赤い目の猫 情けは人の為ならず

ティムん

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第十話 お酒

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 まぁ、当然俺の声が聞こえるはずもなく、女の子は扉を開けた。軋む音をたてながら扉が開き、女の子は家の中に入った。

 俺は扉の横の小窓からこっそりと家の中を窺う。気分はさながら、色んな事件を覗き見る家政婦だ。

「ただいま……」

 女の子が小さな声でぽつりとつぶやく。その声は頼りなさげで微かに震えていた。両手で持った紙袋がくしゃりと音を出す。

 すると、家の奥から足音が近づいてきた。それと同時に酒の匂いも漂ってきやがる。あぁくせぇ。廊下の角から姿を現した足音の主は、男だった。年齢から判断するに、この女の子の父親だろう。

「ちっ、こんな時間まで何してやがった。愛衣」

 男は見て分かるほどに酔っていた。真っ赤な顔にふらつく足元。手には酒瓶を握りっぱなしだ。ったく、ダメな大人の見本みてぇじゃねぇか。親が子供に見せていい姿じゃねぇぞ。

「ごめんなさいお父さん……あの、これ……」

 女の子、いや愛衣ちゃんはビクつきながらも手に持った小さな紙袋を差し出した。

「ぷ、プレゼント……。明日、お父さんの誕生日だから……」
「あぁ? そうだったか?」

 男は紙袋から中身を乱暴に取り出しやがった。出てきたのはビーズでできたブレスレットだ。少しいびつなのは、愛衣ちゃんの手作りだからだろうよ。
 可愛らしいそれは、大人の男にゃ不似合いだろうが、世の中の父親にとっちゃ、最高のプレゼントのはずだ。なにせ、可愛い娘の手作りなんだからな。

 だが、こともあろうにこの男は、ブレスレットを引きちぎって愛衣ちゃんに投げつけやがった。

「こんなもん付けられるか!! 要らねぇよ!!」
「痛っ、ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」

 愛衣ちゃんはほっぺたを抑えて蹲り、涙ながらに謝り続ける。それを見た男はさっと顔色を変えた。さっきまでが熟れたトマトだとしたら、今はさしずめ大根、いや、モヤシだな。顔を真っ白にして焦りで彩っている。

「わ、悪かった愛衣。痛かったよな、ごめんな。ごめんな」
「ぐすっ……ぐすっ……」
「ごめん。ほんとにごめん。酒飲むと頭に血が上って抑えられなくなるんだ。ほんとにごめんな。プレゼントありがとうな」

 男は愛衣ちゃんを抱きしめながらぶつぶつ呟くように謝る。
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