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第一章 幼少期

第八十四話 ヒーロー

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 僕は魔物達の頭を足場にし、蹴っ飛ばしながら柵を超える。驚く村人の声が聞こえてくるが、相手をしている暇はない。

 柵を飛び越え、村の中に着地すると村の大人達が僕に近づいてきたが、僕はそれらを無視し、避難所に向かって再び走り出した。

 走り出してすぐに、僕が鉄で補強した避難所が見えてきた。同時に、その避難所から逃げ出してくる女子供おんなこどもの姿も見えた。
 魔物達の襲撃は既に始まっているようだ。

 セリア……! どうか無事でいてくれよ……!!

 逃げる人々を追いかけて、魔物が避難所の中から出てきた。逃げている人と魔物の距離はほとんどなく、今にも追いつかれてしまうだろう。

 それは許せない。誰一人死なせないと決めたんだ。

「フュー! 頼んだよ!」

 僕は頭の上のフューを思いきり投げ飛ばした。フューは空を舞いながらもしっかりと魔法を使う。土の刃が魔物達を襲う。魔物達はそんな不意打ちに対応できず、ほとんどが直撃を受け倒れた。

 村人達は当然の出来事に驚きながらも、その足を止めなかった。彼らが向かうのは、父さんのいる場所のようだ。それは正しい判断だろう。避難所が襲われた今、一番安全なのは父さんの近くなのだから。

 僕は逃げる人の中にセリアがいないか、よく探した。だがその姿を見つけることは叶わなかった。

「もしかしてまだ中に!?」

 避難所の前まで来ると、中から誰かが戦っている音が聞こえる。だが、何かがおかしい。聞こえてくる音は武器同士がぶつかった金属音というより、炎が燃える音や、雷の音、風が吹く音などなのだ。
 もしかして――セリアが魔法を!?

 僕はフューに残りの魔物を任せると、避難所の中に入った。

 中に入った僕の目に映ったのは――両手を広げ、倒れている人を庇っているセリアの姿だった。足はガクガクと震えているのに、目はしっかりと襲ってくる魔物を見ている。

 あぁ、凄いな、セリアは。あんなに怖がっているのに魔物と戦っている。両親に嫌われるのをあんなに恐れていたのに、嫌われるのを覚悟して魔法を使ったんだ。
 倒れている人――自分の母親を守るために。

「もう大丈夫だよ。よくやった、セリア」

 僕はセリアに襲いかかっている魔物を、刀を横に薙ぎ払あ、一刀両断した。セリアに背中を向けるように立ち、刀を構える。

「あとは任せて」
「そ、ソーマ!」
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