とある少女の異世界奮闘記+α

輝国 飛鷹

文字の大きさ
26 / 69
試練・精霊契約編

第24話《シンプルミステイク》

しおりを挟む

「―――無駄だよ」
  パチン―――と、フレーベは指をならす。すると直前で刀がピタリと止まった。
「! ………動か……ない!?」
  体は自由に動く。だががびくともせず、その場に留まっているのだ。
「―――ね? 言ったでしょ?」
  フレーベは無防備のアヤノンの腹を蹴り飛ばした。突き飛ばされた先には、固まったマリナーラと精霊が。
「………っ。うぅ…………」
「さて、じゃあ解除するかな」
  パチン―――と指をならした。
  次は何が起こる…………!? と警戒して真上を見上げると、なんと先ほどまで止まっていた鉄骨が落ちてきたではないか。
「あっ………マズイ!」
  アヤノンは二人の石像をその場から突き飛ばすと、鉄骨のシャワーに飲まれてしまった。
  落ちてきたそれは計7本程度。死ぬには十分すぎる量だ。
「ありゃりゃ、ちょっとやり過ぎたかな?」
  フレーベは相変わらず能天気な顔で立っていた。
「でも仕方ないよね。私に精霊ちゃんを寄越さないから、こんなことになったんだよ」
  落ちた鉄骨。床にめり込んだ鉄骨。巻き起こる砂煙。普通に考えればすでに死んでてもおかしくない。だがその中から―――
「げほっ………げほっ………いったいどうなってんだよ………」
  アヤノンは姿を現した。
  フレーベは珍しそうに口笛を吹く。
「うん、あなた悪運が強いね! これで大体はみんな頭を潰されるか腕がちぎられるかしたんだけどねー」
「けっ………怖いこと言うなぁ………」
  ふらふらと表に出てきたアヤノンは、しかしかすり傷は被っていた。
  アヤノンは振り返り、マリナーラたちを見る。やはりまだ固まったままだ。
「おかしい…………さっきの鉄骨で時間が動きだしたはずなのに…………」
「あぁ、そのこと?」
  アヤノンはきびすを返した。
「うん、説明すると、私は気になった物を好きな時に止めたり、それを解除したりできるんだぁ。だから例えばぁ…………」
  パチン―――。
  その音と同時に、彼女の背後の窓ガラス数枚が割れた。
「今のはに割れようとしてたやつだよ。さっきそれらだけ解除したから………」
「かってに割れたっていうことか。なんて面倒な力なんだよ、それ…………」
  フレーベも言っていたが、これはあくまでもらしい。
  魔法ではない別の力………はたしてその正体とは?
「その………“タイムオペレート”か? 俺にはよく分かんないけど、だからって俺は引かない…………ぜっ」
  アヤノンは肩から流れる血を押さえ、業火の眼差しを絶やさなかった。
「ふーん、そう…………」
  パチン―――。
「くそっ!」
  再び鉄骨が数本落ちてくる。地震により、建物の天井はほとんど崩壊していたようだ。
  フレーベのイタズラか、逃げる先にどんどん落ちてくる。
「ほーらほーら、もっと速く逃げないと頭から潰れちゃうよ?」
「てめぇ………調子のってんじゃねえぞ!」
  なんとか攻撃をかわし、フレーベのもとへ。拳を握り、殴りかかる。
「おっと…………ね!」
  あっさりとかわされ、腹にアッパー、続けて顔面を殴られる。
「ヴォ……………うぐっ……………」
「ハッハッハ! いい気味だなぁ!」
  パチン―――。
  間を空けず、再び鉄骨の猛攻。
  ガンガンとなる轟音が絶え間なく続いた。
「クソっ………いつまで続くってンだよこれ………!」
  落ちてきた最後の鉄骨に寄りかかって、アヤノンは悪態をつく。
  フレーベはその場から一歩も動いていない。のんきに飴を食べ始めていた。
「うん、ちなみに………鉄骨だけと思ったら大間違いだからね?」
「はっ………?」
  フレーベの右手の指がから結び、そして絶望への誘いの合図。
  ゴゴゴゴゴ―――
「なんなんだ今度は―――って!?」
  地鳴りから床に、壁に亀裂が入り、崩壊し始めた。
「時間が止まったこの空間において―――」
  フレーベの声が聞こえる。
「私はね、空間の中の、その後の流れを把握してる。事態に応じて時間を停止し、操る。魔法力はおろか、戦闘慣れしてないあなたが勝つなんて―――」

