超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

文字の大きさ
87 / 165
第三章  蒼い髪の少女~朴念仁と可憐な護衛対象~

第二十六話  大地母神

しおりを挟む

 ステフが躊躇ちゅうちょなく撃った《衝撃銃》の光弾六発は全てダーンAの肉体を貫き、彼の身体は後方へとはじき飛ばされる。

 その光弾を受ける直前、ダーンAの表情がちよう気味に笑い、光弾の威力にはじき飛ばされながら黄土色の土になってその姿が崩れた。


「キャー! ついにほんを白状したわねッ! まさか、本当に言うとは思わなかったけど……しかもあんな大声で!」


 やけに楽しそうなステフの声がダーンのまくを打ち、彼はその場に力なくうなだれた。

「本音とか言うな。…………あの場合、ああ言うしかなかったじゃないか……。信頼がどうとか言っていたくせにあんまりだ。……他に君との会話なり行動を共にした俺にしか言えない話題はなかったのか?」

 若干涙声になってしまうダーンは、偽物の自分との戦闘と《固有時間加速クロック・アクセル》のサイキックで精神的にかなり疲労していたが、今に至っては、その心に傷を負う羽目になっていた。

「ああいう場合、とつなことを問いかけた方が効果的なのよ。あの偽物は貴方の性格や思考を忠実に再現していたもの。ありきたりな質問じゃ貴方の思考をトレースされて本物が言いそうなコトを答えていただろうし、場合によってはうまくはぐらかされていたでしょ」

 右手の人差し指、その白くしなやかな指先を立て、少し得意げになって解説するステフに対し、ダーンはじゆうめんを浮かべるしかない。

 実際、ステフの質問があのような突飛なものでなければ、あの偽物は自分と変わらない言動をしていただろう。

 実際、あの質問を出された瞬間、最初は自分も偽物と同じような顔をして同じように返答しようとしたのだ。

 この洞窟や遺跡に来る直前に、馬上でのやりとりがなかったら、偽物と一緒に自分もステフの《衝撃銃》に撃ち抜かれていたかもしれない。


――というか、ちゆうちよなく撃つだろうな……めんどくさいとか考えて……。


 冷たいものが背筋に流れる。


「あー畜生、なんか納得はいかないが……それにしてもあの偽物、俺とほぼ同じ剣の腕前だったし、あの太刀筋は《闘神剣》そのものだった。一体どんなからりなんだろう?」

 未だ抗議したい気分はやまやまだったが、情けないことに口では彼女には勝てる気がしないダーンは、話題を切り替えて崩れ落ちた土の塊に視線を向ける。

「それについては、多分、貴方が土煙に巻かれたときに貴方の情報をコピーしたんでしょうね。
 ただ、闘気だとかは特殊な方法で自然界の活力を変換したりしたんだと思うわ。推測だけど、恐らくは大地の膨大な活力の利用よ。さっきから石やら粘土やらと、大地系統のものばかり使ってきてるし……」

「そんな大それたこと、いくらここが具象結界の中とはいえ不可能だぞ。君の言っていることは、いわば大地の活力マナの完全制御をしてせるわざだ」

 ダーンの否定に、ステフは一度軽く唇を緩ませて首肯する。

「そうね……あたし達をこの状況に招き入れた者が並の術者とかなら無理でしょうけど……まあ、そのことは後で確認するとして」

 ステフは一度言葉を切り、軽い深呼吸をすると、ダーンがいる方向とは反対の方に振り返る。 ステフが振り返った先には洞窟の岩肌と、その先の暗闇が見えるだけだったが……。


「この洞窟を具象結界で築いている者は、きっとあたし達のことを昨日から監視していたんでしょうね……。――――そうでしょ? ミランダさん」


 突然、ステフが宿屋の女将の名前を出したことに、ダーンは少し戸惑いつつ、ステフの後方に視線を向けた。

「あら……もうバレてしまいましたの」

 何もない暗闇から、宿の女将の涼しげな声が響いてくる。

「実は直感での当てずっぽうに近いけどね……。初めて会ったときから、貴女あなたには不思議な包容力のようなものを感じていたのよ……最初は気のせいかとも思っていたけど、ここに満ちてる雰囲気は貴女のものにとても似ているわ」

 ステフの言葉が終わらないうちに、暗闇の奥から宿の女将のエプロン姿が浮かび上がり、ミランダ・ガーランドが微笑みながらこちらに歩いてきた。

「なるほど……さすがはレイナー様の娘さんですね」

 いつものエプロン姿のままのミランダは優しい微笑を浮かべたまま言うが、ステフはミランダに鋭い視線を送りながらさらに、

「褒めてくれるのはまだ早いわ……大地母神ガイア」

「あら……」

 ステフの口から『大地母神ガイア』の名が出た瞬間、軽い驚嘆を現すようにミランダが瞳を大きく開き、ダーンが訳がわからずステフとミランダを交互に見つめる。

「ダーンの疑問の答えとしてね、自在に大地の活力マナを完全に制御できる存在は、大地の精霊王をおいて他にないわ……。そして、あたしのお母様の手記に精霊王の名……大地母神ガイアの名は記されていたの」

