大魔法学校の落ちこぼれは、ざまぁの果てに花嫁になりますっっ♡

槇木 五泉(Maki Izumi)

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若きユーミルの苦悩

若きユーミルの苦悩.4

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 小さい頃から、小さな船の風読みの魔法士として働いていた父、貧しい人々に安くポーションを調合して生計を立てていた母は、ユーミルの魔法の才能と、純粋な魔法への興味を認めてくれた。いつか大魔法士になりたいというユーミルの背中を、そっと押してくれた。

『頑張るのよ。あなたくらいうまく魔力を使いこなせるのなら、きっとあのソーレックス魔法学園でも通用するわ』
『そうだ、お金の心配ならしなくてもいい。それに、ほら。噂で聞いたことがあるだろう?誰の後ろ盾もないのに、たった一人で人間離れした大魔法を習得して、首席になった学生だっていたそうじゃないか。おまえも、努力次第でそうなれるかもしれない。…とにかく、四年間、しっかり頑張ってきなさい』

 学園の寮に入る前、そう言ってユーミルを送り出してくれた優しい母と父の笑顔を思い出し、胸の奥が締め付けられるような、目頭が燃え上がるような、切ない気持ちになった。このままでは、そんな両親の苦労と期待すら裏切ってしまうことになりかねない。でも、田舎の魔法学校を卒業した平凡な魔法士にすぎない両親は、果たして大魔法学校の裏に広がる暗黙の事情を知っていたのだろうか。

 権力もない、魔法の力だって特別ひいでている訳ではない、それどころか最近は失敗続きで、落ちこぼれ扱いすらされかけている。そんな自分に残された道は、一体何だというのだろう。頭の中で、真っ暗な負の感情がぐるぐると渦を巻いていた。


 後ろから、魔法士の名門貴族の出身という決して揺るがぬ強みを持つバスカルの、あざけるような笑い声が背中に突き刺さる。

「ま、特待生のおまえは一単位でも落とせば落第で、その場で退学なんだろ?どうせ後見人もいないんだし、今から荷物でも纏めておけよ。貧乏人は、荷物なんかたいして持ってないんだろうけどさ…」

 うつむき、唇を噛み締め、足早にその場を立ち去った。嘲笑を気にしないように、気にしないようにと繰り返し自分に言い聞かせても、弱りきった心に、悪意は情け容赦なく突き刺さってくる。
 滲む視界。打ちひしがれた心。このままでは自分がますます弱くなりそうで、でも、そんな自分を、ユーミルはどうすることもできない。

 せめて、誰をも黙らせるほどの強い魔法の力を使えたら。後ろ盾になる強い身内がいなくとも、ユーミル・ル=シェという名を聞いただけで、皆が驚き褒め称えるほどの大魔法士の素質があったのなら。
 そんな都合の良い夢に必死で縋ろうとしても、理想の姿は握り締めた指の間からこぼれ落ちていく。

「……でも、僕…それでも…まだ、諦めたくないよ…」

 打ちひしがれた白い頬を濡らし、ぼろぼろと溢れる涙を拭うこともなく、誰も来ない古びた廊下の外れで、声を殺して泣き続けていた。



 そんなユーミルを、誰にも気付かれることなく柱の陰からそっと覗き見ている、小さくしおれた老人のような姿があった。
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