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4話:温かさに触れ
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「……親と……のか」
「それなら……でしょう、……つれて……?」
「い……、もしか……れた……から……いてからに……」
「そう……、お……でも……おきましょう」
夢も見ないほど深い眠りについていた。誰かの声が聞こえて薄っすらと意識が浮上していく。見知らぬ天井に嗅ぎなれない匂い。自分の布団よりふかふかなベッド。それに聞きなれない声。寝ぼけた頭ではなにが起きているのかわからなかった。次第にハッキリしていく意識に思い出す、あの世に行ったかと思ったら見知らぬおじいさんに出会い、家に招かれ、お姫様抱っこで布団に寝かされとこと。最後のことは一番思い出したくなかった、なんで思い出した、僕。ズン、となっているとガチャと扉が開かれた。
「お、坊主起きたか。体調はどうだ?」
「大分よくなりました。すみません、ベッドお借りした上に寝てしまって」
「ハハハ! 寝させるためにベッドへ運んだからな、良くなったなら何よりだ。起きられるか? 起きられそうならばあさんが茶と菓子用意してくれてるから食べようや」
「寝かせてもらった上にそこまでして頂くわけには」
「少し聞きたいこともあるからな、無理はせんでいいがお前さんが良ければ色々聞かせてくれ」
遠慮するのは日本人の性だが、お願いされたら断れないのも日本人の性である。お茶も出されたもの一杯とお菓子も最低限の量だけにすればいい。渋々といった感じでベにッドから降り、おじいさんについて行く。ガチャと寝室であろう部屋から、最初に案内された部屋へ案内されるとふわっとなんとも言い難い香りが漂ってきた。でも不快な香りではなかった。
「あら、起きたのね。さあさあ、そこにお座り。少しお茶暖め直しますからね」
よいしょ、と言いながら重たそうに腰をあげ後ろの暖炉の前に置いてある小さめのワゴンに乗ったティーポットの横に置いてあった小さな炉みたいなのにポトといつの間にか手に持っていた瓶に入った液体を垂らす。するとぽわっと中から暖かそうな光が灯る。その炉にティーポットを置き、しばらくするとぽこぽことティーポットから音がする。
二人暮らしには少し大きいんじゃないかと思うテーブルに合わせるかのような少し大きめの丸椅子に座っていた僕はそれを見て、どこか懐かしい気持ちになる。いや、懐かしいと言うかどこか見慣れた光景。思えばこの草花も見たことないと思ったけど、どことなく見覚えがあるようなないような。
「お茶が入りましたよ。一緒にクッキーも召し上がり」
目の前に出されたティーカップからは部屋に入った時と同じ香りがする。それから上がる水蒸気で僕は喉が渇いていた事に気が付く。出されてすぐ飲むのも気が引けるが、喉の渇きに抗えず、いただきますと言ってありがたくお茶を頂く。飲んだ瞬間口に広がる独特な苦みと後から来る甘み。味は似ていないが、その味の広がり方は小学生だった頃、少し風邪の症状があった時に一度だけ飲まされた漢方みたいだった。まあ、案の定苦くてその後は全力で拒否したが。無事に風邪を引いたのも懐かしい。その懐かしさからか、暖かいお茶で体も暖まりほっと吐いたお陰か、僕の視界がぼやけてくる。
「あれ……」
ぼろぼろと僕の目からは涙が溢れ出る、止めようと思っても止まらない。少し焦ったように近づいて背中をさすってくれるおばあさんに、おろおろするおじいさん。すみません、すみませんと繰り返すもあの死んだ感触やら親の事やら色々思い出し体は震え、涙は止まらず、今こうして見知らぬ人たちの家にいることへの不安も募ってくる。
「坊主、何があったんだ? ああ、いや。無理して話さなくてもいいが……。だが場合によっては近くの街の自警団だったり王都の憲兵に話した方がいいかと思ってな」
がたいのいいおじいさんが遠慮がちに聞いてくるのもなんだか申し訳なくなり、余計と涙が溢れてくる。今は何されても涙が溢れるらしい。自分の体なのにコントロールできないのも悔しい。あ、いや、すまんとか、おじいさん、泣いてる相手になに聞いてるんです! と温厚そうなおばあさんがおじいさんに怒り、泣いてる僕。なんとも混沌とした空間になってしまった。
「坊や、無理して話さなくていいからね。今はゆっくり休みなさいな。沢山泣いてもいい、じいさんなら殴ってもいい。ここにいる間は誰からも危害を加えることはないからね」
えっ、と言うおじいさんに目もくれることなく、おばあさんは優しく背中をさすってくれる。その優しさからもまた涙を流してしまう。すみません、すみませんと嗚咽の間からなんとか言う。
「ああ、ああ、謝らなくていい。お茶は飲めそうかね、少し飲みなさんな。落ち着く効果もあるからね」
おばあさんから手渡されたティーカップのお茶を溢さないように口元に持っていく。口元に持っていった時に鼻から抜ける香りでまた泣きそうになるがグッと堪えてお茶を飲む。おじいさんとおばあさんみたいな暖かさが体に染み渡る。心も体も温かくなり嗚咽も少し治まる。
「そろそろ日も暮れてくる、森を歩くには危ない時間だ。坊主がよければ今晩はここに泊まるといい」
