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第4章

4-25「ピコ族のターン」

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4-25「ピコ族のターン」

ガリッ!・・・・・・ボリボリボリ
手作りの携行食を食べながら、私はコッレへ向かいテクテクと歩いていた。

昨日は街道が通行止めになり思わぬ足止めを喰らった為コウの町に一泊し、今朝コッレへ向かって出発したのだ。
馬車は懲り懲りだったので歩きにした。歩幅が狭く、歩くのが遅いピコ族の私でも、コウからコッレの街まで昼過ぎには着くはず。

ガリッ!・・・・・・ボリボリボリ
西の山で食べるつもりで持っていった携行食は予定より早く街に戻ってきてしまったため、手を付けることなく余ってしまった。次の遠征に向けてまた新しい携行食を作るので今、その余ったものを食べているのだが・・・・・・
(喉が渇くわね)

携行食は味などは二の次で、栄養重視。
その都度手に入る材料で適当に作っているから味はバラバラ。今食べている物は甘ったるく、そしてしょっぱかった。
毎回共通しているのは日持ちさせるために水気はなく、パサパサしている事。食べきろうと思って我慢していたが、しょっぱさとパサパサした食感に喉がカラカラだ。

元々携行食はこんなにボリボリと食べるものではない。
山に入る時は日持ちのする食糧をリュックいっぱいに詰め、少しづつ食べながら山に分け入っていくが、携行食は最後の最後、用意した食料が尽きた時に手を付ける一番最後の非常食だ。濡らさなければ腐る物ではないので、日持ちする。

これに手を付けたら街に帰る目安にしている。
たとえ帰り道でも何が起こるか分からないので、いつもは少量づつ温存し食べていく。携行食をほんのひと口、口に含んであめ玉を舐めるようにだ液で溶かしながら飲み込んでいくのだ。だから喉が渇くほど甘じょっぱくても問題無い。
私にとって日にちが経って少し古ぼけた携行食の味は、やっと街に戻れるのだという安心感をもたらす味だ。

喉が渇き休憩しようと思っていたところに、ちょうど街道脇に積み上げられた石積を見つけた。そこに腰かけリュックからカップを取り出す。
「ウォーター」
たぷんっ!
カップに溜まった水を私は一気に飲み干した。
「ふー」
休憩がてら街道を眺めていると馬車が何台も通り過ぎて行く。どうやら今日は通行止めされていないらしい。

目指すコッレの街の南には草原が広がっていて、それを囲うようになだらかな山々が連なり盆地になっている。その山並みが途切れる盆地の出口付近には、なぜかこんもりと木々が茂った場所が残されていた。
草原の中でよく目立ち、まるで海に浮かぶ島のようだから人々からは「浮島」と呼ばれる。

その浮島はエルフの長が管理しているのだというウワサを聞き、どんな手ごわいモンスターが潜んでいるのかと思った私は、パパに立ち入り許可を求めた事があった。しかし、パパはとても危険な場所だから入ってはいけないと言って、立ち入る事を許してくれなかった。
冒険者ギルドでもその場所に立ち入る事を禁止しているため冒険者達も近づかない。

今朝コウを出立する時に聞いた話では、昨日の通行止めは盆地の出口付近の街道に簡単なバリケードが設置されていただけだったらしい。監視する兵士もいなかったそうだ。
街道を逸れてバリケードを無視すれば通れたはずだが、誰も通ろうとしなかったのは立て看板に「コノサキ キケン」と書かれていたためだ。
この先といえば浮島がある場所とあって、誰もバリケードを越えて進む者はいなかったという。

(見に行ってみますか、)
パパの言いつけを破るつもりは無い、ようは入らなければいいのだ。少し近づいて眺めるくらい構わないはず。
それに冒険者達の間ではあそこには何もないというのが、通説だった。
誰かが禁止されているにもかかわらず入ったのだろう。中は木々が生い茂るばかりで特になにもなく、いたのは数匹のモンスターだったらしい。

(きっとモンスターの吹き溜まりじゃないかしら?)
人が側にいない時のモンスターは自分で考えて動いている様には見えない、ただ移動しているといった動き方をする。それは水が斜面を流れるように、進みやすい方へと流れていくような動き方だ。体の通ることが出来ない障害物が無ければ真っ直ぐに突き進んでいく。

その習性を逆手に取って設置されているのが私が今座っている石積だ。私の背丈ほどの低い石積みだが、中型程度のモンスターならこの壁にぶち当たると進路を変更する。
こういった石積みがいたる所に設置されていてモンスターの進行を阻むのに一役かっている。

この石積みや自然の段差、岩などによって進路を阻まれると、どういう順路を辿るのか分からないがモンスターが一カ所に集まる事がある。それを冒険者の間ではモンスターの吹き溜まりと呼んでいる。
きっと浮島はモンスターの吹き溜まりになりやすい場所なのだろうと私は睨んでいた。だから昨日の通行止め騒ぎも偶然、溜まっていたモンスターが一度に出てきたんじゃないかと思う。

「よっと!」
ひと息つけたので、座っていた石積みを飛び降りた。
(入る訳じゃないし、約束を破るつもりは無いし・・・・・・)
もしモンスターがいるのなら、石でも投げ込んでおびき寄せ倒してやろうとは考えている。これくらいならパパも許してくれるだろう。

自分に言い訳しながら、バリケードが設置されていたという場所へ向かった。
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