願わくは

十八十二

文字の大きさ
17 / 18
除け者達のファンファーレ

濡れ石は色っぽい

しおりを挟む
 大首が俺を見上げてニヤッと口元を歪めた。唇の間からお歯黒が覗いている。

「私の髪、綺麗でしょ?」

 そう言った瞬間、大首の髪が放射線状に伸び、津波のように押し寄せた。

「うわあああ!」

 さっきの激痛を思い出し情けない声を上げて後ずさった。
 毛先が顔に絡み付く寸前で髪が力なく倒れた。
 大首の顔になっていた瓦礫にホスセリが黒縁を突き立てたのだ。
 大首の髪が瓦礫から抜けて、汚水と一緒に流れていく。

「これで終わり……な分けないよね」

 半泣きの俺にホスセリが少し笑って手を伸ばした。俺はその手を素直に取って起き上がる。
 腹の傷が痛んだ。今もシラが巻いてくれた白い包帯にぽつぽつと赤い斑点が滲んできている。
 
 また大首の姿は見えなくなったが、まだ襲ってくることは感覚的に分かる。しかしどこから来るか分からない。俺達三人は背中合わせでそれぞれに警戒することにした。

「ヤツの名前は多分、大首だと思う」

 確証はない感じを装いながら呟いた。

「大首か……聞いたことある気がするが、どんな妖怪なんだい?」

「俺が知ってるのは大首の見た目だけだ。さっきの顔を見てピンと来た」

 話しながら大首の影を探した。しかし、姿は見えない。代わりに数えるのも嫌にくらいの瓦礫がごろごろ転がっている。少し前までドッヂボール感覚で避けて遊んでいた自分を殴ってやりたい。

「大首の能力は透明化系統だと思うかい?」

 ホスセリが背中越しに聞いてきた。

「分からない、けど透明化じゃない気がする」

 ただの直感だ。無理矢理理由を付けるなら、もし透明化の能力だったら今も攻撃されている。

 腹の傷にカサブタが出来始めたようだ。急に動くと痛むが、じっとしていると痒みを覚える。
 そうだ、あれだけの膂力があるのなら、常に攻撃を仕掛けてくるはずだ。

「大首の能力は透明化じゃないと思った方がいいかもしれない」

 口に出すことで直感が確信に変わってくる。

「こっち来た!」

 ホスセリが叫び、銃を構えた。銃口の先には瓦礫。そこには薄気味悪い笑みを浮かべた大首の顔があった。真っ黒な髪をはためかせ一直線に飛来してきた。
 銃が火を噴き、銃弾は見事に命中。大首は笑みを深めた。髪が瓦礫から抜け落ち、元の瓦礫に戻った。髪が湯の中に消えていく。

 今度はシラの方から来た。大首はさっきと同じ表情を浮かベている。シラは冷静に矢を放った。矢は相変わらず馬鹿げた威力で瓦礫を貫通し、また大首の髪が抜け落ちた。

 順番的に次は俺だ。案の定、大首が半笑いで襲いかかる。俺は後ろの二人とは違って、近接武器だから近づかないと攻撃できない。俺は黒縁を上段に構え大首が間合いに入るのを待った。すると、俺の後ろでひと際大きな銃声がなり、あと一歩で切れるという寸前で大首が爆散した。

「うん、やっとこの銃を使えるときが来たみたいだ」

 ホスセリが銃口の広い銃を満足そうに眺めている。
 振り上げた黒縁が行き場を失ってしまった。困ったな。とりあえず振り下ろしておくか。

「危ない!! 何するんだい、ヒルコ!?」

「横取りは罪だ」

 いきなりシラが怖い顔で水面を蹴った。水しぶきが俺達にかかる。怒られたらしい、少々ふざけ過ぎたようだ。
 これも敵の作戦かもしれない、冗談抜きで。緊張感を保っているのがしんどくなるくらいに、一回一回の攻撃の間が長いのだ。こちらから攻撃を加えようにも敵が見えないんじゃどうしようもない。俺達が出来るのは飛んで来た大首を撃退することしかない。

 ホスセリが喜々として銃に弾を込めていた。

「あ。そうだ。ホスセリ、それで落ちてる瓦礫を片っ端から打ってくれない? そしたら、大首の攻撃手段が無くなってくるじゃん」

 大首は瓦礫に憑依して攻撃してくる。
 元々姿が無く、何かに憑依しなければ、俺達に干渉できないのかもしれない。そう考えたら一連の出来事に筋が通らないか?
 つまり、憑依先を壊してしまえばなにも怖くない。

「了解。じゃあ、準備に入るからその間僕を死守してくれ」

  ホスセリがカメラを構えた。なるほど、弾を増やすのか。
  俺とシラがホスセリを挟む形で陣形をとった。
  後ろでホスセリの神力が高まり、『アルディ・アイッシュ、頼むぞ』とカメラに呼び掛けた。名を呼ばれたカメラは目覚めたように神力が生まれ高まった。

  フラッシュと現像の音がリズミカルに繰り返され始めたとき、ちょうど一つの瓦礫が飛び上がった。
 
「来たぞシラ!」

  シラはバシャンと水面を蹴って返事した。
  飛来する大首を一刀両断する。すると顔が消え、髪が抜ける。シラは矢を放ち大首を貫く。
 二人でホスセリを守ること数分。弾丸の写真の束が出来た。

「お待たせ、出来たよ」

  そして銃声が鳴り響く。
  瓦礫が木っ端微塵に吹っ飛んでいく。
  大首の顔から不適な笑みが消え、攻撃の頻度が高くなった。

  飛んでは打たれ飛んでは打たれ、大首が憑依した瓦礫が粉砕されて小さくなり足元に転がる。
  ホスセリの無双状態だった。まるでシューティングゲームを見ているような気分だ。

  とたんにやることがなくなった俺は黙ってホスセリのプレイを見ていた。
  大首は諦めること無く何度もホスセリに向かって来る。いつの間にか俺達の足下には、粉砕した石ころサイズの瓦礫が山を作り、山頂がお湯の水面まで出来ていた。

 瓦礫は跡わずか。残ったのは遠くに落ちているものだけだ。だから攻撃の間隔も長くなってきた。大首が憑依した瓦礫は放物線を描くように飛ばなければこちらに届かなくなってきている。ホスセリは淡々と撃ち落としていた。

 もう少しで終わる、そう思った俺は少しあっけなく感じた。最初のグリグリ攻撃が何だか懐かしい。
 見納めが近い。俺に神生一の痛みを与えた相手を最後まで見届けよう。

 残りの瓦礫をさっと数えてみると22個あった。少し多いかもしれないがカウントダウンでもしよう。
 22、21、20、19。……大首が瓦礫から憑依を解除する時にパターンがある。
 弾が当たる前、大首の顔が左方向に抜けている。その後に髪が抜ける。

「ホスセリ、次は大首の左頬を狙ってくれ」

 ホスセリは疑問を挟まずに頷き、引き金を引いた。銃口から飛び出した弾丸は俺のお願い通り大首の左頬へ。
 大首がぎょっと目をむき、苦虫を噛み潰したような顔になった。そして、毛髪で弾丸を防いだ。毛髪は爆散、運動エネルギーを失った大首はその場に落下した。

 大首は顔を醜く歪め、俺達を睨みつけた。
 どうやら、顔の左側が弱点のようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

処理中です...