大魔法学校の落ちこぼれは、ざまぁの果てに花嫁になりますっっ♡

槇木 五泉(Maki Izumi)

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魔法回路の強化

魔法回路の強化.17

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「バスカル……。それに、ルドとディーゴも…」

 その姿を見て、ユーミルは眉をひそめた。ユーミルを取り囲んだのは、眉根を吊り上げた、どう考えても愉快そうな顔だけはしていないバスカルと、その取り巻きの男子生徒だ。
 バスカルは、ほんの165フィデッドほどの背丈のユーミルより背が高く、体格もガッシリとしていて男らしい。そんなところも、痩せて細く筋肉のつきが悪いユーミルのコンプレックスを掻き立てるのだが、その顔からは、いつものような自信と侮蔑に満ちた表情はすっかり鳴りを潜めている。
 怒りと苛立ち、そして焦燥感が宿った青い双眸を憎々しげに歪め、バスカルは鼻を鳴らす。

「ユーミル、おまえ、何をやったんだ?」
「何って……?」
「とぼけんなよ。元素学の授業で、瓶ごと水を凍らせただろうが。…あんなこと、貧乏魔法士の出身の、落ちこぼれのおまえなんかにできるはずがないだろ!どんな抜け道を使った?」

 バスカルの一歩後ろで、普段は臆病な性格のルドが、怒鳴るようにまくし立てる。ああ、とユーミルは合点がいった。彼らは、バスカルより余程優れた魔法を使いこなし、クラスの前でバスカルに恥をかかせたユーミルに対して、理不尽に腹を立てているのだ。

「……別に、何もしていないよ。…あんな威力になるとは思わなかったけど…でも、僕の力で使った魔法だ。言いがかりはよしてくれ」
「だから、それが怪しいっていうんだ。しかも、元素学だけじゃないよな?たった数日で、魔法薬学も歴史学も及第点に追い付いた。…俺は、そこらの鈍い奴らとは違う。ユーミル、おまえ、何をやったらあそこまでマナを使いこなせるようになった…?言え!」

 居丈高なバスカルの、低く迫力のある物言いに、ユーミルは一瞬ビクリと怯んでしまう。確かに、グレンという大魔法士の不思議な『特訓』を受けなければ、ユーミルは今も落ちこぼれたままだったに違いない。そして、まんまとバスカルの計略にはまり、元素学の授業では弱気に囚われてうまく魔法を使いこなせずに、皆の真ん前で大恥をかく羽目になっていただろう。

 だが、と思い直す。
 確かにグレンは、この身体の魔法回路を活性化するのだと言った。そこに、余計な手助けをするとは一言も言ってはいなかった、はずだ。

 少々心に揺らぎを覚えつつも、長い前髪の間からエメラルド色の瞳で毅然とバスカルを睨み上げ、ユーミルは毅然と口を開いた。ここまで強気なことを言ったとしても、あのグレンはきっと自分を咎めないだろうと信じていた。

「……もう一度言うけれど、言いがかりはよしてくれ。…みっともないぞ」
「…何……?」

 バスカルの顔が半分、露骨に引き攣って青ざめるのが見える。だが、ユーミルは恐れない。硬く拳を握り締め、眼鏡の下でバスカルやその取り巻きを見据えながら、軽蔑交じりの口調ではっきりと言い切る勇気が湧いたのだ。

「僕が何かのズルやインチキをしたって決めつけるんだったら、証拠を見せろよ。まあ、出てくるわけがないけれどね。僕は、自分の魔法回路を最大限に使っただけだ。悔しければ、きみたちだって同じようにやってみればいいじゃないか。口先だけでなく、ね」
「…ユーミルごときが、生意気な口を聞くな……ッ…!」

 激高したバスカルが、暴力は絶対的な校則違反だということも忘れて、ユーミルの胸倉目掛けて掴み掛ってくる。咄嗟に固く目を瞑った、その瞬間。

「……ッ…!」

 ヒュゥッ!と冷たく鋭い一陣の風が吹き抜け、バスカルとユーミルとの間に割って入った。この時期にしては異様なまでに冷ややかな風は、バスカルを怯ませてその手を止め、同時に、ユーミルの顔を隠す長い黒髪を宙に舞い上げて、回廊に差し込む午後の陽の光の中にその顔立ちを曝け出させる。

「………ん?」

 不意に、バスカルが眉根を寄せてぴたりと動きを止めた。一瞬、重たい前髪を吹き流されて露わになったユーミルの顔面に、無遠慮な視線をじろじろと注いでいる。
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