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魔法回路の強化
魔法回路の強化.19
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それから週末までの数日間、ユーミルは課題と予習、復習に明け暮れていた。
難癖をつけられ、嫌な思いをさせられたバスカルとその取り巻きとの接点は極力避け、話し掛けられない限りは、他の生徒との関わりもなるべく持たないようにしていた。
何せ、信じられないような魔法の腕前を持ち合わせているというのに、現代魔法歴史学に名前の出てこない曄苑の大魔法士・アークメイジのグレンという存在が後ろ盾についていることを、うっかり口を滑らせて悟らせてしまったらそこでお終いだ。元素学の授業で見せた凄まじい魔法の力を暴走させて悪目立ちし過ぎないように、マナを扱う実技の時には注意深くならざるを得なかったし、それ以外でも、極力身を隠しながら、教授の質問にのみ淡々と、しかし正確に受け答えできるように振る舞って過ごす。ここのところ全く振るわなかったユーミルの成績がみるみる上向いてきたことに、担当の教授たちは驚きを隠さなかった。驚き、しかし、誰もが微笑しながら、特待生の努力家ユーミルの成長を見守ってくれる。
本来、『無限の起点』と繋がり、空中に漂う魔法のリソースであるマナの力を最大限に引き出すには、常に無欲であるべしと教えられていた。だから、学科を教える教授たちは、変なえこひいきや私利私欲を持ち合わせていることはあまりなく、生徒の成長は素直に褒め、厳しく接するべきところでは厳しく接する。そんな魔法学園で魔法を教わりながら成長していくことの楽しさを、ユーミルは久しぶりに思い出し、しっかりと噛み締めていた。
そして、待ちに待った週末の夜が訪れる。
夕食の後、いつもより少し早めにシャワールームに行き、石鹸をたっぷり使って念入りに身体を洗った。いつも几帳面なほど丁寧に肌を洗い流すのだが、今日は特別に、肌が少し桃色に染まるまで擦る。
部屋に戻ると、清潔なパジャマを着て、ベッドの縁に腰を降ろしてしばらくぼんやりとしていた。半欠けになった月明かりが差し込む窓際の勉強机の上には、少しだけ成長した、ピンク色の茎を持つ観葉植物の鉢が置かれている。
果たして、グレンは約束通りにここを訪れるのだろうか。
そろそろ、他の生徒たちは、談話室から自分の部屋に引き上げる時間である。ユーミルはただじっと、座りながらその時を待ち続ける。
りん…と。
確かに聞き覚えのある、銀色のアークワンドに取り付けられた金具が鳴り響いた。
エメラルド色の瞳を大きく見開いて息を飲むユーミルの前で、粗末な屋根裏部屋が、あっという間に瑠璃色の花園へと塗り替えられていった。
嗅ぐだけで心の落ち着く、花のような良い香りがする。
「……こんばんは、ユーミル。ボクのお嫁さん候補。アークメイジ・曄苑の大魔法士グレン、只今キミの許に参上いたしました」
「グレン……!」
やや勿体ぶった、芝居がかった物言いをして、長い紫がかった銀髪をさらりと流しながら、グレンは穏やかに笑って腕を折り曲げながら丁寧に一礼する。満面にぱぁっと笑みを広げ、ユーミルはうきうきと弾む心と共に腰掛けていたベッドを立ち上がった。長身のグレンの顔を煌めくエメラルド色の瞳で見つめながら、一週間、たった一人で胸の中に貯め込み続けていた言葉を熱っぽく口に出す。
「……僕、だいぶ調子が戻ったんです……!元素学の授業でも、なんか…すごい魔法を使っちゃって…!他の教科も、全部及第点を取りました…!何だか、今までの悩みは何だったんだろうって思えるくらい……何もかも、変わって…!」
「うん、うん。そうだろう、そうだろう。キミの頑張りは、いつだって見守っている大魔法士のグレンお兄さんです。でも、流石だね、まさかここまで呑み込みが早いとは、このボクも思っていなかったさ…」