 ステフの言うことに、ミランダは優しい微笑みを浮かべたまま小さく頷く。

「あの……俺、正直ついて行けないんだが……その、君の母親が?」

 ダーンがステフに近付きつつ彼女に耳打ちすると、

「もうここまで来たら、貴方にも明かしておくけど……アークの英雄の一人《蒼の聖女》の名はレイナー・ラムール・マクベイン、あたしの母親なの。あたしは母の残した手記を頼りにここに来たってわけ」

 ステフの言葉に、ダーンは少しだけ得心する。

 彼女が、《蒼の聖女》が残したという神器について、随分とその存在を確信し、それの回収にこだわっていたのは、彼女が《蒼の聖女》の娘だったからなのだろうと。

「そうか……四英雄について詳しいわけだな。しかし……ミランダさんが、その、大地母神って……本当に精霊の王なのか?」

「はい。本当ですのよ、ダーンさん」

 ダーンの問いに、ステフではなく当のミランダ自身がおっとりとした声で応じる。

「いや……でも、アリオスで普通の人と同じように宿の経営をして……息子さんだって……」

 ダーンは昨夜宿泊したミランダの宿のことを思い浮かべるが、アリオスの町で宿泊した宿屋は、実際にガーランド親子が経営していた風であったし、とても仮初めのモノとも思えなかった。

「それも人間である私が営む本当の生活です。……サイキッカーの多くが、自然界の《精》を根源に持つように、精霊の王たる存在も、今や人間の中に宿っているのですよ。有り体に言えば、私は大地母神ガイアの化身ということですの」

 ミランダの説明に、ダーンは唖然とする。

 彼が得た知識には、サイキッカーのように、人間の中に自然界の微精霊などが同化しているケースはまれにあるということだったが、流石に精霊の王が人間と同化しているとは知らなかった。

 精霊の王についての知識も、それほど知っているわけではないが、カリアスから得た情報では、精霊の王は神界の神々に匹敵する存在……いや、こと活力マナの扱いについてはそれ以上の存在だということだった。

「あのノムって子も、精霊なんでしょ……多分、悪戯好きで有名な大地の精霊ノーム……」

 ステフのさらなる推測に、ミランダは首肯するが少しだけ困った顔をし、

「いつまで経っても、子供っぽいところが表に出てしまうので、ほとほと困っているのですけど……。昨日の一件も、ステフさんをからかうつもりで森から帰るのを遅らせたのだそうですが、あの子ったら、野犬に絡まれてしまったらしく予定が狂ってしまったとか言ってましたが」

「ホントに子供ね……」

 ミランダの話に、ステフは軽く悪態を吐き捨てる。

「さて……私の思惑としては、もう少し色々とイベントを試してあなた方の信頼関係やその他色々な関係を見定めようと思っていましたが、少し見くびりすぎましたね。こんなにも、あっさりと私のことを見破ってしまうとは……。それに、先ほどのあなた達のやりとりも予想外でしたわ……と言うよりも、ダーンさんがあのような欲望を抱えておいでとは……不覚にも全く気がつきませんでした」


 ミランダが涼やかな微笑と共にダーンの方に流し目を送ると、ダーンは苦虫を噛みしめたような顔を露わにする。

「そこだけは断固として否定したいッ! いや、むしろさっきのナシにして、もう一回やり直しを要求する」

 必死に訴えるダーンだったが、その彼とミランダの間にステフが身体を割り込ませ、彼の方を肩越しに親指で指し示し、

「あー、コレはほっといていいわ……思春期の男の子がごく希にわずらわす病気みたいなものよ。ただ、その胸元には気をつけた方がいいわ。あたしなんかいきなり鷲掴みにされたのよ」

「まあ……!」

「もう、勘弁してくれ、頼むから……」

 ミランダが両手で口元を押さえるようにして驚愕し、ダーンがその場に両手両膝をついてうなれる。

「そんなことより、ミランダさん……というかガイアと呼んだ方がいい?」

 ステフの問いに、ミランダはクスッと笑い、

「どちらでも構いませんが……ミランダと呼ばれる方が私としては嬉しいのですよ」

「じゃあミランダ……どうやらあたし達を試していたようだけど、納得いったのかしら?」

「ふふ……そうですね。まあ、先ほどのやり取りを『強固な信頼』として認めなくはないですよ。――――ということで、私の方は構いませんが?」


 ミランダは、その場にいるダーンとステフではない誰かに問いかけるように洞窟の天井を見上げながら言葉を紡ぐ……すると――――


『……いいでしょう。契約の祭壇へ……お二人をご案内していただけますか』


 ダーンとステフの脳裏に、凜とした女性の『声』が直接響いてきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...