願わくは

十八十二

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太陽神の気苦労

夜に誘われ海に流され

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「では、三貴子会議を始めるわ」

 予定より三十分遅れているけどね。でもこれでも早い方だから本当に困りものだわ。

「うぃ」「——ぁ」

 バカな弟とアホな妹のふざけた返事が私の苦労の訪れを告げる鐘だった。

 というか、あんたらの従者二人ともちゃんと礼が出来てるのに何で主のあんたはできないのよ!?

「えーと、先ずは来てくれて感謝するわ。ありがと……」

 スサノオがすんごいドヤ顔してる。遅刻してきたくせに何で?
 ムカムカしてきた。……待て、怒るな。まだ始まったばかりだ。

「時間も押してるしさっさと本題に入るわ。
 人間が他の生物達を道連れに滅んでから五百年たち、今日は研究データの整理やその他諸々を片付けるための時間の終わりと新たな世界を造るための始まりの日。そこで、今回は『どんな世界』を『どうやって造るか』を話し合う場にしたいと考えているわ」

 ここで一呼吸おいて、この場にいる全員に目線を配る。スサノオとその妻、今日は従者としてきているクシナが頷き返してくれた。月読の後ろに控えているミリミは緊張気味にコクコク頷いて少し心配だけど、主の月読はちゃんと目が開いているし大丈夫と判断した。

「先ずは現状の確認から。
 今地上には私たちが五百年放ったらかしたせいで魑魅魍魎が大繁殖しているわ。また新しい生態系を作って研究するためには数をぐっと減らさないといけないわ」

 私が言い終わると同時に月読が発言した。

「——それは本来悪いことじゃない。——本来の形。感謝の心忘れちゃいけないよ。——横から……横入りした……じゃんね?」

「もちろん分かってるわ」

 月読がまともなこと行ってくれて嬉しくなった。
 しかしスサノオが真面目な会議の雰囲気と私の気持ちを壊した。

「あっ! なぁなぁ……、妖怪に、なんか……用かい」

「帰れ」

 次からコイツは呼ばないでおこう。

「——ねむぃ」

 と思ったら月読の集中切れ、もう少しで意識も飛びそうだ。

「いつまで起きてたのよ」

 私が嘆息混じりに聞くと月読は目を擦りながら答えた。

「——分からん。気付いてたら寝てた。今朝はリミに最終手段で起こしてもらったんだよ」

 最終手段という単語にスサノオがめざとく反応した。

「最終手段……? どんなんだ? ミリミ」

 スサノオの顔にはでかでかと面白そうと書いてある。

「えっ!!? やるんですかぁ? 」

 ミリミがもじもじしながら後ずさる。長い耳も力なく垂れ下がっている。しかし場の空気はミリミがその最終手段とやらを見せないといけない流れになっていた。ミリミはスサノオと月読の期待した眼差しに覚悟を決めたようだ。

「んんっ、スゥー……月姉ちゃん! 起きて! 朝ですよ! ダーイブッ!!!」

 羞恥に耐えながらダイブの真似をするミリミ。目尻に涙が溜まっている。
 私は月読に批難の眼差しを向けた。

「……ちょっと、ツク」

 しかし月読は鼻の下を伸ばしてニヤついていた。

「――かわええ。至福じゃぁ」

「……恥ずかしんですよぉ?……」

 真っ赤な顔のミリミが睨んだが、月読とってはご褒美だろう。
 月読とは違った、場を楽しむようにニヤッと笑っていたスサノオだったが、顔色に異変が現れた。

「うぅ……腹が--」

 突然スサノオが腹を押さえて呻いた。
 いつもの腹痛だ。私はまたかとため息が漏れた。

「トイレはあっちよ。ここでしないで、妖怪『脱糞髭』」

 姉の私がトイレの場所を教えてあげると、スサノオが蒼白の顔のまま睨んだ。

「嫁の前では止めてくれ!!」

「——頭上注意だよ。馬が降ってこないように」

 月読が更に追い打ちをかける。

「もう、やめて……!!」

 今度はスサノオが目尻に涙を溜めて部屋を駆け出していった。
 スサノオが一時退席したので、休憩にすることにした。
 その時、思金が私にそっと耳打ちした。

「天照様、会議は踊る、されど進まずですが。いや、踊っても無いのですが」

「うっさい! これでも頑張ってるのよ!!」

 どんなに話を戻してもあっちこっち話が逸れてしまう。


 スサノオがトイレに行ってる間、女性陣がミリミで遊びだした。
 まず、クシナがミリミを誉めちぎる。

「ミリミさんは本当に可愛らしいですわ。髪はさらさら。闇夜に輝く月のような銀色ですわね」

 クシナの賞賛に月読が敏感に反応した。月読のテンションが急上昇していく。

「でっ——しょう!! ——このカッコいい高級スーツもリミが着ることで安いリクルートスーツに視えてしまう、そんな可愛らしさがあるんだよね!!」

「ええ、ええ。分かりますわ、月読様」

「褒めるなら、ちゃんと褒めてくださいよ! お二人とも!!」

 二人におもちゃにされミリミはまた涙目だ。

 そうこうしているうちにスサノオが戻って来た。

「ういー。ひとまず収まったぜぇ」

「あ、お帰りなさい。マザコンのあなた」

 クシナが夫の弱点にクリティカルヒットをかます。

「ちょ!……泣くぞ、クシナ」

 既にレットゲージのスサノオにクシナがとどめの一撃をお見舞いする。

「そうやってすぐに泣くから、娘が駆落ちするんですよ」

 これはオーバーキルだ。

「もう、泣く」

 スサノオは涙だけは流すまいと必死に上を見上げ始めた。
 私は場が途切れたとみて、すぐさま話題を会議に戻す。弟のことは無視だ。寧ろ静かになっていい。

「増えすぎた妖怪をどうやって減らすかだけど」

 やっと本題に戻せたと思ったのに。

「――冒険者になりたい。クエスト!!」

 月読がまたアホなことを抜かす。

「それは、時間がかかりすぎるわ」

 私が冷静になれと言い聞かすも。

「賛成に一票。何事もやるからには面白くないとな。おれの座右の銘は遊び半分面白半分真面目ゼロだからな」

「あんたの座右の銘は知らないわよ」

 スサノオの早すぎる復帰からのまさかの賛同に、私のやる気が削ぎ落とされた気がした。正直もうどうでも良くなっきた。


 結局、二人のやりたいという気持ちに勝てる言葉見つからなかった。
 私も心のどこかで面白そうって思ってしまったのかもしれない。いやそれは無いな。投げやりな気持ちだったからだ。

