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第三章 蒼い髪の少女~朴念仁と可憐な護衛対象~
第三十五話 全ては勝利のために
しおりを挟む丈の短いスカートから覗く白い肌にダーンの視線を感じたステフは、銃身を抱きつつ、身をよじって太腿をかばうようにする。
そして――――
「はあ? バカなの? 死ぬの? なによその設えたようなセクハラシチュエーションはッ」
ダーンとソルブライトに素っ頓狂な声色で猛然と抗議した。
『そう言われましても……他に露出しているのは、顔や首筋くらいですけど、そちらは狙いを妨げるでしょう?』
「ふ……太腿とか触られるのだって、落ち着けないわよッ」
『いいじゃないですか……脚くらい触らせても。……一応言っておきますが、そのくらいでは何も汚れたりとかしませんよ……まあ、ある意味マニアックなイベントですが』
「この色気神器ッ、いつか絶対に分解してあげるわッ」
「あの……マジでそこしかないのか」
胸元の宝玉に息巻くステフに、及び腰になりつつも問いかけるダーン。
「だから何よ朴念仁。変なトコ触ったら、あのカラスなんかよりも先に、コイツで大穴を空けるわよッ」
顔を紅潮させつつ、非難の視線を込めて言い放ってくるステフに対し、ダーンは少しムッとする。
「…………ソルブライト、方法は他にないんだな」
『もちろんです』
「何言ってるか! ……っていうか、ソルブライト、今含み笑いしたでしょ?」
『何のことです……さあ、ダーン、《ユニゾン》ですから意識の伝達効率を考えますと、脚とはいえ当然脳に近い方を触った方が、イメージの伝達は効率がいいはずです。というか、きっと敏感です』
完全に悪ノリしているソルブライトに、ステフは顔を紅潮させて怒り心頭になり、胸元の宝玉に対して「今すぐ分解してやるッ」だの「敏感って何よッ」だのとまくし立てたが――――
ダーンは、少し冷静になって、《ユニゾン》に必要な意識の伝達についてふと思考を巡らす。
こうして、ステフと契約したソルブライトと、念話で会話が可能と言うことは――――
「なあソルブライト……少し悪ふざけが過ぎるんじゃないか。本当は君を介せば……」
『あら……つまんないですね。気がついてしまいましたか……』
そう、ソルブライトは念話によってダーンとステフに意思伝達しているのだ。
念話は、無線の波長と同じく、同調した波長の思念波でなければ伝わらない。
ソルブライトは、念話でこちらに意思を伝達する際、ダーン達の思念の波長に同調させているのだろう。
それが出来ると言うことは、つまり、《ユニゾン》の情報伝達もソルブライトを介せば、べつに直接肌を触れている必要はなく出来るのではないかとダーンは考えたのだ。
『ただし、今のあなた方の実力では、《リンケージ》は必須ですし、さらに直接肌にとまでは言いませんが防護服には触れていて下さい。《ユニゾン》は念話とは情報の量も精度も圧倒的に高度なものになりますから、物質を通じて直接に情報流通させる方が確実です』
ソルブライトの解説にダーンは頷き、左手をステフの背中に差し向ける。
「こんな感じか」
「ひゃあっ」
背中にダーンの手が触れて、防護服というわりには薄い生地ごしに彼の少しゴツゴツした掌の感触が伝わり、ステフは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「十分セクハラな気もしますね」
カラス馬の掃射が止んでいる隙に、ステフ達のやり取りを覗っていたミランダが少し呆れたように呟いた。
『はい。……本人にその自覚がないのが最悪です』
さっきまでセクハラを助長するように悪のりしていたソルブライトが、しれっとダーンを非難する。
「あ……俺、なんか悪いコトしたのか」
女性陣に何だか非難され、ステフの華奢な背中に触れたまま気まずい汗を頬に伝わらせるダーン。
そんな彼に背中を触られたままのステフは、少し鳥肌が立つような感覚に身震いを覚えつつ、首だけで振り返り、非難の視線を後ろにいる朴念仁に投げつけた。
