悛改のミスタ

猫野 おむすび

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第2章 オアシスの村

余計な事

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―――カンカンカンカン!!



鉄格子を叩く音がする。

誰だ……?




「う~ん……」





「……いでっ?!」



急にほっぺをつねられ、意識がもうろうとする中で
ミスタは素っ頓狂な叫びを上げる。





静かな牢獄に、緊張感の無い悲鳴が響き渡った。








───ユズリハの仕業だな。





じんじんと尾をひく痛みに顔をしかめながら、
目をつむったままそろそろと起き上がる。







彼の手や足は拘束されておらず、そこそこの広さがあるこの檻の中なら、好きに動き回れるようになっていた。



……一見防犯対策が厳しい様に見せかけて、牢獄の中の管理はずさんであった。
 


労働や点呼などは一切無いうえ、
看守達はその見た目こそ恐ろしいものの、
食事の際などに時々やってきてこちらをギロリと睨む他は、一切関与して来なかった。








──────……どうやら牢獄には、ミスタとユズリハの他にもう1人囚人が捕らわれている様だ。
しかし、檻がちょうど死角の位置なので確認することは出来なかった。







        ・ ・ ・





身体中が、ひび割れるように痛む。

四肢が離れてしまうのではないか。
そんな有り得ない事を思い、
無意識に腕を掴んで繋ぎ止めようとする。




腕をさするミスタを見下ろし、銀髪の少女は侮蔑の目を向ける。



「―――まさか、たった一撃で気絶するなんて。



そんな弱さで今までよくも堂々と表を歩けていましたね。……ある意味尊敬する。」





ミスタは返答の言葉がうまく見つけられず、ぼんやりとした頭で考えていた。




……ニケなら。

ニケなら……
もっと優しく教えてくれるんだろうなぁ。

きっと、俺の手をとって一緒に……。






「……スタ」


「ミスタ!!聞いてる?!」




ハッと気がつくと、
ムスッと頬を膨らませたユズリハの顔が、あと数センチの所まで迫っていた。




いつの間にか彼の事を名前で呼ぶようになったユズリハは、目の前にヘタリと座り込む男の様子にため息をついた。




「……今日はもう特訓にならなそうですね」





そう言うと、少女はすとん、とミスタの隣に座った。

……隣、といっても、2人の間には人一人分くらいの隙間があったが。





「……弱い弱いってうるせぇよぅ……。

大体、なんで急に特訓なんか……」





ミスタは、自分より幼い(であろう)ユズリハに向かって、まるで幼子が駄々をこねるように投げかける。

  



ユズリハは少し考えたのち、
しばらくするとミスタからふい、と顔をそむけた。






「……ミスタが今朝、夢で操作されても戻って来られた理由を考えたの。」






「理由、って……。

それはお前が助けてくれたからだろ?」







「それも少しはあったかもしれませんが。


……自殺者を出すほど強い魔力に、私が外から話しかけただけで打ち勝てるとは到底思えません。」






「……?」






「───恐らく、ミスタは魔力以外の力を持っている。


私はそういう仮定を立てました。」






「魔力以外って、、

そんな事有り得るのか?」






「少なくとも
私はそんな事例、聞いたことも見たことも無いですが。」





「……。」








「……砂漠でユダさんに助けられる前、砂漠狼から襲われた時に……

私に覆い被さって助けてくれましたよね。」







「あ、あれは……

体が反射的に動いて……」


急に話を蒸し返され、ミスタは顔を火照らせた。







「あの時、ミスタに『伏せろ』って言われた瞬間、
体が地面から離れなくなった気がした。

……何者かに押さえつけられている感じがして。」






「……。」

男は喋らない。











「……やっぱり、気のせいですよね。

全て私の妄想なので忘れてくださ、、」






ユズリハが早口で言葉を締めるより先に、ミスタがそれを遮った。







「……俺、あの時、集落に向かって、……言った。」




その唇はわなわなと震え、瞳孔はどこかをじっと捉えたまま動かない。声はかすれて途切れ途切れになっている。








明らかにおかしい彼の挙動を目の当たりにし、

ユズリハは恐れた。







―――自分はまた、余計なことを。









下唇を噛んだ、その時だった。













少女は、一瞬にして平衡感覚を失った。 





あれ、ここどこだっけ……   







ふと、


耳にノイズが入り込む。










         ・ ・ ・



「───だから余計な事はするなとあれほど……」






「よしなよ。あの子に言っても無駄だって……」






「……まるで冷徹な死神ね。」






         ・ ・ ・



もう既に、彼女の意識は牢獄の中に居なかった。
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