「うん、ありえないでしょ?」

  建物の約三割が崩れ去り、瓦礫の山が積もりあがった。
  崩壊。その2文字だけが残った。残りの建物は微動だにせず、絶妙な体勢のままでいた。
  フレーベの視線が精霊へと向けられる。
「さて、邪魔者もいなくなったことだし、さっさとお持ち帰りしようかな」
  余裕の足取りで精霊に近寄ったその時。
  ―――ガサッ
「うん?」
  きびすを返すと、崩れ落ちた境界線から、誰かが這い上がってきたのだ。
  ボロボロとなった体を無理に動かし、地に足をつけたのは―――
「はぁ…………死ぬかと思った………」
  福本アヤノンである。
  フレーベはもう飽きてきて、さすがに苛立ちを覚えた。この女は何故死なないのだろうか。今まで死ぬ機会はいっぱいあったはずなのに。
「あんた………ホントおもしろい人ね。私の力を持ってしても、ここまで粘るヤツは初めてだわ」
「魔法力がない俺には…………ただ粘ることしかできないからよ………」
  アヤノンは再び拳を握った。そして敵に悟られぬよう、自分の刀の場所を確認した。うん、間違いはないはずである。
  走り出した。目的はフレーベを倒すため。
  突き出した拳は、片手であっさりと遮られ、頭突きを食らう。それでもなお立ち、拳を振るった。
(ふーん………急に攻撃的になったわね)
  攻撃を防ぎながら、フレーベは思った。
(うん、けれど結果無駄なこと。もう相手は体力に限界が来てるみたいだし。このままほっといても、勝手に倒れるだけ―――)
  だが、彼女の楽観視もここまでだった。
  パンチは痛くないが、変わりに力で後方に押し出されている気がした。足にも力をいれるようになる。
(なんなの………? 私を後ろに押そうとしている………?)
「そこだっ!」
「あ―――」
  うかつであった。思考に走るあまり、自ら隙を作ってしまったのだ。隙を突かれたフレーベは体勢を崩し、腹を蹴られた。
  おそらくアヤノンはこれに全ての力を集約したのだろう。フレーベは異常なほど後方に吹き飛ばされた。
  息を吐き出し、後方に吹き飛ばされたフレーベは、ようやく敵の狙いを見据えた。振り返れば、答えはもう見えている。
「ふっ…………残念ね。あなたの狙いは刀でしょ!?」
  アヤノンは黙っている。すでに拳を解いていた。もう勝ったつもりか。
(さっき停止させた刀の矛先は、今は私の背中一直線だわ。このままでは心臓を貫かれる!)
「残念ながら………それは読みきったわ!」
  パチン―――。
  指を激しくぶつけることで発生する開始音。
「残念ね! 私が時を動かすことによって、刀はその場に落ちて―――」

  グサッ―――

(…………あれ?)
  何だろうか、今の不快な音は―――
  腹の辺りから鋭そうで刃のついてない刀身が露になっていた。赤くなっているのは、それは―――

  フレーベは膝をつき、ひどく悶絶する。
  訳がわからない―――と、異常者は口を開いた。
「なんで、っよ……………刀が…………刺さって、る…………」
「―――それはあんたがしたことだろ?」
  見上げると、勝者が立ち尽くしていた。無表情のその出で立ちに、フレーベは一瞬哀れんだオーラを感じた。
  勝者は続ける。
「お前、刀の時間を動かしたら、その場でコロッと落ちてくれると思ってたのか? 空間の流れを把握してるとか―――とんだハッタリだな」
「どういう………ことよ」
  フレーベは厳しい視線を送る。
「刀は停止する前………いったいどうしていた?」
「それは…………あなたが私の心臓を………っ!」
  そこでフレーベは気づいた。己の犯した、至極単純なミスに―――絶句した。
「お前は言ってたはずだ。時を動かした物体は、って。俺は刀を直前までお前に突き刺そうとしてた。つまり、時を動かせば、―――」
「その場から飛んでくる………そしてそれをすっかり忘れていた私に突き刺さってきたわけね………ゴフッ」
  血を吐き出したフレーベは、刀身を引き抜いた。その場に捨て、軽く自嘲気味に呟く。
「情けないなぁ………これなら、上司に叱られた方が、まだマシよ…………」
  フレーベはそこで力尽き、バサッと倒れた。
(………か、)
  アヤノンは表情を崩して尻餅をつき、
(勝った~…………)
  気力を全て使い果たしてしまった。目の前には倒れた女性が一人。死んではいない。ただ気を失っているだけである。
  はぁ………とため息を一丁前についてみた。自分が人の命はまだ奪っていないという安堵からなのか。
「よかった………」
  と呟いた。

  気づくと背後で、
「………あれ? 私はどうして倒れてるのです?」
「地震………もうないの。怖くないの………」

  二人の少女の時間が動き始めていた。

(あぁ………よかった。時間が………動きだし………て………)
  視界がぼやけ、意識が朦朧もうろうとした。
  背後で少女たちが自分の名を呼ぶ声が聞こえる。 
  駆け寄る足音。
  肩を揺すってくるその感触。感覚。
  血だらけの女性を見た悲鳴。狼狽。
  パトカーのようなサイレン音。
  二階に上がってきた、武装者たちの登場。
(………もう、ダメだ………)
  そこで意識が途絶えた。

 
  
  




  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

異世界きたのに、冒険者試験で詰みました。

アセチルサリチルさん
ファンタジー
【追放もざまぁも無双もない。あるのは借金と酒と笑いのみ!】 お父さん。お母さん。 あなたたちの可愛い息子は―― 異世界で、冒険者になれませんでした。 冒険者ギルドでのステータス鑑定。 結果は「普通」でも、 固有スキルは字面最強の《時間停止》 ……なのに。 筆記試験ではギルド創設以来の最低点。 そのまま養成所送りで学費は借金三十万。 異世界初日で、多重債務者です。 ……なめてんのか、異世界。 ここで俺たちパーティのイカれたメンバーを紹介するぜ! ケモミミ用スキルが初日で無駄になったバカ、タクヤ。 魔力制御が全くできない厄病神のバカ、リーシャ。 実は厨二病で呪い装備しか愛せないバカ、オルファ。 そして――スキルで時間を止めても動けないお茶目な俺、ユウヤ。 うーん! 前途多難! これは―― 最強でも無双でもない。 理不尽な世界で、借金と酒と事故にまみれながら、 なんだかんだで生き延びていく話。 追放? ざまぁ? 成り上がり? そんなものはございません。 あるのは、 愛すべバカどもが織りなすハートフルな冒険譚のみ。 そんな異世界ギャグファンタジーがここに開幕!

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

処理中です...