超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第三章  蒼い髪の少女~朴念仁と可憐な護衛対象~

第二十五話  彼女の信頼と朴念仁の本音?

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 目を丸くするステフの眼前で、並んで立つ二人のダーンはお互いの姿を認めるや、同時に素早く間合いを空けると長剣を正中に構えて対峙する。

「土人形の次は俺に化けるのかよ……」

 ステフから見て左に立つダーン――仮にダーンAと呼称――がうめくように言い放つ。

「白々しい演技するなッ」

 ステフから見て右に立つダーン――仮にダーンBと呼称――が額に青筋を立てて言い放つ。


「うわぁ……」


 若干まいを覚えてステフは額に手を当てた。

 お互いに偽物だと主張するかのように長剣の切っ先で牽制し合うダーン達は、ステフから見てどちらも本物のように感じられる。

「騙されるなよステフ、しよせん土で出来た人形風情だ。今すぐ偽物は始末する」

 そう言って闘気を洗練し始めるダーンA。

「それはこちらの台詞だ」

 対するダーンBも闘気を洗練し始めた。

 どちらも同じように闘気を洗練し始めて、ステフは絶句するしかなかった。

 先ほどの石のゴーレムや土人形の兵士達とは違い、二人とも血の通う人間そのものだった。

 闘気の扱い方を知らないステフにとって、二人の闘気の違いや、本物のダーンが纏う闘気の質を読み取ることは出来ない。

 声も体つきも、髪の蒼や瞳の色まで先ほどまで共にいたダーンそのものだ。

「どうすればいいのよ、もうッ」

 悲鳴に近いステフの悪態が洞窟に反響し、次の瞬間二人のダーンの剣が衝突した。


 どちらのダーンも、ステフの知っている彼と全く同じ動きで長剣を振るっている。

 片方の剣が土で出来た偽物なら、衝突の瞬間に砕け散っていたのだろうが、どちらも本物の長剣だ。

「チッ……本物の剣かよッ」

 ダーンAが呻くように吐き捨てつつ、相手の剣をさばいて細かい斬撃を繰り出す。

「だから、白々しいんだって! どうせ襲ってくるなら本性を見せろよ」

 悪態を吐き捨てて相手のけんげきに応じるダーンB。

 二人の剣の実力はほぼきつこうしているようで、お互い有効な一撃を見舞うことなく、鋭く素早い剣閃が二人の間を激しく行き交った。

 その激しい剣戟の音に混じって、ステフの耳に――――いや、その脳裏に凜とした《声》が届き始める。


『さて――どちらが貴女あなたのダーンでしょうか?』


 突如脳裏に直接響くりんとした女性の声に、ステフは一瞬身を竦ませる。

『誰? 念話なの? っていうか、あたしのダーンって……べつにあたしはそういう目でアイツを見てないんだけどッ! まずはその辺はっきり訂正させて欲しいわねッ』

 若干頬を朱に染めつつも、念じるように言い返すと、凜とした《声》は楽しそうな声色になって、さらにステフに話しかけてくる。

『ムキになって否定しなくてもいいのですよ……。まあ、そんなことよりも、このままあの二人が戦えば、どちらかが倒れるか、それとも相討ちになるかしますよ。貴女あなたが答えを導き出して加勢しなければ、二分の一以上の確率で本物のダーン・エリンが死ぬことになります』

 聞こえてくる《声》に、前半は顔を紅潮させていたステフだったが、後半の言葉を聞いて一気に血の気がひいてしまう。

『……何が目的なの? 貴女あなたは誰よ』

『この試しは、私の意図したものではありません。彼女がこのような趣向を凝らしたのは、まあ何となく察するところがありますが……。そして、私のことですが、貴女あなたなら想像がつくのではありませんか? レイナー・ラムール・マクベインの娘である貴女あなたなら……』

『まさか……』

 念話で話しかける女性の《声》の主に、ステフは驚きと共に思い当たるが、その答えを導き出しかけた瞬間に、相手の念話の気配が途切れてしまった。


 少し呆然とするステフの視線の先で、二人のダーンがさらに剣戟を激しいものに変化させる。

 その二人の剣戟や動き、そして言葉のやりとりはステフに捉えることの出来ない領域に突入していた。

 相手の剣戟にごうを煮やした二人が、ほぼ同時に《固有時間加速クロック・アクセル》を発動したからだ。

 昨夜のダーンは、《固有時間加速クロック・アクセル》のサイキックをほとんど使いこなせないでいたが――――

 二人とも額に脂汗を浮かべながら、必死に加速状態を維持し、超人的な速度で斬撃を繰り出し、時折実際に音速を突破する切っ先を相手に放っては、迫る剣閃を長剣で捌いている。

