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りょう①
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パ~ス子ちゃん、出ておいで
あむるが言ったら……
「乗船するなと警告したはずだ」
いきなり声がするんだもんな。みんな飛び上がった。おおげさでなく、ホントに。オレはあむる・しじみの後ろ、3番目にいた。オレの後ろにはおじさんたち3人がいる。おじさんたちが飛び上がったかどうかは確認したわけじゃないけど、か細い悲鳴あげてたから、跳ねたに違いない。あむるは護衛のために大人たちを呼んだのだと思う。人選ミスとまではオレも言わないよ。頼りになりそうな大人は最初からいなかったんだから。
なんだかオレたちがおじさんたちを守っているようなポジションだからな。
なぜかいつもあむるが先頭になる。前にもこんな行列を作ったことがあったっけ。理科室の奥にあったあの部屋に2度目にいった時だ。あの時は殿を真智が守っていた。シンガリではなく、ケーキを守っていたのかもしれない。無事ケーキは守られ、その日はハリイや銀ちゃんたちとアフターヌーンティを楽しんだのだった。
まあ、あむるは楽しそうだったね。オレはといえば、ちょいとビミョーだったんだが。
夏休み前の思い出。ビミョーの意味合いを含めて回想はいずれ、暇なときに。今は暇じゃねーんだ。
パ~ス子ちゃんと甘い声をかけたあむるが一番飛び上がった。あむるって気が強いようで、怖がりだったりする。お化け屋敷? どーぞ、どーぞ。わたしは飴なめながら待ってるから。
でもクラスのなかじゃ、あむるが一番怖い。悪口言ってるんじゃないんだ。何かあったらオレこそあむるの後ろに隠れるからな。あむるはお化け屋敷は怖いくせに本物のお化けは怖がらないんだ。
オレのことはコバンザメと呼んでもらおう。ヤバいときは、あむるの背中にぺったりくっついて危険をさけるのだ。
ついでに言うと、オレは花も恥じらう乙女だからな、誤解なきよう。緊迫の場面のわりには思い出にふけったり自己紹介したりと忙しいのだが、これは手続きというものだ。オレは浅利りょう。14歳。乙女座、血液型C。よろしくね!
さてあむる。
腰が引けてるとか、へっぴり腰とか言うんだろうな、あの格好。それでも声は負けていない。
「いつ警告したのよ!」
何しろ相手は……つまりパス子というのはひとと同じくらいありそうな巨大なタコなのだ。何本もある足で船の廊下を踏みしめ、立っている。海中にいなくても平気な、不思議なタコなのだ。ひとと話ができることの方が不思議かな。さっきまでそこにいなかったはずなのに、忽然といるのも不思議。
1本の足で(手で)頭をかきながらパス子はいう。
「しじみにだったかな?」
つまり、オレたちのなかの誰かに警告したつもりなのだ。本当に警告するなら全員にしてもらいたい。誰かひとりに、なんていってたら、大抵漏れがある。ヘタをすると誰にも伝わらない。
ということで、しじみの頭をなぐる。いや、ちょうどなぐりやすい位置にあったんだもの。他意もひらめもない。
「パス子に警告をうけたのか?」
「警告なんて……さっきパス子ちゃんの夢は見たけど……」
さっきというのはパキケトゥスの群れのなかで眠りこけていた時のことだろう。さっきと言うにはあれからずいぶん時間がたってるが……。
パス子とはまんざら知らない間柄ではない。追いかけっこしたり、せっせっせーのヨイヨイヨイをした仲だ。ここで会ったが百年目というやつだ。
わからない?
