超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

文字の大きさ
92 / 165
第三章  蒼い髪の少女~朴念仁と可憐な護衛対象~

第三十一話  反撃開始

しおりを挟む
 
 『リンケージ成功……』

 新たに形成された白を基調とするワンピース型の被服、その胸元にしつらえた宝玉が念話で告げるのを聞き、ステフはその額に青筋を立てていた。

「何てコトしてくれるのよッ! いきなり裸ぁ? あたしのお気に入りの服とかどうなっちゃったのよッ」

 発動のキーワードを声高らかに発する前に感じていた高揚感は一体何だったのだろうか?

 そんな疑問を、同時に感じていた信頼やら期待を裏切られたという怒りと共に、ステフはまくし立てるが……。

『破れた服や男の子に見られることを意識したまんま勝負下着などは、防護服の素材構成に利用しています。大丈夫です、ちゃんと後で新品同様に……』

「勝負下着とか言うなッ」

『違ったのですか? まあそれはともかく、防護服のデザインは貴女あなたの深層意識からのフィードバックです。デザインにも気を配りましたが、既存のどんな防具よりも優秀ですよ』

 ソルブライトの言葉に、ステフは自分が着せられている衣装を見下ろしつつ、身体をひねったり腕を動かしたりする。

 その素材自体は何で出来ているのか想像に難いが、着心地は悪くなく、肌触りは絹のようになめらかで羽のように軽い。

 清潔感のある白色のワンピースは、あたかもパーティードレスのようにも見えるし、所々に金色の糸や藍色の糸を使ったようなアクセントも入っていた。

 袖はセパレートになっていて、二の腕の上半分と肩や襟元は肌が見えるタンクトップタイプで、プリーツスカートの丈も短めだった。

 足下は腿の高さまでの革製と思われる黒いサイハイブーツで、短めのスカート裾との間、少しだけ露出した白い太腿がわずかにまぶしい。

「あたしの深層意識って……なんか、こーゆーのって子供の頃にカレリアに勧められた理力ヴィジョン放送のアニメで……」

『たしか、魔法少……』

「それ以上言うなぁッ! それを言われたらこの格好してるあたしが恥ずかしいわッ」

『恥ずかしいとか言われても……一応、神具の一種《神衣》なのですが』

「大体、こんなにあちこち肌が露出して、まるでファッションショーのドレスみたいなのに、どうして防具として優秀なのよ」

しようとしては可憐なイメージを優先した結果です。防御力という点では、活力の防護膜で全身覆っていますので、実は見た目全裸でも変わりませんが……』

「そんな言い方して……どうしてもあたしを脱がせたいの? っていうか、さっきから思っていたんだけど、貴女あなたスレームと認識あるでしょ、絶対あの色気ババアに感化されてるわね?」

貴女あなたの母君と契約していたときに、共に旅をした仲間ですので……そう言えば、レイナーを除けば最も話したような気もしますが……』

「やっぱりか!」

 ゲンナリとして肩を落としつつ得心するステフは、さらに自分の髪型の変化を察し、続けて問う。


「で? どーして髪型がポニテなのよ?」


 ステフの銀をまぶした蒼い髪は、鮮やかな赤いリボンで後ろへ一つに結い上げられている。

『一部、契約立会人ダーン・エリンの心理というか、こうを取り入れました』

「ほほう?」

 少しにんまりとした視線を蒼髪の剣士に向けるステフ――――その視界に若干紅潮しつつも、こちらのやり取りに気がつかない様子で巨大ムカデとカラス馬の動きに合わせて戦うダーンの姿が映る。