 やはり加速状態でも、二人の実力は同じものだった。

 やがて、力量以上のサイキックを発動し続けた二人は、同時に加速状態を維持できずに減速する。

 さらに戦闘中に動き回ったことで、この具象結界の特性である重力増加の影響もあってか、二人とも大地に片膝を着いてしまうこととなった。

「くうッ……どこまで俺を模してるんだコイツ……」

 もはやダーンAなのかダーンBなのかすらわからなくなってしまったが、片方のダーンが呻くように悪態を吐くと、もう片方のダーンも同じく呻くように「ふざけるなッ」と悪態を吐きだした。

「どっちが本物なのよ……」

 未だに判別がつかないステフも呻くように疑問を口にし、半ば途方に暮れる。

「俺を信頼してくれ、ステフ……コイツは……この偽物は強い。俺だけじゃ正直言って手詰まりだ」

 ステフから見て左にいるダーン――またもやダーンAと呼称――がこちらを向いて息も絶え絶えに告げてくる。

「その点は、俺も同じ意見だ……シャクだが、コイツ強いぞ。俺だけじゃダメだ。昨日のように君との連携なら何とかなるかもしれない」

 右のダーン――くどいようだがダーンBと呼称――がこちらを見てくる。


――エーッ! ……結局、あたし次第ってことなの? この状況……。


 苦い笑顔を浮かべるステフは、この際もう面倒くさいから二人とも風穴空けてやろかとすら考え始める。

 それでも、まさか二人とも射殺するわけにもいかず、ステフは二人のダーンを交互に見て思案し始めた。

 そもそも、この状況の発端はこの空間を形成させている具象結界だろう。

 その結界を仕掛けたのは多分《蒼の聖女》ではない。

 彼女の存在をよく知っている自分の直感がそう告げているのだ。

 さらに、この結界の術者は、魔法でも法術でもない方法で結界を形成し、どうやら自分たちを試すのが目的のようだ……。

 自分たちがここに来た理由を考えれば、その術者の思惑は推察できる。

 恐らくは、高位精霊仲介装置ハイエレメンタル・インターフェースを持つにふさわしい人間なのかを試している。

 あるいは、その神器が持つ役割、精霊の王との契約にふさわしいかの判断のためといったところか。

「いいわ……あたしがどちらが本物か見極めてあげる。あたしの信頼を求めるなら、あなた達もあたしの信頼に応えて」

 ステフの言葉に、二人のダーンが黙って頷いた。

「たった一つ、あたしの質問に答えてもらうわ……正直に答えて……いい?」

 ぜんと静かに言葉を紡ぐステフに、再び二人のダーンが緊張した面持ちで頷いてくると、彼女は一度深呼吸する。


 そして――――

 一つの質問が二人に投げかけられる。



「昨日、あたしの胸をみしだいた動機をここで白状しなさい」



 その瞬間、二人のダーンが硬直した。




     ☆




 時間にして三秒間ほど硬直したダーンAは、半ば紅潮した顔を半笑いにして上擦った声を上げた。

「こっ……こんな時に何を聞いているんだッ」

 そのダーンAの隣でやはり硬直していたダーンBも同じような顔をしてはいたが、彼はその顔をうつむいて、しばらく黙ったまま何かを考えている様子だった。

 その顔には大量の脂汗が浮かび、なにやら苦悩しているようにも覗える。

 そして、ダーンBは意を決めたように顔を上げステフと視線が合った。

 琥珀の視線と蒼穹の視線が交錯し、一瞬、急性胃炎にでもかかったかのような苦痛に満ちた表情を奥歯でかみしめたダーンは、再び視線を地面に落としてしまう。

 視線を地面に落とした彼は数秒そのまま肩をワナワナと震わせていたが、さらに再び顔を上げると、今度は目をつぶったままステフの方に向かって、残る全ての気力を込めた大声を張り上げた。


「お……大きな…………大きな夢が詰まっていると思って揉みしだきましたぁ――――ッ!」




     ☆




 次の瞬間、《衝撃銃》がその最大連射数である六連続で火を噴く。

 破廉恥な台詞を洞窟の隅々にまで響き渡るような大声でわめき立てたダーンBの隣で、その姿を呆然と目を丸くして見つめていたダーンAの肉体に、その光弾のすべてがたたき込まれていた。

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