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『学生ラグナロク教』編
エピローグ
しおりを挟む警察がマルコフ家に突入して来たのは、アヤノンが盛大な拳クラッシュを炸裂させ、とある悪魔をK.O状態にした後だった。
いかにも正義感に満ちた体の厳つい男たちが乱入してきて、立ち上がろうとするクモリアスを取り囲み、
「クモリアス・レイス。あなたに3年前のある事件について詳しくお話を伺いたいのですが、よろしいですね?」
と、半ば脅し口調で迫った。クモリアスは肩をガタガタと生まれたての小鹿のように震わせ、静かに命令に従った。
一方、妹のカナメ・マルコフだが、相変わらずメソメソと、
「私わるくないもぉん、私は天才よ? 警察に捕まるなんておかしいじゃないのよぉー」
しかしそこには余裕ヘラヘラとした意が含まれてるようにも感じた。今まで彼女は本当は警察沙汰の事を何度も起こしてきている。そしてそれが今まで咎として認められなかったのは、『財界王の娘』という後ろ楯あってのことだった。
おそらく彼女は、どうせ今回も父親が何とかもみ消してくれるだろうと思っているに違いない。
「そんなことは絶対させねーぜぃ」
カクテル刑事ははっきりとそう言った。
「改めて調査したところ、どうやら事件の裏で金も動いてたらしくてなぁ。当時の上層部だった連中は全員取っ捕まえたぜ」
そんな刑事だが、これからが大変だと愚痴を溢していた。
「あぁ? そりゃあお前、上層部の御偉いさんが捜査に圧力掛けたとなっちゃあ大事件ものだぜこりゃあよぉ。これから始まる謝罪会見に質疑応答、資料の作成やマスコミからの絶えない質問ラッシュ…………あぁ、オソロシヤオソロシヤ」
刑事という職も別の意味で楽ではないらしい。
カクテル刑事は未来に対して深く吐息をついていた。
*
「それじゃあ、クモリアスとカナメは正式に逮捕されたのか」
事件から約一週間後。朝早いラサール魔法学校のある教室にて。
学校にも復帰したアヤノンは、目の前で視線を合わせてくる少女に言った。
「えぇ。これでフレイヤさんの仇が取れた───とはまだ言い切れませんが、ひとまず解決という形にはなりましたわ」
制服姿のセリアは心底嬉しそうに言った。
もう体はだいぶ回復したらしく、今では松葉杖なしで歩けるくらいだ。
セリアはクモリアス逮捕後、マルコフ家との縁を正式に自ら切ったそうだ。
セリアは全ての名誉と住みかを失ったのだった。
現在はルートピア姉妹の一戸建ての家で居候しているらしい。行く行くはバイトで金を貯めて、一人暮らしの住みかを獲得するのが当面の目標だそうだ。
「私、あの後グレーさんとお話しましたの」
「うん」
「私、あの方を許してあげようと思いましたわ。あの方の思いは私と一緒でしたもの。今は兎に角罪を償うよう示唆してあげましたわ」
「そうか…………そりゃあ良かった」
アヤノンの温かな笑みを見ていたセリアだったが、ふと何かを思い出す。
「そうそう、グレーさんがあなたに『ありがとう』と、そう伝えてくれと言っていましたわ」
「お、俺に? なんで?」
クスッとお嬢様は小さく笑う。
「娘の仇を取ってくれて、それからあの男を殴ってくれて、といった内容で」
「そ、そいつはなんか照れるな……………」
アヤノンとしては、単に自分のやりたいように動いただけなのだが。
それが善なのか悪なのかは関係なく。
いや、というより彼女自身もよく分からないことなのだから。
自分が本当に『善』な行動を取っていたかなんて分かるわけがない。それは結果を知っても同様だ。
結果が分かっても、『じゃあこれより最善な結果が出る選択はなかったか』と考えてしまうのが人間だ。そしてそれが自分ではない第三者から『最善だ』と言われないと、人は自分に満足することが出来ない。
それは今のアヤノンにも言えることだった。
が、何度も言うように後悔はない。
これは自信を持って言えることだった。
「『次会ったら必ずあなたを操ってみせますね』とも言ってましたわ」
唇に可愛らしく指を添えるお嬢様はさらに伝言する。
「よし。グレー=ルイスの刑を無期懲役にしてやろうぜ」
「そこまでしなくてもいいのでは?」
「お前町中で知らない間に裸になるのと、グレー=ルイスの刑が長くなるの、どっちがいい?」