「というか……まさか、見た?」


 ステフはこちらを気にしていない様子のダーンに向かってジト目を送りながら、思わず胸元を隠すように彼から身体を反らすと……。

「見てない! こっちは二匹も相手にしてて大変なんだッ! 君の裸を覗く余裕は……」

 言葉の途中でハッとなって冷や汗を浮かべるダーン。

『絶対に見てましたね、アレ……。まあ、意図的に光源を強くしてますから、外からはあまり見えないし、特に、その……重要な部分はぼやけてますよ』

「ああもうッ! その言い草が気に入らないわ……っていうか、あたしはそんな明るい場所で真っ裸になったの? 心身に汚れなき乙女であることとか条件にしたクセに、これっていんじゃない」

『まあ、見せる分には汚れませんから……』

「コッ、コノぉ~」

 拳を握りしめてワナワナと肩を震わせるステフ。

 その彼女から少し離れた場所で、地面に落とされ半ばのうしんとうを起こしていたカマキリの魔物が、再び息を吹き返していた。

 こうかくのこすり合う不気味な音と共に起き上がり、赤い複眼に蒼い髪の少女を映し、彼女に狙いを定め始める。

『抗議は後ほど……。取り敢えず、この場をしのぎませんといけませんから。ステフ、銃の方は活力変換で使えるようになっています。戦闘の再開を……わかっていると思いますが、先ほどのようなていたらくでは、さらに彼の負担が増すというものですよ』

 胸元のソルブライトの言葉に、ステフはムカデと戦うダーンの背中に視線を走らせると、その背に、赤い血が滲んでいるのを再度認め、口元をキッと引き締める。

「分かっているわ……あれ?」

 スカートの中のホルスターから銃を抜いたステフは手の中にあるそれを見つめ疑問調の声をあげた。

 《衝撃銃》の見た目が少し変わっていて、銃把などはほとんど同じだが、装飾が施され、外装の素材が変わっているようだが。

『大地母神の物質錬成のたまものです。基本構造はほとんど同じですが、エネルギー転換の効率を最適化し威力も少し上がっているはずです』

「へェー、便利なものね」

 ステフは感嘆しつつ、巨大な鎌を振りかぶっていたカマキリの魔物に向け引き金を引いた。


 扱いやすさはそのままに、思い通りの弾道を描いて、せんに収束する衝撃波が魔物の肉体にヒットする。

 けたたましい悲鳴を上げて、カマキリは初めて味わうであろう肉体の損傷に怯んだ。

穿せんこう性能の向上ね、今度予定していた改良案と同じ……確かに、これは使えるわ」

 未だ虫に対する苦手意識は残っていたが、銃把を握る蒼い髪の少女は冷静に敵の姿を瞳に捉え、反撃を開始した。




     ☆




 巨大ムカデと対峙し長剣を振るうダーンは、背中に走る傷の痛みを忘れ口元に笑みを浮かべていた。

 少し離れた場所で、若干見た目の変化した《衝撃銃》を撃つ蒼い髪の少女の姿を、そのそうきゆうの瞳に映した彼は昨夜と同じような高揚感を抱き始めている。

「おてんば……様の復活っと……」

 誰にも……自分自身の耳にさえ途中掠れて聞こえるような小声で呟き、彼はこの闘いが始まって初めて自分の相手にしている魔物へと意識を集中させた。

 巨大ムカデの姿は、たとえ虫を極端に苦手としない者でも見るものに生理的な畏怖を与えるものだったが、《闘神剣》を振るう者から見れば大した魔物ではない。

 強固な外殻に阻まれ、長剣の刃を弾く身体ではあるし、激しくうごめいていたり身体を折り曲げて頭部を高く持ち上げたりしては、体側の節足がこちらに襲いかかり、さらに頭部の巨大なのこぎり状の口顎が猛然と襲いかかってくるなど、当然並の魔物ではないが、今のダーンにそれを躱すことは容易だった。