深く考えないでおくれ。
「たたた」
「たこ。タコだ」
オレの背後でおじさんたち、盛りあがってるな。タコは世界のトレンドだからな。
だがオレは盛りあがるというよりは、
「警告なんか聞いてないぞ」
腹が立っている。「ねーちゃんの大切なパキケトゥスを食わせたのはお前だな!」
失恋の痛手をかかえたねーちゃんは、この始新世で新しい恋人(たち)と出会い明るくなれたのだ。パキケトゥスといっても外国人ではない。ブサイクな顔をしたオオカミのような獣たちである。
獣たちはまるでねーちゃんの言葉がわかるみたいに従うのだ。ねーちゃん自体タヌキと見分けがつかないから、ワイルドで食い意地のはった、恐るべき群れとなる。
森を駆け、海に踊る黒いオオカミたち。パキケトゥスたちが泳ぎ遊んでいたのはつい先ほどの話だ。始新世探検隊のメンバーはイカ釣り漁船クルーザーに乗りこみ、そのまわりのひょうきんなパキケトゥスたちに手をたたいていたら……。
「意図したものではない」
パス子はいう。
突然クジラの群れが船に襲いかかってきたのだ。厳密にいうと、恐竜の時代の海の爬虫類なんだって。古代の生物でもこの始新世にはすでに滅びてしまっているはずのもの。誰かがタイムマシンで連れてきたと考えなければつじつまがあわないのだそうだ。
誰でも彼でもタイムマシン、持ってるはずがない。
「何のためにパス子はこんなことをしたの」あむるも質問している。思いのほか穏やかな口調なので、つまりはあむるも相当に怒っているってことだ。
パス子はデカい目をグリグリ動かしてこちらを見ている。目の動きだけではパス子が何を思ってるやら、さっぱりだ。タコは無表情。
「後ろのお前たち。男たち!」
でも喋らせると威圧的。指名されたおじさんたち、「ひゃあ~」悲鳴あげてるしさ。敵は目の前だからオレは振り向かないが、おじさんたちがお互いにしがみついてる絵が浮かんで困る。
「レーザーライフルを下げろ。無効にしてある。ただのガラクタだ」
「ええ~そんなぁ。困るよ」
オレは振り向いた。さすがにしがみついてはいなかったか。だけど、今やパス子は敵だぞ。敵に向かって「困る」はないやろ。
パス子がブラフをかましてるとは思わんのか?
あむるが言ったら……
「乗船するなと警告したはずだ」
いきなり声がするんだもんな。みんな飛び上がった。おおげさでなく、ホントに。オレはあむる・しじみの後ろ、3番目にいた。オレの後ろにはおじさんたち3人がいる。おじさんたちが飛び上がったかどうかは確認したわけじゃないけど、か細い悲鳴あげてたから、跳ねたに違いない。あむるは護衛のために大人たちを呼んだのだと思う。人選ミスとまではオレも言わないよ。頼りになりそうな大人は最初からいなかったんだから。
なんだかオレたちがおじさんたちを守っているようなポジションだからな。
なぜかいつもあむるが先頭になる。前にもこんな行列を作ったことがあったっけ。理科室の奥にあったあの部屋に2度目にいった時だ。あの時は殿を真智が守っていた。シンガリではなく、ケーキを守っていたのかもしれない。無事ケーキは守られ、その日はハリイや銀ちゃんたちとアフターヌーンティを楽しんだのだった。
まあ、あむるは楽しそうだったね。オレはといえば、ちょいとビミョーだったんだが。
夏休み前の思い出。ビミョーの意味合いを含めて回想はいずれ、暇なときに。今は暇じゃねーんだ。
パ~ス子ちゃんと甘い声をかけたあむるが一番飛び上がった。あむるって気が強いようで、怖がりだったりする。お化け屋敷? どーぞ、どーぞ。わたしは飴なめながら待ってるから。
でもクラスのなかじゃ、あむるが一番怖い。悪口言ってるんじゃないんだ。何かあったらオレこそあむるの後ろに隠れるからな。あむるはお化け屋敷は怖いくせに本物のお化けは怖がらないんだ。
オレのことはコバンザメと呼んでもらおう。ヤバいときは、あむるの背中にぺったりくっついて危険をさけるのだ。
ついでに言うと、オレは花も恥じらう乙女だからな、誤解なきよう。緊迫の場面のわりには思い出にふけったり自己紹介したりと忙しいのだが、これは手続きというものだ。オレは浅利りょう。14歳。乙女座、血液型C。よろしくね!