夕陽が木々の隙間から部屋に差し込んでいる。見知らぬ土地で行く当てもない僕はおじいさんの言葉に甘えこくりと頷いた。
「それなら……でしょう、……つれて……?」
「い……、もしか……れた……から……いてからに……」
「そう……、お……でも……おきましょう」
夢も見ないほど深い眠りについていた。誰かの声が聞こえて薄っすらと意識が浮上していく。見知らぬ天井に嗅ぎなれない匂い。自分の布団よりふかふかなベッド。それに聞きなれない声。寝ぼけた頭ではなにが起きているのかわからなかった。次第にハッキリしていく意識に思い出す、あの世に行ったかと思ったら見知らぬおじいさんに出会い、家に招かれ、お姫様抱っこで布団に寝かされとこと。最後のことは一番思い出したくなかった、なんで思い出した、僕。ズン、となっているとガチャと扉が開かれた。
「お、坊主起きたか。体調はどうだ?」
「大分よくなりました。すみません、ベッドお借りした上に寝てしまって」
「ハハハ! 寝させるためにベッドへ運んだからな、良くなったなら何よりだ。起きられるか? 起きられそうならばあさんが茶と菓子用意してくれてるから食べようや」
「寝かせてもらった上にそこまでして頂くわけには」
「少し聞きたいこともあるからな、無理はせんでいいがお前さんが良ければ色々聞かせてくれ」
遠慮するのは日本人の性だが、お願いされたら断れないのも日本人の性である。お茶も出されたもの一杯とお菓子も最低限の量だけにすればいい。渋々といった感じでベにッドから降り、おじいさんについて行く。ガチャと寝室であろう部屋から、最初に案内された部屋へ案内されるとふわっとなんとも言い難い香りが漂ってきた。でも不快な香りではなかった。
「あら、起きたのね。さあさあ、そこにお座り。少しお茶暖め直しますからね」
よいしょ、と言いながら重たそうに腰をあげ後ろの暖炉の前に置いてある小さめのワゴンに乗ったティーポットの横に置いてあった小さな炉みたいなのにポトといつの間にか手に持っていた瓶に入った液体を垂らす。するとぽわっと中から暖かそうな光が灯る。その炉にティーポットを置き、しばらくするとぽこぽことティーポットから音がする。
二人暮らしには少し大きいんじゃないかと思うテーブルに合わせるかのような少し大きめの丸椅子に座っていた僕はそれを見て、どこか懐かしい気持ちになる。いや、懐かしいと言うかどこか見慣れた光景。思えばこの草花も見たことないと思ったけど、どことなく見覚えがあるようなないような。
「お茶が入りましたよ。一緒にクッキーも召し上がり」
目の前に出されたティーカップからは部屋に入った時と同じ香りがする。それから上がる水蒸気で僕は喉が渇いていた事に気が付く。出されてすぐ飲むのも気が引けるが、喉の渇きに抗えず、いただきますと言ってありがたくお茶を頂く。飲んだ瞬間口に広がる独特な苦みと後から来る甘み。味は似ていないが、その味の広がり方は小学生だった頃、少し風邪の症状があった時に一度だけ飲まされた漢方みたいだった。まあ、案の定苦くてその後は全力で拒否したが。無事に風邪を引いたのも懐かしい。その懐かしさからか、暖かいお茶で体も暖まりほっと吐いたお陰か、僕の視界がぼやけてくる。
「あれ……」
ぼろぼろと僕の目からは涙が溢れ出る、止めようと思っても止まらない。少し焦ったように近づいて背中をさすってくれるおばあさんに、おろおろするおじいさん。すみません、すみませんと繰り返すもあの死んだ感触やら親の事やら色々思い出し体は震え、涙は止まらず、今こうして見知らぬ人たちの家にいることへの不安も募ってくる。
「坊主、何があったんだ? ああ、いや。無理して話さなくてもいいが……。だが場合によっては近くの街の自警団だったり王都の憲兵に話した方がいいかと思ってな」
がたいのいいおじいさんが遠慮がちに聞いてくるのもなんだか申し訳なくなり、余計と涙が溢れてくる。今は何されても涙が溢れるらしい。自分の体なのにコントロールできないのも悔しい。あ、いや、すまんとか、おじいさん、泣いてる相手になに聞いてるんです! と温厚そうなおばあさんがおじいさんに怒り、泣いてる僕。なんとも混沌とした空間になってしまった。
「坊や、無理して話さなくていいからね。今はゆっくり休みなさいな。沢山泣いてもいい、じいさんなら殴ってもいい。ここにいる間は誰からも危害を加えることはないからね」
えっ、と言うおじいさんに目もくれることなく、おばあさんは優しく背中をさすってくれる。その優しさからもまた涙を流してしまう。すみません、すみませんと嗚咽の間からなんとか言う。
「ああ、ああ、謝らなくていい。お茶は飲めそうかね、少し飲みなさんな。落ち着く効果もあるからね」
おばあさんから手渡されたティーカップのお茶を溢さないように口元に持っていく。口元に持っていった時に鼻から抜ける香りでまた泣きそうになるがグッと堪えてお茶を飲む。おじいさんとおばあさんみたいな暖かさが体に染み渡る。心も体も温かくなり嗚咽も少し治まる。
「そろそろ日も暮れてくる、森を歩くには危ない時間だ。坊主がよければ今晩はここに泊まるといい」
夕陽が木々の隙間から部屋に差し込んでいる。見知らぬ土地で行く当てもない僕はおじいさんの言葉に甘えこくりと頷いた。
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