と、不意にグレンは、整った眉尻を下げて複雑な表情を浮かべる。
難癖をつけられ、嫌な思いをさせられたバスカルとその取り巻きとの接点は極力避け、話し掛けられない限りは、他の生徒との関わりもなるべく持たないようにしていた。
何せ、信じられないような魔法の腕前を持ち合わせているというのに、現代魔法歴史学に名前の出てこない曄苑の大魔法士・アークメイジのグレンという存在が後ろ盾についていることを、うっかり口を滑らせて悟らせてしまったらそこでお終いだ。元素学の授業で見せた凄まじい魔法の力を暴走させて悪目立ちし過ぎないように、マナを扱う実技の時には注意深くならざるを得なかったし、それ以外でも、極力身を隠しながら、教授の質問にのみ淡々と、しかし正確に受け答えできるように振る舞って過ごす。ここのところ全く振るわなかったユーミルの成績がみるみる上向いてきたことに、担当の教授たちは驚きを隠さなかった。驚き、しかし、誰もが微笑しながら、特待生の努力家ユーミルの成長を見守ってくれる。
本来、『無限の起点』と繋がり、空中に漂う魔法のリソースであるマナの力を最大限に引き出すには、常に無欲であるべしと教えられていた。だから、学科を教える教授たちは、変なえこひいきや私利私欲を持ち合わせていることはあまりなく、生徒の成長は素直に褒め、厳しく接するべきところでは厳しく接する。そんな魔法学園で魔法を教わりながら成長していくことの楽しさを、ユーミルは久しぶりに思い出し、しっかりと噛み締めていた。
そして、待ちに待った週末の夜が訪れる。
夕食の後、いつもより少し早めにシャワールームに行き、石鹸をたっぷり使って念入りに身体を洗った。いつも几帳面なほど丁寧に肌を洗い流すのだが、今日は特別に、肌が少し桃色に染まるまで擦る。
部屋に戻ると、清潔なパジャマを着て、ベッドの縁に腰を降ろしてしばらくぼんやりとしていた。半欠けになった月明かりが差し込む窓際の勉強机の上には、少しだけ成長した、ピンク色の茎を持つ観葉植物の鉢が置かれている。
果たして、グレンは約束通りにここを訪れるのだろうか。
そろそろ、他の生徒たちは、談話室から自分の部屋に引き上げる時間である。ユーミルはただじっと、座りながらその時を待ち続ける。
りん…と。
確かに聞き覚えのある、銀色のアークワンドに取り付けられた金具が鳴り響いた。
エメラルド色の瞳を大きく見開いて息を飲むユーミルの前で、粗末な屋根裏部屋が、あっという間に瑠璃色の花園へと塗り替えられていった。
嗅ぐだけで心の落ち着く、花のような良い香りがする。
「……こんばんは、ユーミル。ボクのお嫁さん候補。アークメイジ・曄苑の大魔法士グレン、只今キミの許に参上いたしました」
「グレン……!」
やや勿体ぶった、芝居がかった物言いをして、長い紫がかった銀髪をさらりと流しながら、グレンは穏やかに笑って腕を折り曲げながら丁寧に一礼する。満面にぱぁっと笑みを広げ、ユーミルはうきうきと弾む心と共に腰掛けていたベッドを立ち上がった。長身のグレンの顔を煌めくエメラルド色の瞳で見つめながら、一週間、たった一人で胸の中に貯め込み続けていた言葉を熱っぽく口に出す。
「……僕、だいぶ調子が戻ったんです……!元素学の授業でも、なんか…すごい魔法を使っちゃって…!他の教科も、全部及第点を取りました…!何だか、今までの悩みは何だったんだろうって思えるくらい……何もかも、変わって…!」
「うん、うん。そうだろう、そうだろう。キミの頑張りは、いつだって見守っている大魔法士のグレンお兄さんです。でも、流石だね、まさかここまで呑み込みが早いとは、このボクも思っていなかったさ…」
と、不意にグレンは、整った眉尻を下げて複雑な表情を浮かべる。
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