ゆるゾン

二コ・タケナカ

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アタシ達が歴史について話している後ろで、かいちょがゆらゆらと揺れ始めた。ふーみんの肩越しにこちらへ視線を投げてくる。
「どうしたの?かいちょ」
「ちょっと、私もいいですか?」
そう言ってから、彼女は抑えきれないといった感じに喋り始めた。
「1917年というとロシア革命の年ですね。第一次世界大戦の敗色ムード広がるロシア帝国では戦争継続に反対する大規模な市民デモが2月に起こりました。いわゆる二月革命です。きっかけは戦争によりインフレに陥っていた為、生活物資が市民に行き渡らなくなった事によります。皇帝は国内の事情より、他国との戦争に勝つことを優先していたんです。怒りを爆発させた市民によってデモは大規模化。それを沈静させるように命じられた軍も長期にわたる戦争で疲弊していた為、命令に応じず、逆に反乱が起きこの混乱によりロマノフ王朝は崩壊しました。代わりに自由主義の臨時政府が設立されたのですが、臨時政府も戦争の続行を決定したため、またしても市民の反感を買います。そこに台頭したのがレーニンです。武装蜂起により臨時政府が倒れたのち彼は新政府の代表となりました。この政府により世界初の社会主義国家が誕生する事となったのです」
かいちょ、語るねぇ。ふーみんもはなっちも唖然としているじゃないのさ。
「詳しいねぇ、かいちょ」
「ハイ。興味があったので丁度調べたばかりだったんです」
よっぽど喋りたかったみたいだから、アタシはもう暫く付き合う事にした。

「1917年の前後だと14年から18年にかけて第一次世界大戦が起こっています。日本では開戦により欧米諸国からの輸入がほぼ途絶えた為、なら国内でまかなおうと重化学工業を中心に企業の勃興が相次いだそうです。とりわけ海運業・造船業の発展は目覚ましいものだったとか。日本の産業は農業から急速に工業へと加速していったんです。各務原の飛行場開設もそうした時代背景に基づいているんじゃないでしょうか」
「岐阜に海は無くとも、空がある!」アタシはビシッと敬礼してみせた。
かいちょがフフっと笑って続ける。
「第一次世界大戦で日本は日英同盟を 理由に連合国側で参戦してはいますが、その主戦場はヨーロッパが中心でしたから本土に直接の被害は無く、逆に物資が枯渇し始めた欧米諸国へ向け今度は日本の製品が輸出されるようになったそうです。海外需要に応える形で好景気をもたらした、いわゆる大正バブルに湧いていたのがこの頃の日本です。」
アニメやゲームの話ばかりで出番がないと感じていたのか、かいちょは満足そうに話し終えた。
すぐにこれだけの知識が出てくるなんて、流石だよ。勉強しているだけの事はある。
アタシは感心していたけど、歴史が苦手なふーみんは目が点になっていた。その横ではなっちの方は別の意味で目が点だ。
「大正時代にもバブルがあったなんて・・・・・・私達の時代には何も無い」はなっちが悲しい目をしている。ダメだ!彼女にお金の話をしては!

アタシは話を航空自衛隊へと戻した。
「岐阜基地は事前に申し込めば中を案内してくれるツアーがあるんだけど、こっちは博物館と違って撮影禁止なんだよ。一応軍事機密ってやつさ。ツアーで回れるくらいだから見られてもたいしたことは無いんだろうけど。アタシは実際に飛んでいる姿を撮ろうと思ってたから、お昼はコンビニでパンとジ○アだけ買って基地の東側にある公園で待ってたんだ」
晴れ渡った空にジ○アを掲げる写真を見せてあげた。
「ん?何でジ○ア?」
やっぱりふーみんではピンとこなかったかぁ。でも、まあ『岐阜基地・ジ○ア』の2ワードだけで作品名がすぐに出て来たのなら、中々のアニメオタクだとは思うけど。
「さっき言ったじゃないか。小道具だよ。岐阜基地はね、アニメひ○ねとま○たんの聖地でもあるんだ。戦闘機に擬態しているドラゴンの話なんだけど・・・・・・」
「ハイハイ。またアニメね」ふーみんが手をヒラヒラと振る。
アタシが聖地の写真をツイッターに上げれば、すぐ反応が返って来るというのに・・・・・・張り合いがないなぁ。まあ、いいけど。
「休日に飛行する時は事前にお知らせされているから、それ目当てにでっかい望遠鏡を付けた一眼レフカメラ背負ってファンが集まってくるんだよ。公園は絶好の撮影スポットとしてオタクの間では有名なんだ。アタシも邪魔しない程度にしか撮れなかったけど、動画撮ってきたよ」
スマホで撮った動画には戦闘機がコメ粒ほどに小さくしか写っていない。それでも迫力のあるエンジン音はそのままに聞こえてくる。
「凄い音だったんだよ!」その時の様子を再現してはなっちが耳を塞いで見せた。
「たまに見かける時のものとは全然違ったね!」
「私には何がいいのか分からないわ」
「ふーみんも実際に近くで見てみれば興奮すると思うよ。各務原まで手軽に行けるし。ここからならバスと電車で40分くらいだよ」
「いいわよ。私、自衛隊とかそういうの興味ないから」
そうですかい。こちらもあなたの主義主張に関与するつもりはありませんよ。

うーん、聖地巡礼に誘うにもお嬢様に合わせて場所は選んであげないといけないのかぁ。どうしたもんかな?
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