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愛しい人の、身代わりに
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行かないで欲しい。だが、そんなことを言う権利はコーディエにはない。ダイモンを困らせたくもなかった。
自分は狡い人間だ。そう思いながら、コーディエは少し視線を彷徨わせ、空になった皿を見つめた。
「なあ、ダイモン。飲んで……君と、寝たら、昔のことを忘れられるかな」
ぎょっとしたようにダイモンの足が机にぶつかり、エールの瓶が倒れた。
「いきなり……どうしたよ、コーディー」
「いや……昼間、言ってただろ。『一晩飲んで騒いで抱いて、ぱあっと忘れちまえ』って」
「言ったけど、いや……」
本当は、忘れたいわけではない。それよりも、一度でいいからダイモンと触れ合いたかった。それすら言えず、昼間の言葉を引き合いに出して一晩の関係を迫るなんて、なんて卑怯なのだろうと思う。瓶を立て直し、濡れたテーブルを拭くダイモンの指先を見つめる。
しばらくの沈黙の後に、瓶に残ったいくらかの酒をダイモンも飲み干した。
「そうだな……言ったな、うん」
「ん……」
どこか覚悟を決めるような、これまでとは違う、低い声。
「……酔ってるだろ、コーディー」
「いや……ああ、うん、そうかもしれない」
「……寂しかったんだな」
「うん……」
立ち上がったダイモンの手の甲がコーディエの頬に触れ、熱さを確かめるように撫でていった。まだ頭ははっきりしていたが、酔ったふりをして笑う。
逃げ道を作ってくれているのだろう、と思った。
ダイモンが誘ったから。酔っているから。寂しかったから。だから、コーディエは悪くないのだ、と。
後でコーディエが後悔や自己嫌悪に苛まれて傷つかないように。
優しい人だ、と思いながらコーディエは立ち上がった。粗野で馴れ馴れしいのはその通りなのだが、その中には人の弱さも包み込んでくれる部分がある。
彼の生まれ育った海辺も、こんな明るい土地なのだろうか。いつか行ってみたい所が増えたな、とエメラルドの海を想像する。
「何年ここに引きこもってんだ?」
「五年くらい……かな」
「そんなに引きずってんのかよ」
そうだよ、と答え、ダイモンの手に指を絡める。向かった寝室の中は、ひやりと冷たい月明かりが薄く照らしていた。ランプを点けようと杖を出すと、ダイモンがその手を止めてきた。
「……暗い方がいいだろ。見えにくいから」
「あ、ああ……」
どういう意味か分からないまま頷き、ローブを脱ぐ。裸になったところで、ダイモンの手がコーディエの股間に伸びてきて、緩やかに膨らんだ部分に触れた。大きな手に軽く揉まれて、みるみるうちに硬度を増していく。
「どうして欲しい?」
「あー……っ、入れて、くれ」
耳元で囁かれる声は、いつも聞いているダイモンの声より獰猛で艶がある。ふいに目の前の男が別人になってしまったような戸惑いを覚えながら、コーディエは挿入される方を選択した。そちらはあまり好きではなかったが、ダイモンに負担を掛けたくなかったし、どこか彼の親切心につけこんでいるような後ろめたさがあった。
「分かった」
答えたダイモンに、優しくベッドに押し倒される。うつぶせにされたので軽く尻を上げ、指先を突っ込んで中を魔法で潤す。
偉い、とでもいうようにダイモンの手がコーディエの頭に置かれた。そのまま、その手が肩や背中、腕を撫でていく。
「なあ、コーディー、前の奴は……お前のこと、なんて呼んでた?」
「……君と同じように、コーディー、と……」
「そうか、なんていう名前だったんだ?」
「トマス……」
「じゃあ、今晩は……俺をそう呼べ」
「……えっ」
コーディエが振り向こうとすると、後ろから回されたダイモンの手が目を覆った。口の上側を舐められ、くぐもった声を上げる。
(この人は、彼の……代わりをしようとしているんだ)
暗い方がいいという言葉の真意をようやく理解して、コーディエはシーツを握りしめた。
コーディエが人との関わりを断っていたのは前の恋人を忘れられないからだと考え――だから、一時の夢を見せてくれようとしているのだろう。
「ダイモン、わ、私はそんなつもりじゃ……」
「トマス、だろ?」
少し汗ばんだ手の向こうから聞こえてくる声は硬質的で、跳ね返されるような響きにコーディエはそれ以上言葉を紡ぐのが怖くなった。これ以上何を言っても、彼の心に伝わらない気がした。
戸惑っているうちに外れた手が、コーディエの胸元の突起に触れた。あっ、と漏らしてしまった小さな声を慌てて飲みこむ。
酷いことをされたとは思っているものの、コーディエの中にトマスのことを今でも恋しく思う気持ちがあることは否定できない。だが、今コーディエが欲しいのはダイモンだった。他の人のことを考えて喘いでいるなんて思われたくない。ましてや別の名前で呼ぶなんて。
