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織月せつな

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死人の残滓

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 僕の友人は仕事の愚痴が多いので、なかなか本題を聞けなかったりする。

 大した話じゃないからと言われると、まあそうなんだろうけれど、愚痴を聞かされるより何倍もいい。

 これは以前聞いた話を思い出したものだ。

 友人の家の近所には、公園と呼ばれる、木々に囲まれてベンチが四つ点在してあるだけの場所がある。

 中高年の方々がベンチで寛いでいたり、犬の散歩に利用されたりとあって、少なくとも友人が通る(近道らしい)際に人がいないことは、子育て中のカラスに占拠されていない限りは、殆どないことらしい。

 スズメバチが現れることもあるようだが、特にカラスは人に襲い掛かる為、その時期になるとキープアウト的なテープが出入口を封鎖するそうだ。

 その日も友人は仕事帰りにその公園を突っ切ることにした。行きはコンビニに用があって別の道を利用したという。

 遠目から見て、誰もいないことに気づいたが、珍しいと思ったくらいで気にはしなかった。

 そしてその公園に入ってすぐである。

 妙な圧迫感があった。誰かに凝視されているような居心地の悪さと、巨大な手に全身を鷲掴みにされているような感覚だったそうだ。

 それは公園を抜けるとすぐに取り払われ、だから誰も長居出来なかったのだと思った。

 ところでその公園の前に、友人の知人が住んでいるのだが、知人は友人の母親とも仲が良かった。

 その知人から聞いたと帰宅してから知らされたのだが、今朝方、その公園で男性が首吊り自殺したという。

 ちなみに、友人が働いている施設で、空き部屋となった中に入る際――友人は委託の清掃員なので、施設内のお知らせなどは全く聞かされることはない――部屋に籠った気配で、他へ移ったか亡くなったかが分かるらしい。
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