大魔法学校の落ちこぼれは、ざまぁの果てに花嫁になりますっっ♡

槇木 五泉(Maki Izumi)

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魔法回路の強化

魔法回路の強化.5

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 翌朝、起床を告げる鐘の音色で、ユーミルははっと目を覚ました。
 今日は週末なので、少しならばそのまま二度寝をしてもいい。朝ご飯の時間までに食堂に行ければ、ベッドの中でゆっくりしていたって構わないのだ。

 しかし、ユーミルの脳裏にぼんやりと浮かんだのは、昨晩の記憶だ。
 不思議な用務員の老人が部屋を訪れ、曄苑はなぞのの大魔法士・アークメイジのグレンと名乗る二十代後半の美青年になった。変身の魔法も、結界の魔法も、召喚の魔法すら見事に使いこなして見せた彼は、どういう訳か、何の権力もないユーミルの後ろ盾になると言い出したのだ。
 そしてそのまま、魔法回路の活性化を行う、と言われ。
 花嫁候補にする、と言われ。
 そして。

「………ッッッッッッ!」

 突如として、脳に突き刺さる一閃の稲妻のように呼び起こされた、あまりにも恥ずかし過ぎる一夜の記憶。
 眠気はすっかり覚め、勢いよく跳ね起きて、ベッドサイドから愛用の近視用銀縁眼鏡を取り上げて、視界を確保する。昨晩の出来事は、自分が描き出した妄想に近い夢なのかもしれない、しかし、夢にしてはあまりにも生々しい快楽を、身体はしっかりと覚えている。
 ぱちぱちと瞬きをしながら部屋中を見回しても、そこには、あの綺麗な月明かりの差し込む花園の結界の名残は跡形もない。やはり夢だったのか、と、安心と落胆を半々に抱えながらそろりとベッドから立ち上がると、窓際に置かれた勉強机の上に、見慣れないものが見える。

「……これ…!」

 それは、小さな素焼きの植木鉢に入った、ピンク色の茎に緑色の葉を持つ観葉植物だった。一見して何の変哲もない、どこにでもありそうな観葉植物の鉢は、昨晩、グレンが卓上に置いたところにそのまま残されている。
 エメラルド色の瞳を、野暮な銀縁眼鏡の下で大きく見開いたまま、ユーミルはしばらく、呆然とその場に立ち尽くしていた。

『…これで、結界や召喚の手間が少しは省ける。それと、この部屋とボクの住みかを繋ぎやすくなるんだ…』

 低く、耳当たりのいいグレンの涼やかな声が、リフレインのように頭の中に響いた。
 途端に、炎の魔法を使ったかのように、頬がボンッと熱くなる。自分自身の顔が首筋から耳まで真っ赤なのは、鏡を見なくても解った。

「…あんな…あんなことを、僕……っ!」

 裸のままで大きく足を広げられ、見られてはいけないところを見られた上に、有り得ない場所まで触られて、そして呆気なく絶頂させられてしまったのだ。そればかりではない。初対面の、溜息が出るほど綺麗な男の人に、唐突に求婚されるなんて思いもしなかった。

 思わず、その場にへたり込みそうになるのを辛うじて堪え、ユーミルは、壁の棚の上からタオルと歯ブラシとコップの入ったバスケットを手に取った。朝の身支度にしても何にしても、この屋根裏部屋から共同の水場までは、随分と遠い。とにかく顔を洗い、歯を磨いて、着替えが済んだら朝食を摂りに食堂に行こう。そして、今日済ませるべき課題を済ませ、午後は、魔法薬学の教授に再提出しなければならないポーションの調合をするのだ。

 頬の上の火照りはまだ消えなかったが、不思議なことに、あれほど憂鬱で手が出なかった魔法の勉強に対して、昨日より抵抗感を覚えていないユーミルがいる。それがどうしてなのかは解らなかったが、とにかく、なるようになる、やれるだけやる、という気持ちが少しだけ蘇ってきていたのだ。
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