ませつつ、勝敗の決したことを宣言した。
  その彼女の足下には砕けた剣の切っ先が大地に刺さっている。

「勝者――訂正、夕食当番……ナスカ・エロ隊長ッ」

 エルは高らかに敗者の名を告げ、刀身部分が無くなっている剣を手にしたナスカを指さした。

「普通さ、勝った方の名を告げねぇ……しかも、エロ隊長って」

 ナスカはゲンナリとしながら、両肩を落とした。
 その肩を、近づいたエルが軽くたたく。

「なお、敗者には副賞として、私からの慰謝料請求書と、宮廷司祭様からのありがたい天罰が下りまぁす」
 
 エルの輝かんばかりの笑顔に、ナスカはもう一度がっくりと肩をおとしていた。          


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