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魔王さま降臨編
魔王さま、編入?
しおりを挟む「……さん、宮森さんっ」
――――?
身体を揺すられ、目を開けた。
背中と首が痛い。お尻が冷たい。何で座って寝てるかな。
「宮森さん、大丈夫?」
「……………先生? あいたっ」
私を呼びながら揺すっていた人は担任の先生だった。そのことにびっくりして顔を上げたら、後頭部を寄り掛かっていたものにぶつける。
「近所の方が連絡くれたのよ。正門前で女生徒が倒れてるって。何があったの?」
後頭部を擦りながら見上げ、正門の学校名が記されたプレートの下に座っていたことを知り、瞬きすること数回。
はてさて。私は何故こんなところで眠りこけていたのでしょうか?
何があったのかと担任の福嶋先生に再度尋ねられたけれど、私もそれを知りたい。
登校時間らしく生徒たちが大勢こちらに向かって来るのが見え、慌てて立ち上がる。
既に正門を過ぎた人や、こちらに向かって来る何人かは、先生がいることもあって何事があったのかと興味を持って見られていた(もしくは見られている)のだろう。眠りこけていたところまで見られていたのだとしたら、恥ずかし過ぎて穴があったら入りたい。否、埋まりたい。
「具合、悪い? 保健室に行く? それとも病院に行く?」
「いえ、大丈夫、です。ご心配をお掛けしてすみません」
幾つもの視線を感じながら(どうか自意識過剰なだけでありますように)俯き加減で言うと、先生が心配顔で覗き込んで来る。
こんなところで眠っていた理由について、貧血を起こして座り込んでいたら意識が遠くなってしまったのだと、少し苦しい言い訳をすると、福嶋先生はまた保健室をすすめて来たので、愛想笑いでもってお断りし、その場をどうにか誤魔化すことに成功した。
教室に入ってから、先生とのやり取りを見かけたらしい友人たちからも尋ねられたけど、同じようにして言い訳を述べると、あっさり信じてくれた。
「もう、話聞いてびっくりしたんだからね」
前の席の文音ちゃんは、部活の朝練から戻るところで、少し大袈裟にされた話を聞いて、心底心配してくれたらしい。なんか、本当ごめんなさい。
「みんな、おはよう!」
チャイムとほぼ同時に福嶋先生が教室に入って来た。
わたわたしながら立ち話や他の席の子のところに行っていた生徒たちが席に着くが、みんなの視線は先生とは別のところへ集中していた。
「…………あれ?」
日本人離れした綺麗な顔立ちの男の子。学校指定の制服を何処から調達したのか、乱れ過ぎない程度に着崩している。
――――ちょっと待って。何処から調達したのか? さてさて、どうして私は彼と初対面ではないと思っているのでしょうか。
「ちょっとちょっと、めっちゃイケメン!」
興奮気味の文音ちゃんが、私の肩をバンバン叩く。
クラスの女子はみんな男の子に目が釘付けだ。中には男子まで似たような反応を見せているのもいる。
「喜びたまえ。これより貴様らを存続させるか滅ぼすかの選定を、この魔王ルーキフェル自らが行う」
「…………」
「存続が可能な者は我に絶対服従の隷属となるが、逆らえば無論処刑する。我は寛大故に、この世界の種を一握り残してやることにしたのだ」
「…………」
「その一握りがこの教室にいる貴様らの一部のみであることを誇りに思え。これは『供物』の娘の存在あっての余興でもある。我を恐れよ。我を畏れよ。崇拝し、畏怖しながら選定の時を待て!」
「…………」
みんな、一言も喋らなかった。静まり返った教室内に、よく通る男の子の声はしっかり耳に入ったけれども、誰も理解が追い付かない状態だった。
そんな中、私だけは違った。思い出して、声をあげそうになるのを堪える。
私が夢だと思っていたもの。登校時に恥ずかしい思いをさせられた原因となるもの。それが魔王を名乗るルーキフェルとの出会い、だ。
ルーキフェルは「供物」のところで私を示すように手を差し出し、目が合うと惚れ惚れするようなクールな笑顔を見せたけど、言ってることが中二病的で効果が半減している。
だけどまさか、編入生として再び会うことになるなんて。
空から降って来た黒い卵から生まれて来た人だよ?
魔王とか言ってるし、今はないけど背中から真っ黒な翼を生やしていた人だよ?
あれはどういうイリュージョンですか?
「やっべ! 頭のおかしい奴来ちまった~」
わざとらしく大声をあげたのは、ちょっと怖い感じで近寄り難い元原くんだ。
「自分のこと魔王とか言っちゃってさ~、馬鹿なの?」
「フン。愚か者が。我の真の姿を見せてやろう。そして目に焼き付けるがいい」
クイッとゆるめていたネクタイを更にゆるめ、ルーキフェルが身体を宙に浮かせる。
その時になってようやく教室内がざわめき始めた。人が浮かんだのだから無理もない。
ゆっくりと上昇するルーキフェルに、元原くんも呆然とした表情になる。
バサリ、と背後に顕れる漆黒の翼。
その身体が濃い紫色の光に包まれたかと思うと――。
ポテッ、
「ぎゃんっ!」
ルーキフェルがいた筈の高さから、何かが落ちた。そして聞こえた悲鳴のようなもの。
「……あら、あらあらあら……」
落ちたものを拾い上げる先生。何故か口許がほころんでいる。
「うう、やはり『供物』があの貧弱な娘だけでは足りなかったか」
がっくりと項垂れる幼児が見える。先生に「高い高い」されてる感じで、正面はこちらを向いているから、顔がよく見えるのだけど……ほっぺたがぷにっとしていて幼い印象になったルーキフェルそのものだ。
制服がその姿に合わせて縮んでいるのが不思議。翼は今のルーキフェルの身長と同じくらいか少し大きいみたいだ。
「な、な、何だ、お前っ!」
「可愛い! 可愛い可愛い可愛い!」
「先生、あたしにも抱っこさせて~」
「あっ、あたしもあたしもっ」
真っ赤になって元原くんが叫ぶ中、女子と一部の男子がルーキフェルの元へと殺到する。
私は、どちらかと言うとみんなの反応に驚いていた。
確かにぷにっ子になったルーキフェルは可愛い。距離があったけど、ちゃんと見えたのだから断言出来る。
だけどみなさん、忘れてませんか? さっきまで普通の男の子だったんですよ? 滅ぼすだの何だのと物騒なこと言ってたし、何処に隠し持っていたのか翼生えちゃうし、ぷにっ子になっちゃうし。そんな人、います?
…………そうか、彼は人ではなかった。魔王さまだ。
「おい、娘! 我の『供物』よ、早く助けに来ぬか!」
抱っこが嫌いなネコみたいに、みんなの腕から逃れようとジタジタしながら言って来るけど、素知らぬ振りを決め込むことにした。
貧弱な娘。その暴言、許さないんだから。
実際のところ、何が目的で学校に潜り込んだのかは分からないけど、クラスのみんなから(いつの間にか元原くんも、ルーキフェル抱っこ争奪戦に参加している!)歓迎されたようだ。
はてさて、これから一体どうなることやら。
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