獣人国の留学生

二ッ木ヨウカ

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12 お宅訪問

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 アルハヴトンに腕を強く引かれ、店の外に連れ出される。閉まる扉のガラスの向こうに、泣きそうな顔をしたウェイターと、厨房の奥からこちらを睨みつける店長らしき人間がえた。

「……ご、ごめん、アル……」

 何と謝ればいいか分からなかった。ただ食事をしたかっただけなのに、なんでこんなことを言われなければいけないんだろう。毛なんて人間だって落とすし、アルハヴトンは不潔なんかじゃないのに。叫び出しそうな気持を堪えてバッグを握りしめると、柊斗の背中にアルハヴトンの大きな手が触れた。

「よくあることなんだ。私こそ伝えずに済まなかった」
「よ、よくある、って……そんな……」

 こんな差別がそこら中に転がっているというのか。だから普段は教室で買ってきたものを食べていたし、さっきも躊躇した雰囲気だったのか、と柊斗は思い至った。

「まだ、柊斗のように我々をよく知ってくれている人は少ない。誤解しているだけだろうし、気にしてないよ」
「……んなはず、ないだろ」

 こんなに面と向かって「人として認めていない」と言われて傷つかないはずがない。ありがとうな、と低く囁いたアルハヴトンの手が、柊斗の背中を撫でる。

「あ、そうだ」

 ぱちん、と手を叩いたマナギナが、アルハヴトンに何やら耳打ちした。なるほど、と頷いたアルハヴトンは、くしゃりと柊斗の頭を撫でた。

「代わりと言っては何だが、今から家に来ないか? 簡単なもので申し訳ないが、グラルガグラの料理をご馳走しよう」



ここが私の家だ、とアルハヴトンに案内されたのは、学校の最寄り駅近くにあるタワーマンションだった。当然のように高層階に案内され、夜景の見えるリビングに通される。どっしりとした設えのダイニングテーブルに、装飾の細かいシャンデリア。リビングダイニングの時点で自分のワンルームより広い部屋に柊斗は恐れおののいたが、考えてみれば現在グラルガグラ王国と人間界を行き来できるのは限られた人数のみである。そこを留学に来たのだから、アルハヴトンが貴族や資産家の子息なのはむしろ当たり前かもしれない。

(まあ、どんな家柄だとしてもアルはアルなんだし、態度を変えるのも変だよな)

そう思いなおし、マナギナに振舞われたグラルガグラ料理を食べているうちに柊斗はすっかりくつろいだ気分になっていた。

「すっごくおいしかったです、ごちそうさまでした!」
「お口に合ったようで何よりです」

柊斗が手を合わせると、向かいに座ったマナギナが破顔した。獣人料理、と聞いてワイルドなステーキなどを柊斗は想像していたが、実際に出てきたのは薄味のさっぱりした料理だった。素材の旨味が活きた蒸し魚やチーズの乗ったサラダなど、満腹になるまで食べてしまった。
客人には何もさせない、のがグラルガグラ流らしい。テキパキと食後の食器を片付けているマナギナを見守っていると、アルハヴトンがぐい飲みのような大きさのグラスと琥珀色の液体を入れた瓶を棚から取り出した。

「柊斗、こっちにおいで」

 誘われるままに大きなソファに腰を下ろすと、全身が埋もれてしまいそうなほどに沈みこんだ。

「うわっ!」

 思わず柊斗が叫び声を上げると、アルハヴトンが笑いながら手を引いて抱き起こしてくれた。座りなおすと、先ほどのぐい飲みをアルハヴトンに渡され、中に液体を注がれる。もう少し飲もう、というのだろう。そのぐい飲みがアルハヴトンと自分の手にしかないことに柊斗が気付くのと、「それではごゆっくり」とマナギナの声が聞こえたのは同時だった。柊斗が振り向くと、パタンと玄関の扉が閉じる音がした。

「……え? あれ、マナギナさん?」

 何かあったのだろうか。突然部屋を出て行ったマナギナに驚いていると、アルハヴトンの手が柊斗の手にかかった。強い力で抱き寄せられる。

「ああ、マナギナは隣の部屋に住んでいるんだ。気を使ってくれたんだろう」
「と、隣の部屋……?」

 肩口に触れるアルハヴトンの温かさと発言の内容に、柊斗の頭の中はパニックになった。いつも一緒に行動していて、部屋まで隣って。考えてみればさっきマナギナは当然のようにアルハヴトンのキッチンで料理していたし、それってやっぱり。動揺のあまり手に持ったグラスの中身を飲み干すと、熱い液体が喉を伝っていくのが分かった。

「あ、あのさっ、アル……アルとマナギナさんって、どういう関係なの?」

 グラスの縁を眺めながら、柊斗はずっと抱えていた疑問をようやく口にした。本当は「マナギナさんはアルの運命なのか」と質問したかったが、それはどうしても口に出せない。

「そうだなあ……ううん、家族、のようなものかな」

 右側から聞こえてくるアルハヴトンの声は滑らかで優しくて、柊斗はそちらに目を向けられなかった。じっとぐい飲みを握りしめていると、琥珀色の液体が小さな音を立てて注がれる。
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