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魔法回路の強化
魔法回路の強化.16
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昼食を挟んで六時限目の授業が終わり、夕食が始まるまでの間が、放課後として学生に与えられた自由時間だった。買い替えを我慢しているために、だいぶ裾の短くなったスラックスの制服に身を包んだ身を包んだユーミルは、いつになく軽い足取りで、アルザールの尖塔が横目に見える学園の回廊を歩んでいた。
授業の成果は、どれも好調。薬学も、元素学も、元々得意だった魔法歴史学も、教授に指示された課題は難なくこなしたし、歴史学に至っては、自分から手を挙げて発言できるようになっていた。
どれもこれもが、『自信』に基づいているせいだ。最初の数回の成功に加え、あの元素学でのめざましい成果が、すっかり自信を失っていたユーミルに、再び闘志の炎を授けてくれた。
グレンの言葉通り、精神的・身体的な活力や気力というものは、魔法回路の成長に直結しているようで、ユーミルが自信を取り戻せば取り戻すだけ、そこに比例して成果というものは上がっていった。加えて、ユーミルはもう、一人ではない。
三年もの孤軍奮闘の結果、すっかり擦り切れてぼろぼろになった自信とやる気は、あの曄苑の大魔法士グレンが後ろ盾になると言ってくれたおかげで、元通りになりつつある。いや、むしろ、あのグレンの綺麗な紫水晶の瞳で、今もどこかから密やかに見守られているのかもしれないと思うだけで、入学したばかりの時に感じていたやる気を上回る『何か』が胸の底から湧き上がってくるようだった。
今の自分は、一人じゃない。愛情表現こそ少々変わってはいるが、見たこともないほど素晴らしい魔法を息するように使いこなすハーフニンフの大魔法士・グレンが傍にいてくれる。こんな自分の支えになると言ってくれている。
だったら、こんな自分をそこまで気に掛けてくれるグレンの為にも、成長しなければいけないのだとユーミルは考えていた。たとえ大魔法学校を首席で卒業できなかったとしても、落ちこぼれの地位からは脱出したい。他人を陥れたり、卑怯な方法で蹴落とすのは嫌いだった。ただ自分自身が勉強して、努力をして、力を高めて、落ちこぼれから抜け出せばいい。
回廊から見えるアルザールの尖塔は、魔法士たちの知恵と魔力の結晶だ。
並の魔法士では、その頂上に辿り着くことは難しく、故に、大魔法学校の卒業試験の課題として設定されている。
首を上向けなければ見えないほど高い頂上に、果たして自分は辿り着くことができるのだろうか。あと一年足らずの期間で、卒業試験の受験資格を得ることができるのだろうか。
ふと足を止めて、頂上を雲に覆われた尖塔の影を見つめる。
多くの魔法士にとって、聖地であり、憧れの地でもあるアルザールに、少し前まではどれだけ手を伸ばしても届く気が全くしなかった。それが今や、少し頑張って飛び上がれば、指先が届くような気がする。
ユーミルがそう思えるようになったのは、きっとグレンという存在がいるからだろう。週末になれば、あの曄苑の大魔法士は、ユーミルの元を訪れると約束してくれた。早く週末になって、そして、『特訓』の成果を自分の口で報告したい。グレン流の魔法回路の開発は、まだ色々知らないことが多すぎて少し抵抗があったけれど、それでも、ユーミルにとって嫌なことだけではなかった。
『グレンのお嫁さんになる、っていうことは…やっぱり、初夜があるんだろうなぁ……』
身体を繋いで、直接魔法の力を分け与えるという性行為を、グレンはまだ選択しないでおく、と言っていた。そしてそれは、ユーミルの気持ちひとつ、言葉ひとつで変わるのかもしれない。
ユーミルの胸が、不意にトクンと高鳴った。
『……このまま魔法学校を卒業して…そして、グレンのお嫁さんになるっていうことは、グレンとずっと一緒にいられるっていうことなのかな…』