 ただし、上空を旋回しこちらの隙を窺うカラス馬の動向には注意が必要だった。

 さらに先ほどまでは、ステフを狙うカマキリの動きにも気を向けなければならない状態だったが。

 現状、ステフならばカマキリを何とかしてくれそうだったし、カラス馬の方もミランダの力を警戒してか一定の高度を保っている。

 ステフのことに関しては、神器であるソルブライトに感謝しなくてはならないだろう。

 端から見ていて、この戦闘中に契約者とくだらない口喧嘩をしているだけに思えたが、あのやり取りはステフの性格から考えて、彼女の虫への苦手意識を反らす目的もあったのだ。

 さすがは神器と呼ばれるだけのことはある――――と思うべきなのかはさておき、ダーンは少しだけ気がかりなこともあった。

 それは、あのソルブライトが意識をもつ特殊な神器、というよりもまさに一つの人格すら持ち得ている点だ。

 カリアスから修練を受けた際、様々な武器や道具の知識についても教わっているダーンは、高度にくみ上げられた神器などが、あのような人格に近い思考回路などを持つ個体もあると知っている。

 それとは別に《付喪神つくもがみ》という長年使われた道具などに意識のようなものが芽生えることもあるという伝承聞いたことはあったが、ソルブライトのあれはそういうものとは異質に感じるのだが……。


――まあ、今あれこれ考えていても仕方がないか……。


 精霊王たる女神と契約を仲介できる存在だけに、非常に特殊な神器ということなのかもしれない。

 いずれにしても今は、目の前の自分の闘いに集中しよう。

 節くれ立った異形の巨体を持つムカデは、確かに通常の魔物と比べれば厄介な相手だが、今の自分はこの手の魔物の倒し方を充分承知している。

 魔物化の魔力を生み出している《魔核》を見つけ出し破壊するか、再生不能にまで魔力のしろたる肉体を徹底的に破壊することだ。

 このムカデの魔物は、いくつもの節くれた胴体を持ち、その節のどれかに《魔核》があると推測していたが、正直候補対象が多すぎてすぐに発見出来ていない。

 ならば――――


「要は、バラバラにすればいいんだ!」


 自分に言い聞かせるように言って、ダーンはムカデの節くれた巨体に鋭い視線を向ける。

 一つ一つの節は固い外殻で覆われているが、そのつなぎ目のような関節部分はそうではない。

 ダーンは先ほど放った真空の刃を生み出すサイキックを、自らの剣先に展開する。


 崩裂風刃衝ほうれつふうじんしよう


 《闘神剣》の剣技の一つ、刀身にサイキックで生み出した真空の刃を幾重にも重ねておく技だが、これは敵を倒すための準備段階でしかない。

 さらにダーンは自分の闘気の膨張に警戒して動きを複雑にしているムカデをえながら、時間の流れを掴んでいく。


 《固有時間加速クロック・アクセル》――――


   銀髪の女剣士ルナフィスと刃を交えたときに、とつに瞬間的な発動をさせ、今日は大地母神からの試練中にも、自分自身の複製と戦ったときにも発動させた。

 二回目に発動させたときは、初回よりもはるかに長く実戦としても有効であったが、今回はさらに加速し続けることが出来るだろう。


 加速した世界の中で連続に斬撃を繰り出しつつ、ダーンは自覚し始めていた。

 昨日の天使長との一件以来……サイキックを扱うようになって、自分自身に大きな変化が訪れていることを――――

 蒼白く輝く刀身が、太刀筋にりんこうを振りまいて虚空を舞い、鋭い斬撃が禍々しい赤紫の巨体に迫る。

 強烈な斬撃が赤紫の巨体を引き裂き、その感触が超加速したダーンの腕に伝い、肉を引き千切る衝撃波の轟音は加速されていない大気を鈍く震わせ、加速強化された聴覚には水中での音のように感じさせた。

 そして――――

 禍々しい魔力により生み出された哀れなムカデは、自身の体感時間が十分の一秒にも満たない一瞬に輪切りにされ、斬られた瞬間に刀身から放たれるおろし金のような真空刃に内部組織をズタズタに破壊される形で絶命した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...