好きだったゲームのモブになりましたが、どうやら主人公も転生者らしくやりたい放題です。お陰様でモブから昇格できそうです

小野村 夏果

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5話:後ろめたい勘違い

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「シチューは食べれるかい?野菜は食べられないものあるかい?ああ、パンもあるが食べるかい?」
 どんどんとよそられていくボウルにお皿。大学は一人暮らしをしていたから誰かの手料理を見るのは久しい。ほかほかと湯気が上がりいい香りを放つ料理たちにグゥゥゥ、とお腹が鳴る。恥ずかしさから僕は顔を火照らせ顔を俯かせる。
「はは!いい鳴りっぷりだ!沢山食べるといい!じじいとばあさんだけで食べるには多い量だからな」
「すみません……ありがとうございます」
 人様の家でそんなにもがめつく訳にもいかないが、お昼ご飯を抜いた僕の体は美味しそうな料理を目の前にお腹は理性が無くなる。香りが漂う度にグゥ、とお腹が鳴る。その度に優しい目でクスクスと笑うおじいさんとおばあさん。おじいさんとおばあさんには子や孫がいるのだろうか。お子さんやお孫さんがいなかったら申し訳ない想像なのだが、二人の目はたまに会う祖父母と同じ目をしていた。
 ここは安心していい場所なのかもしれない。二人の目を見て思う。うちの祖父母はとても優しい人で、度々連絡をくれては体調崩していないか、いじめられてないかと連絡をくれ体調を崩した時はすぐに食料やら腹巻きやらを送ってくれ、近所の悪ガキにいじめられた時には電車で片道4時間の所来てくれ、悪ガキの家に乗り込みあわや警察沙汰になるところだったが。(もちろん捕まる予定だったのは悪ガキの方。)そんな祖父母と同じ目をしているのはきっと優しい人たちなんだろう。自分で言うのもなんだが、僕は人を見る目はある方だと思っている。
「いただきます」
 だからか僕は特に疑う事なくご飯にありつく。手を合わせて作ってくれたおばあさんと、拾ってくれたおじいさんに感謝してそう言うとおじいさんが「なんかの祈りか?」と聞いてきた。「僕のいたところでは食べ物や作物、料理を作ってくれた方に感謝してそう言う文化があるんです」
「ほー、良い文化だな。いただきます」
 説明するとおじいさんも見よう見まねで手を合わせて復唱していたし、おばあさんも手を合わせていた。やっぱり優しい人たちだ。
 心が温まったところでシチューを一口食べると、口から食道から胃までスルスルと暖かいものが流れ込んでいくのが分かる。緊張からか、少し冷えていたのであろう体が温まっていく感じがした。シチューも香りに劣らずすごく美味しい。野菜はゴロゴロ大きく、お肉も大きく切られており食べ応えが十分だった。それになんだろう、母親の作る料理では見たことのない野菜が幾つか入っていた。
「あら、お口に合わなかったかい?」
「いえ!そんなことないです!すごく美味しいです!ただ、この野菜?とか見たことなくて……、なんだか気になってしまって」
 食べた後スプーンを覗いていた僕が気になったんだろうおばあさんが話しかけてきた。慌てて否定するがどうしてもこの野菜たちが気になってしまい思わず聞いてしまった。
「ああ、それはカピタだね。そっちの細長いのはマリヒの種。あんまりそのままの形で流通することはないんだったか」
「カピタ……?マリヒ……?」
 どちらも野菜としては聞いたことのない名前だった。野菜としては。・・・・・・
「おや、聞いたことなかったかい?ポーションやら調味料なんかで出回っていると思うんだがねぇ」
「聞いたこと……あります」
 そうあのゲームで。
「そうよね?ポーションだと回復や火傷直しに使われたりするけど、そのままでも食べられるのよ」
「そう、なんですね。こんな味だったなんて、初めて知りました」
「シチューに入っちゃってるから本来の味とは少し違うけどね。そうね、味付け何にもしていないの食べてみる?」
 突然のおばあさんの提案にビックリしてしまう。あのゲームでは絶対に調合してからじゃないと口にできなかったポーションの素を食べるだって!?ゲームで出てきた素材が目の前にあることの驚きより、一ファンとして食べてみたいという好奇心の方が勝ってしまう。
「食べて見たいです!」
「お!チャレンジャーだな坊主。お前さんぐらいの歳の奴は大抵尻込んで食べようとしないんだがな」
「ずっと気になっていたんで!」
「ハハハ!面白い坊主だ!」
 おじいさんがこんなにも笑う理由に心当たりがあった。ゲーム内で説明されていた様々なポーションの原料にはものすごく苦いものが多いと言われており、子供の脅し文句として「ポーションの原料そのまま食べさせるよ!」と。きっとそれのせいだろう。
 でも僕は知っている。今食べたのもあるけれど、この二つは数少ない甘みがある素材で子供にも飲ませられるポーションの原料だということ!
「はい、持ってきましたよ。こっちのお皿がカピタでこっちのがマリヒ。マリヒは殻を取ってね」
 持ってきてもらったお皿にはシチューに入っていた形そのままの物が入っていた。マリヒの方は形はそのままだったが、白と黒のシマシマ模様の殻が付いていた。ひまわりの種を彷彿とさせるが、ひまわりの種よりもシマシマ模様は太く、均等に付いていた。僕がゲームで見たことのあるそれだった。
「い、いただきます」
 おじいさんはニヤリと笑い、おばあさんはさっきから変わらずニコニコの顔で見つめられ、ドキドキしながらまずはカピタを口にしてみる。
 カリッ
 シチューに入っていたのはしっとりしていたが、こちらは固い。どうやら乾燥させてあるようだ。肝心の味だが……
「うーん?味がしない……?いや、かすかに苦みと甘み?」
「ふふ、カピタは木の実だからね。苦みは多少はあるけれど食べられない程でもないでしょ?少し手を加えれば甘みも多くなるわ」
「酒にも合うんだが坊主にはまだまだ早いな」
「じいさん!余計なこと教えないの!」
 お酒、飲める歳なんだけどな。おじいさんの豪快な笑いとおばあさんの怒りに尻込みしてしまい言えなかった。確かに童顔な方だがまだまだと言われてしまうとは、少し複雑な気分だ。良くしてくれるのは子供と思われているからなのか、と思ったら本当の歳を伝えるのが怖くなってしまった。
「酒が飲めるようになったらカピタの良さに気が付くさ」
「じいさん!」
 だからか二人のやりとりを遮る事ができず、本当は20歳で成人しています、と伝えるタイミングを逃してしまった。
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