常に花園の結界の中に居なければ落ち着かないのだという、美しい大魔法士グレン。彼が、あの優しい笑顔を浮かべて常に隣にいる生活を心の中に思い描いてみる。それは今までに味わったことのない、幸せな日常なのではないだろうか。
少し頬を染めながらぼんやりと塔を眺めているユーミルの前に、突然、幾つかの黒い影が立ちはだかって、思考を遮ってきた。
授業の成果は、どれも好調。薬学も、元素学も、元々得意だった魔法歴史学も、教授に指示された課題は難なくこなしたし、歴史学に至っては、自分から手を挙げて発言できるようになっていた。
どれもこれもが、『自信』に基づいているせいだ。最初の数回の成功に加え、あの元素学でのめざましい成果が、すっかり自信を失っていたユーミルに、再び闘志の炎を授けてくれた。
グレンの言葉通り、精神的・身体的な活力や気力というものは、魔法回路の成長に直結しているようで、ユーミルが自信を取り戻せば取り戻すだけ、そこに比例して成果というものは上がっていった。加えて、ユーミルはもう、一人ではない。
三年もの孤軍奮闘の結果、すっかり擦り切れてぼろぼろになった自信とやる気は、あの曄苑の大魔法士グレンが後ろ盾になると言ってくれたおかげで、元通りになりつつある。いや、むしろ、あのグレンの綺麗な紫水晶の瞳で、今もどこかから密やかに見守られているのかもしれないと思うだけで、入学したばかりの時に感じていたやる気を上回る『何か』が胸の底から湧き上がってくるようだった。
今の自分は、一人じゃない。愛情表現こそ少々変わってはいるが、見たこともないほど素晴らしい魔法を息するように使いこなすハーフニンフの大魔法士・グレンが傍にいてくれる。こんな自分の支えになると言ってくれている。
だったら、こんな自分をそこまで気に掛けてくれるグレンの為にも、成長しなければいけないのだとユーミルは考えていた。たとえ大魔法学校を首席で卒業できなかったとしても、落ちこぼれの地位からは脱出したい。他人を陥れたり、卑怯な方法で蹴落とすのは嫌いだった。ただ自分自身が勉強して、努力をして、力を高めて、落ちこぼれから抜け出せばいい。
回廊から見えるアルザールの尖塔は、魔法士たちの知恵と魔力の結晶だ。
並の魔法士では、その頂上に辿り着くことは難しく、故に、大魔法学校の卒業試験の課題として設定されている。
首を上向けなければ見えないほど高い頂上に、果たして自分は辿り着くことができるのだろうか。あと一年足らずの期間で、卒業試験の受験資格を得ることができるのだろうか。
ふと足を止めて、頂上を雲に覆われた尖塔の影を見つめる。
多くの魔法士にとって、聖地であり、憧れの地でもあるアルザールに、少し前まではどれだけ手を伸ばしても届く気が全くしなかった。それが今や、少し頑張って飛び上がれば、指先が届くような気がする。
ユーミルがそう思えるようになったのは、きっとグレンという存在がいるからだろう。週末になれば、あの曄苑の大魔法士は、ユーミルの元を訪れると約束してくれた。早く週末になって、そして、『特訓』の成果を自分の口で報告したい。グレン流の魔法回路の開発は、まだ色々知らないことが多すぎて少し抵抗があったけれど、それでも、ユーミルにとって嫌なことだけではなかった。
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常に花園の結界の中に居なければ落ち着かないのだという、美しい大魔法士グレン。彼が、あの優しい笑顔を浮かべて常に隣にいる生活を心の中に思い描いてみる。それは今までに味わったことのない、幸せな日常なのではないだろうか。
少し頬を染めながらぼんやりと塔を眺めているユーミルの前に、突然、幾つかの黒い影が立ちはだかって、思考を遮ってきた。
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