自分は狡い人間だ。そう思いながら、コーディエは少し視線を彷徨わせ、空になった皿を見つめた。
「なあ、ダイモン。飲んで……君と、寝たら、昔のことを忘れられるかな」
ぎょっとしたようにダイモンの足が机にぶつかり、エールの瓶が倒れた。
「いきなり……どうしたよ、コーディー」
「いや……昼間、言ってただろ。『一晩飲んで騒いで抱いて、ぱあっと忘れちまえ』って」
「言ったけど、いや……」
本当は、忘れたいわけではない。それよりも、一度でいいからダイモンと触れ合いたかった。それすら言えず、昼間の言葉を引き合いに出して一晩の関係を迫るなんて、なんて卑怯なのだろうと思う。瓶を立て直し、濡れたテーブルを拭くダイモンの指先を見つめる。
しばらくの沈黙の後に、瓶に残ったいくらかの酒をダイモンも飲み干した。
「そうだな……言ったな、うん」
「ん……」
どこか覚悟を決めるような、これまでとは違う、低い声。
「……酔ってるだろ、コーディー」
「いや……ああ、うん、そうかもしれない」
「……寂しかったんだな」
「うん……」
立ち上がったダイモンの手の甲がコーディエの頬に触れ、熱さを確かめるように撫でていった。まだ頭ははっきりしていたが、酔ったふりをして笑う。
逃げ道を作ってくれているのだろう、と思った。
ダイモンが誘ったから。酔っているから。寂しかったから。だから、コーディエは悪くないのだ、と。
後でコーディエが後悔や自己嫌悪に苛まれて傷つかないように。
優しい人だ、と思いながらコーディエは立ち上がった。粗野で馴れ馴れしいのはその通りなのだが、その中には人の弱さも包み込んでくれる部分がある。
彼の生まれ育った海辺も、こんな明るい土地なのだろうか。いつか行ってみたい所が増えたな、とエメラルドの海を想像する。
「何年ここに引きこもってんだ?」
「五年くらい……かな」
「そんなに引きずってんのかよ」
そうだよ、と答え、ダイモンの手に指を絡める。向かった寝室の中は、ひやりと冷たい月明かりが薄く照らしていた。ランプを点けようと杖を出すと、ダイモンがその手を止めてきた。
「……暗い方がいいだろ。見えにくいから」
「あ、ああ……」
どういう意味か分からないまま頷き、ローブを脱ぐ。裸になったところで、ダイモンの手がコーディエの股間に伸びてきて、緩やかに膨らんだ部分に触れた。大きな手に軽く揉まれて、みるみるうちに硬度を増していく。
「どうして欲しい?」
「あー……っ、入れて、くれ」
耳元で囁かれる声は、いつも聞いているダイモンの声より獰猛で艶がある。ふいに目の前の男が別人になってしまったような戸惑いを覚えながら、コーディエは挿入される方を選択した。そちらはあまり好きではなかったが、ダイモンに負担を掛けたくなかったし、どこか彼の親切心につけこんでいるような後ろめたさがあった。
「分かった」
答えたダイモンに、優しくベッドに押し倒される。うつぶせにされたので軽く尻を上げ、指先を突っ込んで中を魔法で潤す。
偉い、とでもいうようにダイモンの手がコーディエの頭に置かれた。そのまま、その手が肩や背中、腕を撫でていく。
「なあ、コーディー、前の奴は……お前のこと、なんて呼んでた?」
「……君と同じように、コーディー、と……」
「そうか、なんていう名前だったんだ?」
「トマス……」
「じゃあ、今晩は……俺をそう呼べ」
「……えっ」
コーディエが振り向こうとすると、後ろから回されたダイモンの手が目を覆った。口の上側を舐められ、くぐもった声を上げる。
(この人は、彼の……代わりをしようとしているんだ)
暗い方がいいという言葉の真意をようやく理解して、コーディエはシーツを握りしめた。
コーディエが人との関わりを断っていたのは前の恋人を忘れられないからだと考え――だから、一時の夢を見せてくれようとしているのだろう。
「ダイモン、わ、私はそんなつもりじゃ……」
「トマス、だろ?」
少し汗ばんだ手の向こうから聞こえてくる声は硬質的で、跳ね返されるような響きにコーディエはそれ以上言葉を紡ぐのが怖くなった。これ以上何を言っても、彼の心に伝わらない気がした。
戸惑っているうちに外れた手が、コーディエの胸元の突起に触れた。あっ、と漏らしてしまった小さな声を慌てて飲みこむ。
酷いことをされたとは思っているものの、コーディエの中にトマスのことを今でも恋しく思う気持ちがあることは否定できない。だが、今コーディエが欲しいのはダイモンだった。他の人のことを考えて喘いでいるなんて思われたくない。ましてや別の名前で呼ぶなんて。
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