超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第三章  蒼い髪の少女~朴念仁と可憐な護衛対象~

第三十二話  精密射撃

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 迫る巨大な鎌を素早いステップで左右に躱しつつ、カマキリの魔物へと《衝撃銃》の光弾を撃つステフは、背後で起こった空を裂く音と重量物が大地に転げ落ちる音をいくつも耳にした。

 その瞬間、口のに笑みを浮かべる。

「流石ね……」
 
 かんたんの吐息と共に、視線を蒼髪の剣士がいる戦場に軽く走らせれば、巨大ムカデを倒したばかりの彼がこちらに視線を向けていて、蒼穹と琥珀の視線が一瞬こうさくする。

 視線を交わした直後、ダーンは一度ステフの戦っているカマキリの方に剣を構えようとしたが――――

 ステフがカマキリの胸部を二連射してその外殻を破壊し、さらに上空を旋回するカラス馬の方へけんせい射撃してやると、ニヤリと笑ってきびすを返した。

 ミランダの大地母神の力を警戒して上空を旋回していたカラス馬は、突然迫った《衝撃銃》の光弾に若干ひるみ、そこへダーンのサイキックによる真空の刃が襲いかかる。

『よろしいのですか? 彼に助力を得なくても』

 ソルブライトの言葉に、ステフは鼻を鳴らして、

「もちろんよ。この程度の敵、私一人でお茶の子さいさいよ」

『先程まで、虫が苦手と涙滲ませていた方と同一人物に思えませんね……』

「悪かったわね……って、いくら何でも泣いてないわよッ」

 言い放ちつつ、再度カマキリの胸部を狙い二連射する。

 カマキリの方は、既に胸部の外殻を修復しているようで、恐るべき回復力だが、これは昨夜の花弁の魔物と同様で、ステフにとっては織り込み済みの情報だ。

 さらに、今し方打ち込んだ光弾については、カマキリは左右の鎌のみね部分をクロスさせる形で、胸部を防護ししのいでいる。

『なかなか適応も早いですね……。《衝撃銃》の威力は確かに上がっていますが、やはりこれでは決定打となり得ません。いかがするおつもりですか』

 ソルブライトの指摘どおり、《衝撃銃》は大地母神の力を借りて新しくなった上に、どうやら《リンケージ》状態ならば、エネルギー切れにならないようなのだが、威力自体は劇的に上昇してなどいなかった。

 確かに、活力変換の効率化により、衝撃波の収束率や穿孔性能が向上しているため、今までの《衝撃銃》よりも命中精度がいい上に貫通力もあって、はるかに高性能だ。


 しかし、もともとハンドガンなのだ。


 やはり対峙する常軌を逸した魔物相手では、決定力に欠けるのであるが……ステフのその表情には余裕が感じられた。

「心配ないわよ。もう、大体終局は見えているわ、ソルブライト。ところで、この《リンケージ》って状態だから分かるのかしら……凄く不快な気分にさせる……これが、《魔》?」

 息の詰まるような不快感と、視線を背けたくなる不快感が対峙するカマキリから溢れている。

 特に、先程から狙点そてんとしている胸部から、目に見えない波動が強烈に発せられているようだ。

『その通りです。貴女が感じているのが、《魔核》から発せられている《魔》の波動……その波動を感知し、狙いを定めれば《魔核》を攻撃できますが……』

 ソルブライトが言いよどむ理由は、ステフにも理解できる。


 この《衝撃銃》でも、《魔核》を打ち抜くことは出来るだろう。

 ダーンの放つ剣技のような、《魔》を断つことに特化した攻撃ではないものの、《衝撃銃》の光弾は純粋な破壊エネルギーの波動を収束したものだ。

 さらに、その中心点には僅かながら空間すら引き裂くねじれのような理力エネルギーが存在している。

 その理力エネルギーによって、《魔核》のような物質でない存在も破壊できるように、この《衝撃銃》は設計されているのだ。


 ただし、クリーンヒット出来ればの話である。


 カマキリの《魔核》は確かに胸部にあるようだが、その急所がき出しになっているわけもなく、固い外殻に覆われている。

 威力の上がった《衝撃銃》は、確かにこの外殻を傷つけるようになったが、一発で撃ち抜く程の威力はないし、その外殻の修復速度は異常なほどの速さだ。

 だが、そんな不利な状況で、しかも苦手とする昆虫の魔物の巨体を映すステフの瞳には、恐れはおろか迷いの陰りすらなかった。

「鎌が左右二枚と……外殻を抜くのに二発……とどめの一発……」
 
 ステフは小さく呟く。

 先程から何発かカマキリに銃撃して得た感覚と、自分の射撃の技量とを天秤に掛け、最終的な戦術を組み上げているのだ。

 一方ソルブライトは、自らの新たな契約者がみつな計算の上に戦闘を組み立てていることに半ばきようたんしつつ、黙ってことの成り行きを見守ることとする。


 意を決しステフは素早くカマキリの懐に走り込み、銃を構えた。

 ステフが走り込んだその位置は、カマキリにとっては両の鎌で挟み撃ちに出来る絶好の間合いだった。

 カマキリは、その獲物の自殺行為に近い行動に細く笑みながら、絶対に逃がさないようにこんしんの力を込めて左右から大鎌を振り下ろす。


 そこへ、《衝撃銃》が火を噴いた。


 一発はカマキリの右の鎌を支える腕の関節部分、もう一発はその反対方向、左の鎌を支える関節を撃ち抜く。

 《衝撃銃》の光弾が撃ち抜いたのは、人間の身体で言えば丁度『ひじ』の部分にあたる。

 そんな巨大な鎌を振り上げていた力点に、とつじよ銃弾が着弾したことで、カマキリの両鎌は引きちぎれるように空を舞って落ちた。

 カマキリが自分の身に何が起きたのか察知する直前に、今度は胸部の外殻に向け精密な二連射がたたき込まれる。

 一発目が外殻を割り、続く二発目がその内側の筋肉組織を撃ち抜くと……せるような不快感があふれ始めた。


「あれが……《魔核》!」


 強烈に強まった不快感に眉をひそめたいところをこらえ、ステフは冷徹に狙点を絞って、引き金を引いた。

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