可愛すぎます、魔王さま!

織月せつな

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魔王さま降臨編

魔王さま、降臨?

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 その日、私はいつもより早い時間に学校に向かっていた。
 特に用事があった訳じゃない。
 ただ、目覚まし代わりのスマホのアラームより早く目覚めてしまっただけ。
 そして、朝食用のパンを買い忘れていた為に、栄養補助食品を少し齧っただけで済ませたことで、家を出る時間がその分早まってしまっただけ。
 通勤ラッシュに引っ掛かるかと思ったけれど、電車内は結構空いていて、いつもの時間みたいな息苦しさは全くなく快適だった。まあ、座れはしなかったけれども。
 私、宮森結菜、聖晶高校の二年生。訳あって一人暮らしをしている。一応品行方正であるという評価を崩さないよう、成績はそこまで良くなくても色々頑張ってはいる。でないと快適な一人暮らしからさよならしなければならなくなってしまうからだ。

「……なんか、変な感じ……」

 いつも通る道なのに、少し時間が違うだけでこうも人通りに差があると、何故か不安になってしまう。
 この並木道を暫く進んだ先に学校があるのだけれど、自転車が一台通り過ぎただけで、振り返って見ても誰もいない。

 早いと思ったのは勘違いで、実は大幅に遅刻してる?

 電車が来る前にも、駅に着いた時も、家を出る前も、何度かその時目に出来る時刻を確認したのに、慌ててカバンからスマホを取り出そうと足を止める。

 …………と。

 ビュッ、

「! …………?」

 何か目の前に落ちて来た。
 よく分からないけど、黒いもの。
 大気を切り裂く勢いだったからか、強風に煽られた髪を手で撫で付けながら凝視するけど、やっぱりそれが何なのか分からない。
 敢えて言うなら、卵。真っ黒で私の身長の半分くらいの大きさのものだ。
 何処から落ちたのかも分からない。でも不自然過ぎるくらいに衝撃音もなければ、地面や卵にヒビらしきものもない。

 ――これって、夢じゃない? 早起きどころかまだ睡眠真っ只中というやつじゃない?

 ちょっとばかり動揺して心臓がバクバクいってるけど、そんな気がするだけで実際は何ともないに違いない。
 そう自分を落ち着かせようとしているところで、パリッと乾いた音がした。
 卵の方からだ。

「えっ、えっ? 生まれるの? なんか出て来るのっ?」

 ダチョウの卵ってこんなだったかしら。象って哺乳類だと思ってたけど実は卵を産む動物? もしかして恐竜とかで奇跡の大発見? それともお化け? お化けって卵から生まれるの?

 すっかり混乱した頭の中は大忙しなのに、身体は全く動いてくれない。
 ここは素早く逃げるか物陰に隠れるといった選択をしなければならないのに。

 パキパキパキ……

 でも大丈夫。これは夢。絶対夢。何があっても夢だから!

 心の中で自分を励ましている間に、黒い卵に白い亀裂が広がり続け、とうとうパリッと――。

「何だ。人間は貴様だけか。我への供物にしては貧弱な娘よの」
「…………」

 身を丸くさせて中に入っていたのは、私と年齢の変わらないような男の子で。
 髪の色や瞳の色は日本人っぽいし、喋った言葉も日本語だったけど、西洋とのハーフのような綺麗な顔立ちをしていて。
 着ている服が何かのコスプレのような黒い軍人服な上に、窮屈そうに縮こまっていたらしい翼がバサリと背に広がる。
 漆黒の翼。鳥のものというより、天使のそれを染めたような。

「さて、我の美しさに声も出せぬところであろうが、貴様しかいないのであれば仕方あるまい」

 男の子がゆっくりと私に近付き、顎を掴まれて上を向かされる。
 身長差の所為か顔を近付けてくる男の子を凝視しながら、さっき彼が言った「供物」という言葉を思い出し、食べられちゃうのかな、と他人事のように思った。

「我が名はルーキフェル。この世界を滅亡へと導く魔王なり」

 キスされるんじゃないかと勘違いしそうなまでに唇を寄せられ、意識が遠くなる。
 ああ、ほら。やっぱり夢だった。

 その事を何だか残念に思いながら、抗うことなく意識を手放す。

 けれど、これが夢じゃなかったと知るのに、そう時間はかからなかった――――。
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