「後者で」
「即答だなおい」
その時。教室の外からドタドタとまるで暴走した洗濯機のような勢いで誰かが入ってきた。
「ぜぇ………………ぜぇ………………あ、セリア様!!?」
入ってきたのは、セリアの従者、扇動千波である。
そういえばこんなやついたなーと言わんばかりでアヤノンが呆けていると、従者チナミはズカズカとやって来て、
セリアにギュッと抱きついて、
「セリア様、大丈夫でしたか!!!? 私、セリア様が怪我をなさったと聞いて、夜は6時間しか寝れないくらい心配で心配で………………」
いやそこそこ寝てんなと思っていると、
不意に従者チナミとアヤノンは目が合った。
まぁ、セリアと話していたのがアヤノンであるから当たり前ではあるのだが。
「あぁ、あなたはいつぞやのセリア様反対勢力リーダー、福本アヤノンさん!?」
「変な役職つけんなっ!!」
「セリア様、こんな奴と一緒にいてはいけません! ささ、私と一緒に………………」
と、セリアの袖を引っ張ろうとする従者チナミだったが、
スルッと。まるでリボンが解けるようにお嬢様の腕が離れていく。
「セリア様………………………?」首を傾げる従者チナミ。
一方。セリアはアヤノンの前に立つと、少し焦れったがった様子で、
「………………福本さん。今日はお朝食はもう召し上がりまして?」
「………ん? あぁいや、実は喰ってないんだわ。今日は寝坊しちまって、生憎麦茶しか口にいれてないけど、どうした?」
「……………その、ですね。じ、実は私も、まだ朝食を口にしていないのですわ。そ、それで……………」
「それで?」
さらにお嬢様の焦れが深くなっていく。
そして意を決したように、お嬢様、セリア・マルコフは、
「そ、その、…………よろしかったら、い、今から一緒に食べませんこと!?」
「え? 別にいいけど」
「…………………………………………………………………………はぁ?」
その時。顔を真っ赤にして、照れ隠しか体をモジモジとするお嬢様の背後で、従者チナミの狂ったような声の『圧』がアヤノンを襲う。
まるで見えぬ突風が吹くかのように、アヤノンは体勢を一瞬崩す。
見てはいけない……………見てはいけない。見たら死ぬぞ。死ぬぞ……………。
そう自分に言い聞かせ、セリアと再び向き合う。
「け、けどいいのか? もとはお前の朝飯だろ? 二人で喰ったら量が減っちまうぞ」
「だ、大丈夫ですわ! その点に関しては……………」
「なんで?」
再びお嬢様はモジモジ、モジモジと。そして口を開く。
「何せあなたの分も作ってきましたから………………」
「へぇ、そりゃあサンキューな、セリア」
ブチっ。
「………………………………………………………………はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」
肉が引きちぎれる音がしたと同時、従者チナミが珍獣ハンターのような目付きで襲いかかった。
「ふぅぅくぅぅぅもぉぉぉぉとぉぉぉ!!!???」
「ぎ、ギャアァァァァ!!?」
福本アヤノンは走る。セリアの手を握って。
「逃げるぞセリア!」
「ちょ、ちょっと福本さん!?」
「まてやゴルラァァァァァ!!」
福本アヤノンは逃げる。セリアの手を握って。
廊下は走ってはいけないのだが、今回は特別に見逃してもらいたい。ここで逃げなければ福本アヤノンには『死体』という次世代的進化を経験することになるだろうから。
「待ちなさい福本アヤノン!! 私のセリア様とイチャつきやがってぇぇぇ!!」
「別にイチャついてねぇわ! つーかもうヤダー!!」
セリア・マルコフは走る。
その理由は本人にも分からない。
せっかく作った弁当は教室に置いてきてしまった。走るのが苦手なのに今ムリに走らされている。
だがその少女に苦しむような顔はなかった。
そう、これが『日常』なんだ。
彼女が昔から願ってきた『日常』が今ここにある。
今、自分の手を強く握って疾走と走るのは、
ラブストーリーによく出てくるような男の人ではないけれど、同姓の、ちょっと変わった女の子だけど、
それは頼れるラブストーリーの男の子のように温かい手だった。
セリア・マルコフは笑っていた。
───完
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