願わくは

十八十二

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太陽神の気苦労

三貴子寄れば文殊の知恵?

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 昼下がりの執務室で太陽神天照は深いため息をついた。

 コンコンコンと扉がノックされたが無視だ。まだ昼休み終了には時間がある。
 また、コンコンコン。

「天照様?」

「……」

「天照様、入りますね」

 部屋の主たる私の許可もなく、側近の思金おもいかねが執務室に入ってきた。

「まだ入室の許可出してないんだけど?」

 私は開いてあったファッション誌に目を落としながら思金に嫌みをぶつけた。

「そんなの待っていたら会議の時間に遅れてしまいますよ」

 思金はやれやれと言った様子で肩を落とした。私はそれを見てフフと笑いがこぼれた。
 思金は極度のなで肩で、そんな彼が肩を落とす仕草をすると本当にずれ落ちたように見えるのだ。

「……天照様」

 思金はその言葉に気にしているなで肩を笑われたことと遅刻するぞという二つの意味を器用に乗せた。

「月読とスサノオは遅刻するに決まってるから、時間通り行っても待つだけよ?」

 私は机に突っ伏してファッション誌のページをめくった。

「だからといって、遅れていい理由にはなりませんよ。それにもし、お二人が遅れずに来ていた場合、天照様の姉としての面子を保てませんよ?」

 思金の言葉を受け、私はもしもの状況を脳内シュミレートしてみた。
 無気力引きニートの妹、月読と、救いようの無い超絶馬鹿の弟、スサノオに頭を下げる私、天照。謝罪する私をここぞとばかりに責め立てる妹と弟。ダメだ、絶対にダメだ! こんな屈辱耐えられない。姉としての死だわ!

 私は跳ねるように椅子から立ち上がり、身だしなみをさっと整え部屋を出る。お日様ののようなあたたかな色の髪がふわりと揺れる。
 パタンと私の執務室『天の岩戸部屋』の扉が閉まった。

 会議室に到着した私は勢い良く扉を開いた。ガランとした室内。案の定、一番。
 私はフフンと胸を張った。

「ほら、やっぱりじゃない」

「おめでとうございます。これでまた無敗記録更新ですね」

「ええ、ありがと」

 私は毎回、集合時間に早く着く競争を勝手にしている。勝ったら物事が上手くいくという願掛けだ。それに妹と弟に勝つと気分がいいし。

 椅子が中央に三脚向かい合って置かれている、ひどく殺風景な会議室。
 私は年期が入り味わいが出てきたウッドテェアに腰掛けた。椅子は全て違う。私の左手にはハンギングテェア、右手にはソファがある。これはそれぞれが持ち込んだ結果だ。

 私は後ろに控える思金とともに月読とスサノオの到着を無言で待つ。この時間は私にとって、ひいては八百万の神にとって大事な時間だ。このときにどれだけ集中力を高められるかで神々のこれからが大きく変わる。

 私は自分含め八百万の神の苦労を少しでも軽減出来るように集中力を高めていると、突然無遠慮に会議室の扉が開かれた。

「わりぃ」

へらへらと入室してきたあの馬鹿が、私の弟スサノオだ。
本人曰く、こだわりがあるらしいボッサボサの頭を今日は綺麗に後ろにまとめ、髭も綺麗に剃っている。服装も常識的なスーツで変な気崩しも無い。
私は弟の妻、クシナを褒めて上げたくなった。

突然、スサノオが頭を抑えた。

「いった! あぁ、すまんな……」

そういうと、スサノオは頭に差していた煌びやかな櫛を取り、優しく宙に放った。すると櫛はまばゆい光に包まれ次の瞬間、小柄で可愛らしい女性に変わった。彼女がクシナ、スサノオの正妻の櫛名田比売だ。

「遅れてしまい申し訳ありません、天照様、思金様」

そう言ってクシナは深く頭を下げた。

「いいえ、大丈夫よ」

私も思金も鷹揚に頷いてみせた。
クシナは決して悪くない。悪いのは絶対にスサノオだ、間違いない。
その思いがクシナにも伝わったのだろう、彼女はホッとしている。
スサノオは多趣味なヤツだ。大方、その趣味の一つに没頭していた所をクシナが引っ張ってきたのだろう。

「へっへっへ」

愚弟は反省の色を一切見せず、へらへらと右手だけを上げてみせ謝罪のポーズとしてた。しかしすぐに妻の一睨みを受けもう片方の左手も追加され両手を会わせた謝罪のポーズになった。

挨拶と謝罪を終えたスサノオとクシナは自分が持ってきたソファに向かった。スサノオはソファの右端に座り、開いている左端にクシナを座らせようとアイコンタクトを送るが、今回は従者として来ているクシナはそのままソファの後ろに控えるように立った。スサノオはしょんぼりとソファの中央に座り直した。

私はその一連をみてニヤニヤしていると、再び会議室の扉がトントントンと可愛らしくノックされた。
三貴子最後の一人、私の妹の月読がようやく到着したようだ。
私が入室の許可を出すと扉が開き、スーツ姿のうさ耳の女性が勢い良く頭を下げた。

「遅刻してしまい、大変申し訳ありませんでした!」

彼女は月兎、月読の従者の一人だろう。その後ろから彼女の主、月読が眠そうな顔で入ってきた。

「——ごめ。遅れた」

「本当に申し訳ございません!!」

二人そろって謝罪の言葉を口にするが、一方は耳の先まで垂れているのに、もう一方の主がその耳の付け根を揉みながら謝った。

「——よしよし、ミリミは悪くないよー」

月読はミリミという己の従者の頭を慈しむように撫でる。
スサノオが自身を棚に上げて、月読を指差し小馬鹿にしだした。

「だって悪いのはお前だもんな!!」

「オ——マエ……?」

「あっ、いや……ツク、姉ちゃん」

「——ふむ、よろしい」

つかかっていった馬鹿な愚弟が引きこもりの妹に瞬殺で撃沈したのを見てから私は月読に自分の椅子に座りなさいと指示した。
月読は従者ミリミを従えて、運び込んでいたハンギングチェアに体をすっぽりと収めた。

これでこの一室に昼と夜と海の最高管理者が集まったことになる。
それを確認して私は一度手を叩き、皆の注目を集めてから三貴子会議を始めた。
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