可愛すぎます、魔王さま!

織月せつな

文字の大きさ
10 / 25
魔王さま降臨編

魔王さま、甘える?

しおりを挟む

 ルーキフェルがぷんすかしている。
 背中の大きな翼の下の方をずりずり引摺りながら、のしのしと歩いているその足に、ピコピコ音の鳴るちっちゃい子用の靴を履かせたい。
 しかし、相変わらず怒りながらも私の周りをうろうろするのは、どうにかならないものかな。捕まえて抱っこしたいけど、顎とか鼻とか叩かれるのは痛いからもう嫌だし……。

 今回、ルーキフェルがぷにっ子になってしまったのは、私が保健室でグザファン先生から嫌がらせを受けていた時に、助けに来てくれたのかと思ったルーキフェルが、何故か逃げてしまった後であった。
 すぐに追いかけた訳じゃないから、その後で何かしら魔力を使ったからかもしれないけれど、先生から解放されて帰ろうとした時には、もうぷにっ子の姿で、ぷんすかしながら廊下で仁王立ちしていたのである。
 あれは本当に…………可愛かった。

「どうして逃げたの?」
「――――」
「どうして怒ってるの?」
「――――」
「どうして助けてくれなかったの?」

 鞄を取りに教室に向かう途中の階段で、ずっとだんまりだったルーキフェルが立ち止まって振り返る。

「助けなど必要なかったのではないか? 我は邪魔であったろう。だから、逃げたのではなく気を利かせてやったのだ」
「思いっきり助けて欲しかったんですけど?」
「そうなのか?」
「何処からどう見ても、そういう状況だったでしょう? グザファン先生が言うこときくのは、おっきなルーキフェルだけなんだから――――あ」
「何だ?」
「自分が邪魔とか言って、本当は魔力切れするの分かって先生から逃げたんでしょ。ちっちゃいルーキフェルだと態度が全然違うもんね」

 思い付いたそれらしい理由に、うんうんと頷きながらルーキフェルの傍を通り過ぎる。
 でも、それだとやっぱり疑問が残る。ルーキフェルがぷんすかしているのは何故だろう?
 今度は私が足を止めて振り返る番だった。

「!」

 てっきり足元にいると思って目線を下げていた私は、ルーキフェルが私の頭の高さまで浮かんでいたことに不意を突かれた。
 ぎゅっと、その小さな腕が私の頭を抱き締める。

「何? どうしたの?」

 慌てる私をよそに、私の頭に頬をスリスリするルーキフェル。

「うん? にゃんこ? 猫になっちゃったの?」

 スリスリするのはいいけど、ちょっと頭がごちんごちんとあたるのは遠慮したい。
 それとも、スリスリしてると思わせて頭突きされてるのかな。それも嫌だ。

「あのね、痛いよ?」

 言うと、身を離して正面から私を見つめた。
 ぷにっ子なのに、何だか凛々しい顔しているから、見つめ返すのにはちょっと勇気がいる。

「グザファンとあまりに親しげであったから、気分が良くなかった」
「『親しげ』って……私がグザファン先生のところに行ってるのは、授業中にルーキフェルがどんな様子だったか報告させられてるからだよ。それで、今日もだいたいその姿だったことを報告したら――」

 グザファン先生の前では少年の姿でなければいけないからか、離れている間はぷにっ子でいることが多い。魔力の消耗が抑えられるし、何よりみんなが可愛がる。
 少年の姿の時は、この頃女子の大半と一部の男子がルーキフェルに釘付けとなってしまって、授業にならないこともあるから、可愛い姿でいてくれる方が助かるのだ。
 私もたまに、少年の姿のルーキフェルの周囲が何だかキラキラしているように見えて、目が離せなくなる時がある。すると、私の視線に気付いたルーキフェルが、妙に色気のある眼差しを向けて微笑むから、頭の中が真っ白になって、本当に授業どころじゃなくなるから、勘弁して貰いたかった。

 それはさておき、授業中、みんなの為でもあるぷにっ子の状態が多いことを話すと、グザファン先生は私に詰め寄り。

「やはりルーキフェルのやり方が生温いのがいけませんね。ここはサクッと胸と開いて、彼の為にその心臓を捧げて下さい」

 なんて恐ろしいことを笑顔で言って、私のシャツのボタンを外そうとしたのだ。
 そこへヒーローの如くルーキフェルが現れたというのに、すぐに出て行ってしまうのだから、見捨てられた感じがして悲しかった。
 あれは下手をすると女生徒を襲おうとしている変態先生になってしまうから、危ないところだった。

 ――と、そこまで話して、もしかしてと思う。

「勘違い、した?」
「……」
「ルーキフェルが何より一番で、私のこと『ちんちくりん』とか言う先生が、私なんか相手にする訳ないって、分かるでしょう?」
「別に、勘違いなどしてはおらん」

 ルーキフェルが今度は私の腕に抱きつく。甘えているみたいで、可愛い。

「結菜は我のものだ。それは絶対であらねばならん」

 ちょっとドキリとさせられること言ってるけど、この姿ならまだ許容範囲だ。
 どうせ、お気に入りのおもちゃを取られそうな子供と変わらない。

「大丈夫だよ。私はルーキフェルの『供物の娘』なんだから」

 自分で言って空しくなるそれを、ルーキフェルはどんな気持ちで聞いたのだろう。
 私の腕を抱き締める力が強くなって、学校を出てから暫くしても、黙ったまま離れなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...