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魔王さま降臨編
魔王さま、甘える?
しおりを挟むルーキフェルがぷんすかしている。
背中の大きな翼の下の方をずりずり引摺りながら、のしのしと歩いているその足に、ピコピコ音の鳴るちっちゃい子用の靴を履かせたい。
しかし、相変わらず怒りながらも私の周りをうろうろするのは、どうにかならないものかな。捕まえて抱っこしたいけど、顎とか鼻とか叩かれるのは痛いからもう嫌だし……。
今回、ルーキフェルがぷにっ子になってしまったのは、私が保健室でグザファン先生から嫌がらせを受けていた時に、助けに来てくれたのかと思ったルーキフェルが、何故か逃げてしまった後であった。
すぐに追いかけた訳じゃないから、その後で何かしら魔力を使ったからかもしれないけれど、先生から解放されて帰ろうとした時には、もうぷにっ子の姿で、ぷんすかしながら廊下で仁王立ちしていたのである。
あれは本当に…………可愛かった。
「どうして逃げたの?」
「――――」
「どうして怒ってるの?」
「――――」
「どうして助けてくれなかったの?」
鞄を取りに教室に向かう途中の階段で、ずっと黙りだったルーキフェルが立ち止まって振り返る。
「助けなど必要なかったのではないか? 我は邪魔であったろう。だから、逃げたのではなく気を利かせてやったのだ」
「思いっきり助けて欲しかったんですけど?」
「そうなのか?」
「何処からどう見ても、そういう状況だったでしょう? グザファン先生が言うこときくのは、おっきなルーキフェルだけなんだから――――あ」
「何だ?」
「自分が邪魔とか言って、本当は魔力切れするの分かって先生から逃げたんでしょ。ちっちゃいルーキフェルだと態度が全然違うもんね」
思い付いたそれらしい理由に、うんうんと頷きながらルーキフェルの傍を通り過ぎる。
でも、それだとやっぱり疑問が残る。ルーキフェルがぷんすかしているのは何故だろう?
今度は私が足を止めて振り返る番だった。
「!」
てっきり足元にいると思って目線を下げていた私は、ルーキフェルが私の頭の高さまで浮かんでいたことに不意を突かれた。
ぎゅっと、その小さな腕が私の頭を抱き締める。
「何? どうしたの?」
慌てる私をよそに、私の頭に頬をスリスリするルーキフェル。
「うん? にゃんこ? 猫になっちゃったの?」
スリスリするのはいいけど、ちょっと頭がごちんごちんとあたるのは遠慮したい。
それとも、スリスリしてると思わせて頭突きされてるのかな。それも嫌だ。
「あのね、痛いよ?」
言うと、身を離して正面から私を見つめた。
ぷにっ子なのに、何だか凛々しい顔しているから、見つめ返すのにはちょっと勇気がいる。
「グザファンとあまりに親しげであったから、気分が良くなかった」
「『親しげ』って……私がグザファン先生のところに行ってるのは、授業中にルーキフェルがどんな様子だったか報告させられてるからだよ。それで、今日もだいたいその姿だったことを報告したら――」
グザファン先生の前では少年の姿でなければいけないからか、離れている間はぷにっ子でいることが多い。魔力の消耗が抑えられるし、何よりみんなが可愛がる。
少年の姿の時は、この頃女子の大半と一部の男子がルーキフェルに釘付けとなってしまって、授業にならないこともあるから、可愛い姿でいてくれる方が助かるのだ。
私もたまに、少年の姿のルーキフェルの周囲が何だかキラキラしているように見えて、目が離せなくなる時がある。すると、私の視線に気付いたルーキフェルが、妙に色気のある眼差しを向けて微笑むから、頭の中が真っ白になって、本当に授業どころじゃなくなるから、勘弁して貰いたかった。
それはさておき、授業中、みんなの為でもあるぷにっ子の状態が多いことを話すと、グザファン先生は私に詰め寄り。
「やはりルーキフェルのやり方が生温いのがいけませんね。ここはサクッと胸と開いて、彼の為にその心臓を捧げて下さい」
なんて恐ろしいことを笑顔で言って、私のシャツのボタンを外そうとしたのだ。
そこへヒーローの如くルーキフェルが現れたというのに、すぐに出て行ってしまうのだから、見捨てられた感じがして悲しかった。
あれは下手をすると女生徒を襲おうとしている変態先生になってしまうから、危ないところだった。
――と、そこまで話して、もしかしてと思う。
「勘違い、した?」
「……」
「ルーキフェルが何より一番で、私のこと『ちんちくりん』とか言う先生が、私なんか相手にする訳ないって、分かるでしょう?」
「別に、勘違いなどしてはおらん」
ルーキフェルが今度は私の腕に抱きつく。甘えているみたいで、可愛い。
「結菜は我のものだ。それは絶対であらねばならん」
ちょっとドキリとさせられること言ってるけど、この姿ならまだ許容範囲だ。
どうせ、お気に入りのおもちゃを取られそうな子供と変わらない。
「大丈夫だよ。私はルーキフェルの『供物の娘』なんだから」
自分で言って空しくなるそれを、ルーキフェルはどんな気持ちで聞いたのだろう。
私の腕を抱き締める力が強くなって、学校を出てから暫くしても、黙ったまま離れなかった。
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