「——四国から山陰、そこから北へ。——どう?」

「う~ん、九州忘れてない?」
 
「なら干支に行かせたらどうよ」
 
「負担が大きすぎるわ」

「——四元素とか、高ランカー用にしよう!」

「おしゃ、それで行こう!」

 さっきとは違ってすいすい話が進む。というか、冒険者確定の流れだ。
 これはちょっとヤバいぞ。そうだ休憩にしよう。
 休憩時間。女性陣の身内自慢を始まった。

「——僕の従者たちはね、優秀なんだよ。ミァミからミンミ、みんなかわいい」

 月読が薄い胸を張る。

「わたしの孫だって可愛いわ。偉業も成した傑物よ。それに優しいの。見てこのクッション、プレゼントしてくれたのよ」

 私も負けじと孫自慢。

「私の娘も可愛くって自慢ですわ。男の能力を見極める目はずば抜けていますもの。それに、妻としての力量も確かで夫の浮気癖を治したほどですわ。今は夫婦円満で幸せだといっていますの」

 クシナも。
 しかし、クシナの話が本当なら素直にすごい。

「待て! スセに会ってるのか!? いつ!?」

 スサノオが妻のクシナに詰め寄った。妻が駆落ちした娘に会っていること知らなかったようだ。
 その後、何故か妹と弟の悩み相談になった。

「——天ねぇ、天ねぇ。——どうしてもヒロインが死んじゃうルートに入っちゃうんだけど、死ないと先に進めないんだ。——でも、でも、惚れちまってるから……愛しちまってるから……生きて、生きてほしいんだよ。また笑ってほしいんだよ。どうしたらいいかなぁ」

「ゲームなんだから、軽く考えればいいんじゃないの? それか、選択肢を増やすか……てゲームか。じゃ、一生分の幸せをあげて、最期の瞬間まで笑顔にしてあげたらいいんじゃない?」

 ゲームを全くしない私に相談することじゃないと思うけど、一応自分なりの考えを答えた。

「テラ姉ちゃん、うちの畑いい感じだぜ。ただ、小麦んとこが日陰に入ってよ。そこだけちょっと頼めないか?」

「そう……でもごめんなさい。わたし、そういうのやらないのよ。前も言ったじゃない」

 スサノオは大宜都姫おおげつひめ殺害の罪滅ぼしで農業をしているのだが、今では毎年できた農作物を届けてくれるくらいどハマりしている。

 二人は他にも私に悩みを打ち明ける。

「天ねぇ、天ねぇ」
(もう、今度は何……)
「あのさ、テラ姉ちゃん」
(まだあるのぉ?)
「天ねぇ」「テラ姉ちゃん」
(全然会議が進まないじゃないのよ!! ああぁぁーーーーーーーー!!!!)



「もう!!! すっごい時間かかったじゃないの!!」

 とあるバーにて、側近たちとお疲れ様会を開催した。
 私は飲み干した空のグラスを、ダンと音を立て机に置いた。ついでに溜め込んだ鬱憤を酒精に包んで吐き捨てる。

「いいえ。さすが天照様です。話し合うべきものは全て出来ましたし、お二方の意見も、内容はともかく聞き出せました。お悩み相談もできましたし」

 思金が笑顔で言った。
 話題が横道にそれては修正、それては修正、を繰り返しながら、半ば意地で意見を引っ張りだしたのだ。

「大変なのはこれからよね。……冒険者ね。システム決めからギルド設計とか……考えることは山積みね……」

「大丈夫でございます。私ども、側近一団となってお役に立てるようにサポートいたしますから」

 側近たちが頷く。頼もしい。

「ええ、いつもありがとう。頼りにさせてもらうわ」

 天照はソーダ割りを作ってもらい、思金たちと何度目かの乾杯をした。

 カランカラン。入り口の鐘がなる。
 別の客が来た。侍の格好をした赤い髪の女性。腰には小刀が挿してある。
 彼女は私の知り合いだ。

「あら、カナ。今日は遅いのね」

 彼女は金屋子。側近の一人と仲が良く、それ繋がりで知り合った。

「お!? 天照、早いね。てことは、今日で二勝目だな。やるね」

 集合時間に早く着く競争のことを言ってるんだろう。

「聞いたよ。冒険者をやるんだって? ツキちゃんがそれは嬉しそうに話していたよ」

「はあ!!? あんの妹は……ある程度固まってからじゃないと公言しちゃ駄目なのに……」

「ははは……苦労が絶えないね、お姉ちゃん」 

 私達はそろって頭を抱えた。そして口の軽い妹には仕事を与えまくって忙殺してやると心に決めた。

「何も楽しみなのは月ちゃんだけじゃないぞ。ウチも、それから居候のヒルコも楽しみにしてる」

「……そっか。じゃ、頑張らなきゃね」

 天照は残りの酒を胃に流して立ち上がった。

「さあ、また新たな神話を作りましょう!」
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