「あのねェ……いきなり背中触るって……アンタにはデリカシーっていう概念はないの? それに、背中だって、狙撃するにはちょっと気になるんだけど」
「うっ……すまん」
「ったくもうッ……いいわ、時間もないしこのまま狙うから……時間の加速イメージをお願い」
「……了解だ」
ダーンの返答の直後、触れられた背中から、ダーンが感じている世界の摂理の波、時間の流れの認識が伝わりはじめ、ステフは初めて味わう感覚に、一瞬酔いそうになった。
周囲の風が止み、回りの全てがとてつもなく緩慢に感じられるようになる。
「これが《固有時間加速》……」
呟いて、ステフは銃を構え、ほとんど止まっているようにしか見えないカラス馬をスコープでのぞき見ると、照準を定めようとした。
すると、彼女の認識していた周囲の世界がさらなる変化を遂げ始める。
実際に変化したのは、ステフ自身の知覚なのだが、その知覚は人の領域を超え、風の動きや大気の鳴動、さらには、惑星の自転による空間の歪みまでもが、肌の感覚として感じられるようになっていた。
また、引き金にかけた指先から、引き金を引けば、銃の内部で理力カートリッジから伝達したエネルギーが銃の炉心で衝撃波に変換され、さらに余剰理力エネルギーが、精製された衝撃波に指向性と、中心へ収束し続ける螺旋を生み出させる行程が、はっきりと予知として認識出来ていた。
さらにスコープを覗く瞳に映ったのは、回避しようとするカラス馬の動きと、放った衝撃波の弾道が重なり合う、まるで一瞬未来の光景だった。
――確かに、言われてみればこれはサイキックの力の一種ね……ただ、こんな風に未来まではっきりと見えたのは初めてよ。
恐らくは、ステフが普段射撃の際に無意識に発動していた命中補正の為の意志の力と、《ユニゾン》により伝達されてくるダーンの発動した《固有時間加速》のイメージ掛け合わされて、《予知》という上位サイキックとして変化し発動したのだろう。
『なるほどな……でも、こんなにはっきりと先読みが可能だなんて、俺の剣術にも使える』
ステフの思考にダーンの思念が重なってきた。
そう言えば、《ユニゾン》が上手くいっているということは、意識の伝達、すなわち念話も可能なわけで、先程の一人思案したこともダーンに伝わっていたようだ。
何となく、無断で心の中を覗かれた気分になり、ステフはムッとして次の念を彼に送り込む。
『多分、時間加速で一瞬のうちに多数の状況予測をして、その予測を、止まって見えるような現実の事象変動に対象比較することで、一瞬先の未来予測の精度を上げているのよ。そしてさらにその行程を積算することで、数秒先の未来を予見出来ているのね』
『……なるほどな…………まったくわからないぞ』
『ええ、そうね。わからないように教えたもの』
からかうように思念を伝え、先程の溜飲を下げたステフは口元を緩めた。
『やれやれ……早く決着にしようぜ』
『はいはい……』
少しむくれた感じの思念にクスクスと笑いたい気分のまま、ステフは再度スコープをのぞき《ユニゾン》で発動したサイキック、《予知》で補正した状態の照準を定める。
加速した時間の中、一気に引き絞るはずの引き金にかかる指先が――――一瞬だけ引き金から離れた。
そして、ステフの指や手のひらに、ほんの数時間前感じたたてがみの感触が蘇る。
この遺跡までの道中、小川のほとりで小休止した際のことだ。
最初はおっかなびっくりだったが、ダーンに教えられた方法で、ブラシを使い毛繕いをしてやると、優しく嘶いて喜びを伝えてきた。
思っていた以上に、人と心を通わせる一時の旅の仲間は、かつて夢にまで見ていた少女の旅路に思いもしなかった風情を与えてくれたのだが――――
――ごめんなさい……。
スコープの中、一瞬先の未来――――カラス馬の肉体を無惨に穿ち、その奥にある《魔核》に収束した強力な衝撃波がヒットすることを確信して、少女は引き金を引いた。
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