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第一章 幼少期

第四十一話 落とし穴

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「ふぅ、そろそろ終わりにしましょうか~。魔力もなくなってきたし~」

 太陽が傾き、辺りが夕焼けに染まった頃、母さんが息を吐く。

「そうだね。でも一日でこの量だと魔物の襲撃には間に合わないかも……」
『俺達の魂が回復して鉄を出せるようになる前に魔物どもが来るだろうしな』

 僕達の前には針金状になった鉄がくるくると巻かれた状態で大量に置いてある。だが、その量は想定していた量よりもはるかに少ない。
 実は、針金状に形を変えるのは今の僕の魂の状態ではできず母さんに頼ったんだが、そうすると魔力が足りなくなってしまったのだ。

「ごめんなさいね~。鉄の形を変えたら三日じゃ足りないって言い忘れてたわ~」

 困ったな、針金を作った後にも作業があるのに……なにか方法を考えないと。

「おぉーい。ソーマー!」

 僕が考えにふけっていると、遠くから父さんの声が聞こえてきた。父さんは凄い勢いで土を巻き上げながらこっちに来ている。スコップで穴を掘りながら走ってきているのだろう。
 父さんは僕達の前に来ると、スコップを近くに突き刺す。

「ソーマ、穴はこんなもんでいいか?」

 父さんはスコップを取りに戻った後、もう一度僕の所に来て必要な穴のサイズを聞き、そのままスコップで掘り始めてしまったのだ。あっという間に父さんは見えなくなり、後に出来るのは父さんに伝えたサイズ通りの穴。
 あれ? 父さんは左に向かって掘り進めて行ったはずのにどうして右から来たんだろう。

「父さん? どうしてここに?」
「どうしてって、村一周してきたからに決まってるだろ」
「何かトラブルでもあって掘るのをやめて一周してきたの?」
「何言ってんだよ。俺は言っただろ? 一日あれば掘り終わるって」

 父さんは少しドヤ顔をしながら言う。
 確かに言ったけど、ほんとにできるなんて! でも父さんが嘘つく理由なんてないしね。父さんが終わったって言うんならそうなんだろう。

「凄いね……そういえばスコップでの一掻きが異様に大きかった気がするけど、そのおかげ?」
「あぁそうだぞ。こうやってスコップに魔力を通して――」

 父さんはスコップを手に取り、空に向ける。

「スコップの刃の部分を伸ばすように意識しながら魔力で刃を形作ると――」

 スコップの刃の先に、半透明な刃が生まれる。その刃は徐々に大きくなり、やがて元の何十倍にもなる。

「巨大なスコップの出来上がりってわけだ」

 父さんは地面にその大きなスコップを突き刺し、土を掘ってみせる。半透明な部分にもしっかりと土が乗っている。

「ま、元々は武器のリーチを伸ばすための技術なんだけどな。それを応用したんだよ」
「凄いね、魔力にこんな使い方があったんだ」
「おう、すげーだろ! これと身体強化魔法を併用して穴を掘ったんだ」
「なるほど……だからこんなに早く終わったんだね」
「それでも一日中穴を掘るってのはなかなかしんどいな。良い訓練になりそうだ」

父さんは額に浮かんだ汗を拭いながらそう言う。
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