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除け者達のファンファーレ
ドッヂ
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顔に絡み付いた毛髪を掻き分けて、目に飛び込んできてきたのは、お歯黒をした女の顔だった。目が合うとその顔は不気味な笑みを浮かべていた。
両者の視線をホスセリの盾が遮った。次の瞬間、鈍い打撃音が響く。
「その瓦礫に今、顔があったぞ!」
俺は剣先をその瓦礫に向けながら後ずさる。しかし、バランスを崩して尻餅をついた。
義足の膝にひびが入り、そこから俺の足の付け根から出る膿が漏れでていた。
俺は生まれつき手足がなかった代わりに、絶えず膿がにじみ出ていた。
膿は力むとたくさん出て、力を抜くと出る量が減る。義体はそれを利用して動かす仕組みになってる。
その動力源である膿が垂れ流し状態の今、俺の足は普段通りの動きをすることが出来なくなっていた。
俺の言動を受けて、ホスセリとシラも俺を襲った瓦礫から距離を取った。
三人は同心円上に立って、中心の瓦礫に注目した。
足下には、あの四人の冒険者から出る汚水が流れている。
ギルドに帰って彼らの死を伝えられるのは俺達しかいない。
そのとき、四人の冒険者が頭を潰された状態で輪になっている画が頭に浮かんだ。今の俺対の状況と似ている気がする。
ゾッとして後ろを振り返ると、頭部サイズの瓦礫が迫ってきていた。
慌てて黒縁を振って、両断する。
両断された瓦礫はそれぞれ、俺とホスセリ、俺とシラのちょうど間に落ちた。
俺から、至る所から瓦礫が飛んできた。一直線に飛来するもの、放物線を描くもの、湯気の向こうから様々なパターンで飛んできた。
しかし、飛んでくる瓦礫は必ず、一方向から一つずつ。避けるのは簡単だった。
間違いなく敵は一人だろう。そして湯気の向こうに影が全く見えないことから、能力はおそらく透明化の類いだと見当がついてた。直接攻撃に出ないのは、ここには温泉の湯が張っていて完全に居場所を隠せないからだろう。
俺達は飛んでくる瓦礫を避け続けた。
飛んでくる位置から敵のいる方向なら分かるのだが、そこに向かって走っても湯に足を取られて、上手く走れない。そして数秒後には次の瓦礫が別方向から飛んでくるから、向かっている間に敵が場所を移動して、走り損になる。
待てよ。敵も移動しているなら、移動している時に水の音がするはずだ。しかし、そのな音は全く聞こえてこない。
どうやって移動してるんだ? 完全なステルスが出来るのか?もし移動の音も消せるのならどうして直接攻撃を仕掛けてこないのか?
疑問が尽きない。
この間にも何投も瓦礫を放ってくる。俺達がそれをドッヂボール感覚で避けていた。
「次どっち?」
「シラの方からだ」
「オッケー」
一直線に飛来する瓦礫、シラが軽く身を翻して避け、今度は俺の方に飛んできた。俺は半歩ほど横にズレるだけで瓦礫が通り過ぎていった。
その後も敵は飽きもせず瓦礫を投げてよこす。
何十投と投げられて、俺達の周りにはたくさんの瓦礫が転がっていた。
だんだん投擲のタイムラグが長くなってきた。もうそろそろ投げられる物が少なくなってきたようだ。
俺達にはステルス性能が高い敵を倒す術を持っていない。だからどうかこのまま諦めんて逃げてほしい。
そう思った時だった。突然腹から鈍痛が走った。
「————ゴヒュ!?」
肺の中の空気が無理矢理押し出された。
どこから飛んできたのか、瓦礫が腹にめり込んでいる。さらに真っ黒な髪が瓦礫から伸び、体に巻き付いた。
髪が俺の体を締め上げ、瓦礫がグリグリとすり潰すように動き出す。
「グゥゥアアァァ!」
強烈な圧迫感と、腹がする潰される鋭い痛み。
服がすり切れ始め、瓦礫のゴツゴツとした質感や、湯で暖まった温度がより鮮明に感じ始めた。
「ウゥ、ゥゥ、アア、アア!!」
まるで獣のような声を上げて、髪を毟る。しかし毟っても毟っても生えてきてキリがない。むしり取った髪もひとりでにうねり指に絡み付いた。
その間にも瓦礫は服を擦り切り、とうとう皮膚に到達した。
