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第一章 幼少期

第六十九話 一掃

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 はっ、じゃあ同じ規模の魔法を使ったフューは!?
 僕は慌ててフューを探す。僕の心配をよそに、フューは柵の上にいて、自分の活躍を誇るように胸を反らし、僕を見ていた。

「フューちゃんは……やっぱり魔力が多い、のね~……」

 なるほど、魔力量が違うからフューは平気だと。いや、よく見ると少し疲れているような気もする。いつもより体に艶がない、ような?

「フューもお疲れ様、凄かったよ」

 僕はフューを抱き上げ、労をねぎらいながら魔力を譲渡する。魔力を注いでいくにつれ、フューの体が心なしかテカテカとしていく。
 フューの肌の艶は一種のバロメーターなのかな?

「それにしても、上手くいってよかったね」
「そうねぇ~。お父さんが頑張ってくれたおかげね
 ~」
『半ばヤケクソになって穴掘ってたからな』

 そう、地面が崩壊した理由は父さんが穴を掘ったからなのだ。実は父さんに頼んだ穴掘りは、柵の周りの落とし穴だけでなかった。そこから少し離れた所の地下も掘ってもらった。

 簡単に言うと、崩壊した地面の下を空洞にしてもらったのだ。下に何も無い地面は非常に崩れやすくなっている。魔物達が踏み鳴らしても辛うじて耐えきれる程度の強度はあったが、そこに母さんの魔法の衝撃が加わると耐えきれるはずもない。

 地面は崩れ、魔物達は真っ逆さまに落ちていく、というわけだ。しかも落ちたは空洞で母さんの魔法により水で満たされている。落下の衝撃こそあまり無いものの、水流に呑まれパニック状態だ。
 そこにトドメとばかりにフューの氷魔法。冷静な判断が出来なくなっている魔物達はなす術もなく、氷によって閉じ込められてしまったのだ。

 そしてついでとばかりに、母さんの魔法は落とし穴のゴミ掃除も完了させてしまった。

 目の前の仲間達が一瞬のうちに水の中に閉じ込められ、更に仲間の犠牲でやっと出来た道すらも奪われてしまった魔物達には、ほんの少しの同情を抱かざるを得ない。

 さて、その魔物達はと言うと――逃走を始めていた。
 これは仕方が無いことなのかもしれない。さっき述べた通り、彼らは仲間を大勢失ったにも関わらず、振り出しに戻されたようなものなのだ。
 勝てないと考え、逃げるのも生物としては仕方ないだろう。

 だが、魔物軍の司令官であるスコルが、そんなことを許すはずもなく、何度も吠えて戦うよう指示を出す。
 よほどスコルが恐ろしいのか、はたまたフラムにかけられているであろう魔物を従える魔法のせいなのか、渋々戦いを再開する。
 とはいえ、先ほどの恐怖は拭えないのか、どこか及び腰だ。明らかに攻める勢いが衰えている。

『これなら勝てるかもしれねぇな。懸念材料だったスコルも動く様子がねぇし』

 ソルの言う通り、スコルは離れた丘から遠吠えなどで指示を出すだけで動く素振りはない。

 ……それっておかしくないかな? なんで明らかに劣勢なのに救援に来ようともしないんだ? すぐにフューの氷を壊せば、助かる仲間もいるだろうに。
 なにか離れられない理由でもあるのかな? 
 例えば――守るべき対象がいるとか。
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