さてあむる。
腰が引けてるとか、へっぴり腰とか言うんだろうな、あの格好。それでも声は負けていない。
「いつ警告したのよ!」
何しろ相手は……つまりパス子というのはひとと同じくらいありそうな巨大なタコなのだ。何本もある足で船の廊下を踏みしめ、立っている。海中にいなくても平気な、不思議なタコなのだ。ひとと話ができることの方が不思議かな。さっきまでそこにいなかったはずなのに、忽然といるのも不思議。
1本の足で(手で)頭をかきながらパス子はいう。
「しじみにだったかな?」
つまり、オレたちのなかの誰かに警告したつもりなのだ。本当に警告するなら全員にしてもらいたい。誰かひとりに、なんていってたら、大抵漏れがある。ヘタをすると誰にも伝わらない。
ということで、しじみの頭をなぐる。いや、ちょうどなぐりやすい位置にあったんだもの。他意もひらめもない。
「パス子に警告をうけたのか?」
「警告なんて……さっきパス子ちゃんの夢は見たけど……」
さっきというのはパキケトゥスの群れのなかで眠りこけていた時のことだろう。さっきと言うにはあれからずいぶん時間がたってるが……。
パス子とはまんざら知らない間柄ではない。追いかけっこしたり、せっせっせーのヨイヨイヨイをした仲だ。ここで会ったが百年目というやつだ。
わからない?
深く考えないでおくれ。
「たたた」
「たこ。タコだ」
オレの背後でおじさんたち、盛りあがってるな。タコは世界のトレンドだからな。
だがオレは盛りあがるというよりは、
「警告なんか聞いてないぞ」
腹が立っている。「ねーちゃんの大切なパキケトゥスを食わせたのはお前だな!」
失恋の痛手をかかえたねーちゃんは、この始新世で新しい恋人(たち)と出会い明るくなれたのだ。パキケトゥスといっても外国人ではない。ブサイクな顔をしたオオカミのような獣たちである。
獣たちはまるでねーちゃんの言葉がわかるみたいに従うのだ。ねーちゃん自体タヌキと見分けがつかないから、ワイルドで食い意地のはった、恐るべき群れとなる。
森を駆け、海に踊る黒いオオカミたち。パキケトゥスたちが泳ぎ遊んでいたのはつい先ほどの話だ。始新世探検隊のメンバーはイカ釣り漁船クルーザーに乗りこみ、そのまわりのひょうきんなパキケトゥスたちに手をたたいていたら……。
「意図したものではない」
パス子はいう。
突然クジラの群れが船に襲いかかってきたのだ。厳密にいうと、恐竜の時代の海の爬虫類なんだって。古代の生物でもこの始新世にはすでに滅びてしまっているはずのもの。誰かがタイムマシンで連れてきたと考えなければつじつまがあわないのだそうだ。
誰でも彼でもタイムマシン、持ってるはずがない。
「何のためにパス子はこんなことをしたの」あむるも質問している。思いのほか穏やかな口調なので、つまりはあむるも相当に怒っているってことだ。
パス子はデカい目をグリグリ動かしてこちらを見ている。目の動きだけではパス子が何を思ってるやら、さっぱりだ。タコは無表情。
「後ろのお前たち。男たち!」
でも喋らせると威圧的。指名されたおじさんたち、「ひゃあ~」悲鳴あげてるしさ。敵は目の前だからオレは振り向かないが、おじさんたちがお互いにしがみついてる絵が浮かんで困る。
「レーザーライフルを下げろ。無効にしてある。ただのガラクタだ」
「ええ~そんなぁ。困るよ」
オレは振り向いた。さすがにしがみついてはいなかったか。だけど、今やパス子は敵だぞ。敵に向かって「困る」はないやろ。
パス子がブラフをかましてるとは思わんのか?
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