ざらざらとした瓦礫の表面に触れた瞬間、想像を絶する鋭い痛みが襲う。
腹の皮膚が削られ、めくれ、すり切れる。
「イ”イ”イ”——————!!」
口端から泡を飛ばし泣き叫ぶ。半狂乱になりながら瓦礫を叩き、髪を毟る。
瓦礫は動きを止めず、赤い血が滴り、表面に肉片が付いた。
「ヒルコ!?」
ホスセリが駆け寄って、地面に落ちていた黒縁を持ち、瓦礫に刃を突き立てた。しかし、刀身を覆っていた膿が温泉で流れ神力を纏っていないただの刀では刃が通らない。
ホスセリが刀を義足のヒビに当て、ヒビから垂れている膿を刀身に塗る。神力が戻った黒縁は先程と違い、スパッと瓦礫を両断してみせた。
俺とホスセリの間の二つになった瓦礫が転がった。
放心状態の俺はへたり込んで、血が混じり赤黒くなったお湯を呆然と見つめていた。
シラが包帯を作って、真っ赤に染まった俺の腹に巻いてくれていると、女の笑い声が聞こえてきた。
————うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。
うふふ。 うふふ。 うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。 うふふ。 うふふ。
うふふ。
うふふ。
うふふ。 うふふ。 うふふ。
うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。
至る所から笑い声が聞こえてきた。
————うふふ。
俺とホスセリの間に転がっている瓦礫からも女の笑い声がした。
「うふふ。私の髪、綺麗でしょ?」
俺の血が付いた瓦礫の断面にお歯黒の女の顔が浮かんだ。
瓦礫を投げていたのは攻撃なんかじゃなかったんだ。あれはこれを運んでいただけ。俺達は妖怪の作った土俵の中にいる。
この妖怪の名は大首。
両者の視線をホスセリの盾が遮った。次の瞬間、鈍い打撃音が響く。
「その瓦礫に今、顔があったぞ!」
俺は剣先をその瓦礫に向けながら後ずさる。しかし、バランスを崩して尻餅をついた。
義足の膝にひびが入り、そこから俺の足の付け根から出る膿が漏れでていた。
俺は生まれつき手足がなかった代わりに、絶えず膿がにじみ出ていた。
膿は力むとたくさん出て、力を抜くと出る量が減る。義体はそれを利用して動かす仕組みになってる。
その動力源である膿が垂れ流し状態の今、俺の足は普段通りの動きをすることが出来なくなっていた。
俺の言動を受けて、ホスセリとシラも俺を襲った瓦礫から距離を取った。
三人は同心円上に立って、中心の瓦礫に注目した。
足下には、あの四人の冒険者から出る汚水が流れている。
ギルドに帰って彼らの死を伝えられるのは俺達しかいない。
そのとき、四人の冒険者が頭を潰された状態で輪になっている画が頭に浮かんだ。今の俺対の状況と似ている気がする。
ゾッとして後ろを振り返ると、頭部サイズの瓦礫が迫ってきていた。
慌てて黒縁を振って、両断する。
両断された瓦礫はそれぞれ、俺とホスセリ、俺とシラのちょうど間に落ちた。
俺から、至る所から瓦礫が飛んできた。一直線に飛来するもの、放物線を描くもの、湯気の向こうから様々なパターンで飛んできた。
しかし、飛んでくる瓦礫は必ず、一方向から一つずつ。避けるのは簡単だった。
間違いなく敵は一人だろう。そして湯気の向こうに影が全く見えないことから、能力はおそらく透明化の類いだと見当がついてた。直接攻撃に出ないのは、ここには温泉の湯が張っていて完全に居場所を隠せないからだろう。
俺達は飛んでくる瓦礫を避け続けた。
飛んでくる位置から敵のいる方向なら分かるのだが、そこに向かって走っても湯に足を取られて、上手く走れない。そして数秒後には次の瓦礫が別方向から飛んでくるから、向かっている間に敵が場所を移動して、走り損になる。
待てよ。敵も移動しているなら、移動している時に水の音がするはずだ。しかし、そのな音は全く聞こえてこない。
どうやって移動してるんだ? 完全なステルスが出来るのか?もし移動の音も消せるのならどうして直接攻撃を仕掛けてこないのか?
