ショートショート

織月せつな

文字の大きさ
上 下
6 / 6

笑顔

しおりを挟む


 初めは幻覚が見え出したのかと思ったという。

 そこそこ妙なものを見ている癖に、何を今更。

 視界の端にチラリと入り込むだけで、そちらを向いてもそれらしきものはいないということが、連日複数回に及べばイライラする。気になって仕方がない。

 色はついているが何かは分からない。

 何かは分からないが、人であろうと予想はついた。

 ある日、それが視界の端に入り込んだところで、両手で顔を覆ってみた。

 お前なんか見てやるもんか。そういう意思表示だったらしい。

 すると、誰かが近付いて来る気配があった。

 自分の身長。半分程の高さの誰かだと、まるで中途半端な透視能力を得たように感じられた。

 いないいない……。と心の中でタイミングを測るように呟き、ばあ、と両手を外して目を開ける。

 ふふっ。

 目の前にいたのは女の子だった。

 幼稚園児くらいの可愛らしい女の子が、見付かっちゃったというように笑って消えてしまう。

 以降、その子が現れることはなくなってしまった。その姿を見てしまった事を少し後悔しているらしい。

 本当に可愛かったんだ。

 友人は間を開けて同じことを二度言った。

 悔しげに拳でテーブルを連打する様を見ながら、こいつはロリコンだったろうかと、ちょっと気になった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...