そばにいる人、いたい人

二ッ木ヨウカ

文字の大きさ
2 / 31

2

しおりを挟む
「そんなことがあったのか」
「うん。それで、それから……何してても須野原先輩のこと思い出しちゃうし、そうするとすごく落ち着かない気持ちになって……す、好きってこういうことなのかな、って」
「へぇ」

 樹の話を聞いた淳哉が、一瞬だけまた顔をしかめた気がした。だが、組んだ指先に落としていた視線を樹が上げると、淳哉は面白げに目を細めていた。

「イツキの初恋だな」
「え、ちょ、そ、そんな……そうかもしれないけどっ、やめてよ」

 他人に言われると恥ずかしいことこの上ない。熱を持つ頬を両手で隠すと、「そんな恥ずかしがることないだろ」と小さな笑い声が聞こえた。

「も……もうっ! ジュンのばか!」
「なんでだよー、話してきたのイツキからなのにー」

 淳哉の顔を直視できず、食べ終わった食器を持って立ちあがる。足早に食堂を出ると、十一月の乾燥した風が樹の細い髪を揺らした。後ろから追ってきた淳哉の足音が樹に並ぶ。

「笑ったりして悪かったって」

 そういう淳哉の声には、まだ少しからかうような響きがあった。少しの不満を込めて隣を見上げると、目の前に樹のスマホが差し出される。

「ほら、先行くのはいいけどスマホ忘れてってんぞ」
「あ、ありがと」

 ちゃんとしまっとけよ、と樹の鞄にスマホを入れてくれる淳哉を見ているうちに、少し拗ねていた気持ちがしおしおと萎びていく。ごめん、と呟くと、淳哉は不思議そうに見下ろしてきた。
この後の授業は一緒だ。二人で四限の教室に向かっている最中も、樹の頭の中は須野原がちらついて仕方なかった。すべすべした指の感触やあの甘い匂いが、どうしても脳裏から離れていかないのだ。

「ねえ、ジュン」
「なに?」
「須野原先輩ともっと仲良くなりたいんだけど……どうしたらいいかな」
「ええ?」

 まだその話か、と思われたのか、淳哉は呆れたような声を発した。そうだなあ、と顎に手を当て、首を傾げる。

「また被ってる授業の時に隣に座って話しかけてみるとか、授業後の飲みに誘ってみるとか、最初はそんなんじゃないか?」
「そっか、なるほど」

 当たり前と言えば当たり前だ、と思いつつ淳哉のアドバイスに樹は頷いた。なんせ誰かを意識するのなんて生まれて初めてである。この気持ちにどう対処したらいいかわからなかったのだ。

「じゃあ、次の幾何の授業も被ってるから、そこで飲みに誘ってみる……っていうのはどうだろう」
「いいんじゃないか?」

 話しているうちに講義室についた。室内を見回すと、パラパラとまばらに学生が座る中ほどに、須野原が座っているのが見えた。今日もパリッとしたシャツを着て、高そうな洒落たボールペンを持っている。

「ほら、行って来なよ」

 今日も格好いい。見惚れていると、ぽんと淳哉に背中を叩かれた。

「あ、っ、が……頑張る」
「応援してるよ」

 低く囁かれたエールに背中を押されるように、樹は須野原のもとに向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

寡黙な剣道部の幼馴染

Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

恋文より、先にレポートが届いた~監視対象と監視官、感情に名前をつけるまで

中岡 始
BL
政府による極秘監視プロジェクト──その対象は、元・天才ハッカーで現在は無職&生活能力ゼロの和泉義人(32歳・超絶美形)。 かつて国の防衛システムに“うっかり”侵入してしまった過去を持つ彼は、現在、監視付きの同居生活を送ることに。 監視官として派遣されたのは、真面目で融通のきかないエリート捜査官・大宮陸斗(28歳)。 だが任務初日から、冷蔵庫にタマゴはない、洗濯は丸一週間回されない、寝ながらコードを落書き…と、和泉のダメ人間っぷりが炸裂。 「この部屋の秩序、いつ崩壊したんですか」 「うまく立ち上げられんかっただけや、たぶん」 生活を“管理”するはずが、いつの間にか“世話”してるし… しかもレポートは、だんだん恋文っぽくなっていくし…? 冷静な大宮の表情が、気づけば少しずつ揺らぎはじめる。 そして和泉もまた、自分のために用意された朝ごはんや、一緒に過ごすことが当たり前になった日常…心の中のコードが、少しずつ書き換えられていく。 ──これは「監視」から始まった、ふたりの“生活の記録”。 堅物世話焼き×ツンデレ変人、心がじわじわ溶けていく、静かで可笑しな同居BL。

処理中です...