疑問が尽きない。
この間にも何投も瓦礫を放ってくる。俺達がそれをドッヂボール感覚で避けていた。
「次どっち?」
「シラの方からだ」
「オッケー」
一直線に飛来する瓦礫、シラが軽く身を翻して避け、今度は俺の方に飛んできた。俺は半歩ほど横にズレるだけで瓦礫が通り過ぎていった。
その後も敵は飽きもせず瓦礫を投げてよこす。
何十投と投げられて、俺達の周りにはたくさんの瓦礫が転がっていた。
だんだん投擲のタイムラグが長くなってきた。もうそろそろ投げられる物が少なくなってきたようだ。
俺達にはステルス性能が高い敵を倒す術を持っていない。だからどうかこのまま諦めんて逃げてほしい。
そう思った時だった。突然腹から鈍痛が走った。
「————ゴヒュ!?」
肺の中の空気が無理矢理押し出された。
どこから飛んできたのか、瓦礫が腹にめり込んでいる。さらに真っ黒な髪が瓦礫から伸び、体に巻き付いた。
髪が俺の体を締め上げ、瓦礫がグリグリとすり潰すように動き出す。
「グゥゥアアァァ!」
強烈な圧迫感と、腹がする潰される鋭い痛み。
服がすり切れ始め、瓦礫のゴツゴツとした質感や、湯で暖まった温度がより鮮明に感じ始めた。
「ウゥ、ゥゥ、アア、アア!!」
まるで獣のような声を上げて、髪を毟る。しかし毟っても毟っても生えてきてキリがない。むしり取った髪もひとりでにうねり指に絡み付いた。
その間にも瓦礫は服を擦り切り、とうとう皮膚に到達した。
ざらざらとした瓦礫の表面に触れた瞬間、想像を絶する鋭い痛みが襲う。
腹の皮膚が削られ、めくれ、すり切れる。
「イ”イ”イ”——————!!」
口端から泡を飛ばし泣き叫ぶ。半狂乱になりながら瓦礫を叩き、髪を毟る。
瓦礫は動きを止めず、赤い血が滴り、表面に肉片が付いた。
「ヒルコ!?」
ホスセリが駆け寄って、地面に落ちていた黒縁を持ち、瓦礫に刃を突き立てた。しかし、刀身を覆っていた膿が温泉で流れ神力を纏っていないただの刀では刃が通らない。
ホスセリが刀を義足のヒビに当て、ヒビから垂れている膿を刀身に塗る。神力が戻った黒縁は先程と違い、スパッと瓦礫を両断してみせた。
俺とホスセリの間の二つになった瓦礫が転がった。
放心状態の俺はへたり込んで、血が混じり赤黒くなったお湯を呆然と見つめていた。
シラが包帯を作って、真っ赤に染まった俺の腹に巻いてくれていると、女の笑い声が聞こえてきた。
————うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。
うふふ。 うふふ。 うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。 うふふ。 うふふ。
うふふ。
うふふ。
うふふ。 うふふ。 うふふ。
うふふ。
うふふ。 うふふ。
うふふ。
至る所から笑い声が聞こえてきた。
————うふふ。
俺とホスセリの間に転がっている瓦礫からも女の笑い声がした。
「うふふ。私の髪、綺麗でしょ?」
俺の血が付いた瓦礫の断面にお歯黒の女の顔が浮かんだ。
瓦礫を投げていたのは攻撃なんかじゃなかったんだ。あれはこれを運んでいただけ。俺達は妖怪の作った土俵の中にいる。
この妖怪の名は大首。
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