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若きユーミルの苦悩
若きユーミルの苦悩.3
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ただひたすらに、夢中になって魔法を学び続けていた二年生までは気が付かなかったが、いざ二十歳を目前にして卒業を意識する頃になると、否が応でも綺麗ではない大人の世界というものが解るようになってくる。
やれ、どこの貴族の家柄は王室にツテがあり、こっちの生徒の親は別の魔法学校の教頭を務めているから将来は安泰だという様々な情報が噂レベルで飛び交い、有名な魔法士になればなるほど、家柄や後見人という古いしきたりに縛られているのだということを、はっきりと思い知らされた。
この世界では、単純に、上手く魔法を使い、マナを操れる者が出世していくのではない。血筋、家柄、身分、裕福かどうかという指標は、学園の生徒の中に、確実に目に見えないヒエラルキーを生み出していた。
大魔法士として成功し、身を立てるには、何かしらのコネクション・後ろ盾が必要。しかし、無名の貧しい家に生まれたユーミルには、たとえ優秀な成績で学園を卒業したとしても、後ろ盾となる存在がいないのだ。
もしも自分が、他の生徒を、教授達をも唸らせるほどの、圧倒的な大魔法を使いこなせたら。
そうなれば話の流れは少しは変わるのかもしれなかったが、漲る自信と魔法の力はどうも直結しているらしく、最近は、教師に与えられた課題を上手くこなせずに叱られることも増えてきていた。
そしてもうひとつ、ユーミルの心をぐらぐらと不安定にさせる要素がある。
少し前、つい暗い考え事に沈んでいて、うっかりと課題となるポーションの提出を忘れてしまったユーミルの前で、魔法薬学の教授が渋い顔をしてこう言ったのだ。
「……大丈夫かね?ユーミル。このまま一科目でも落第点を取れば、卒業前に君の奨学金は打ち切りになるぞ?」
落第。落ちこぼれ。
今まで、そんなことなどある筈もないと思っていた。真面目に努力をしてきた。
でも、どれだけ頑張ったところで、手に入らないものがある。手の届かない場所がある。それが見えてしまった今、何を目標に頑張ればいいのかがわからない。
仮に推薦してくれる後ろ盾がいなくとも、誰もが認めざるを得ない素晴らしい魔法の力さえあれば、名のある王侯貴族の目に止まり、大魔法士として名を馳せる道はあるだろう。そうなれば、苦労して自分を大魔法学校に送り出してくれた両親に楽をさせることができるし、歳の離れた弟や妹たちの進学だって、決して夢ではない。
だというのに、一度物事を悪い方向に考え出した途端、心は瞬く間に坂道を転がり落ちていった。あれほど大好きで大得意だった魔法の勉強にすら、ちっとも身が入らないのだ。
やれ、どこの貴族の家柄は王室にツテがあり、こっちの生徒の親は別の魔法学校の教頭を務めているから将来は安泰だという様々な情報が噂レベルで飛び交い、有名な魔法士になればなるほど、家柄や後見人という古いしきたりに縛られているのだということを、はっきりと思い知らされた。
この世界では、単純に、上手く魔法を使い、マナを操れる者が出世していくのではない。血筋、家柄、身分、裕福かどうかという指標は、学園の生徒の中に、確実に目に見えないヒエラルキーを生み出していた。
大魔法士として成功し、身を立てるには、何かしらのコネクション・後ろ盾が必要。しかし、無名の貧しい家に生まれたユーミルには、たとえ優秀な成績で学園を卒業したとしても、後ろ盾となる存在がいないのだ。
もしも自分が、他の生徒を、教授達をも唸らせるほどの、圧倒的な大魔法を使いこなせたら。
そうなれば話の流れは少しは変わるのかもしれなかったが、漲る自信と魔法の力はどうも直結しているらしく、最近は、教師に与えられた課題を上手くこなせずに叱られることも増えてきていた。
そしてもうひとつ、ユーミルの心をぐらぐらと不安定にさせる要素がある。
少し前、つい暗い考え事に沈んでいて、うっかりと課題となるポーションの提出を忘れてしまったユーミルの前で、魔法薬学の教授が渋い顔をしてこう言ったのだ。
「……大丈夫かね?ユーミル。このまま一科目でも落第点を取れば、卒業前に君の奨学金は打ち切りになるぞ?」
落第。落ちこぼれ。
今まで、そんなことなどある筈もないと思っていた。真面目に努力をしてきた。
でも、どれだけ頑張ったところで、手に入らないものがある。手の届かない場所がある。それが見えてしまった今、何を目標に頑張ればいいのかがわからない。
仮に推薦してくれる後ろ盾がいなくとも、誰もが認めざるを得ない素晴らしい魔法の力さえあれば、名のある王侯貴族の目に止まり、大魔法士として名を馳せる道はあるだろう。そうなれば、苦労して自分を大魔法学校に送り出してくれた両親に楽をさせることができるし、歳の離れた弟や妹たちの進学だって、決して夢ではない。
だというのに、一度物事を悪い方向に考え出した途端、心は瞬く間に坂道を転がり落ちていった。あれほど大好きで大得意だった魔法の勉強にすら、ちっとも身が入らないのだ。
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