ショートショート

織月せつな

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駅のホームにて

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 施設の話は去年のものだが、これは直近の話である。

 友人は電車通勤で、駅のホームの同じ場所に並ぶ。

 スマートフォンのカバーは手帳型で、開くと小さな鏡が付いているタイプだった。

 その鏡で光を反射させたら向い側の人に光攻撃をしてしまうかもしれない。といったことを考えながらもそれを使い続けているのは、選ぶのが面倒臭いかららしい。

 そんな話はさておき。

 友人は珍しく鏡が気になって覗き込んでみたそうだ。

 自分の顔が映るのは当たり前だし、さっきつけてしまった指紋以外に、ヒビや汚れがある訳でもない。

 指紋を服の袖で擦り、そしてまたなんとなく――鏡のくもりを気にするように――自分の背後を映してみた。

 人がいた。

 それ自体は不自然なことではない。

 だが、妙に近い。そして、すっかり秋の装いとなっただけで半袖勢から白い目を向けられるような中にあって、完全な冬仕様のコートを着ていた。

 さすがに季節ズレてるぞ。と、思い、相手の顔を見てやれ。と思ったのが間違いだった。

 鏡にその顔が映った途端に、友人は鏡を伏せたという。

 それからすぐに電車が来た時、電車の窓に映り込む姿は自分しかなかった。

 否、背後にいる筈の姿がなかったのだ。

 鏡を睨み付けていた、皮膚のあちこちが剥離した男性の姿が。

 あれだけ近くにいて臭いも気配も感じられなかったから、見間違いだったかもしれない。

 そう話す友人は、鼻炎だか風邪だか分からないと言いながら、その日僕の前で二袋目のポケットティッシュを開けた。
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