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第92話 己の中の勝利と敗北
しおりを挟む「私も詠唱短縮が欲しくなりました」
要塞な田辺さんがそんなことを言い出した。たしかにMPもある程度まで上げるのはそれほどEPもかからないし、財力と厨二力さえあれば上級魔法まで使えるタンク役にもなれる。
「想定よりニーズが強いので冒険者ギルドの詠唱短縮獲得サポートも料金設定を見直ししたほうがいいかもしれませんね」
出張が必要な分も合わせると結構な数のバックオーダーが貯まってしまっていた。消化するためのスケジューリングも思っていたより難航している。必要な時間がかかり過ぎるのだ。
「ギルド員の増強も必要そうですね」
「育成方法はさておき、昔のSE仲間にも声をかけてみようと思います」
天ぷらの盛り合わせもやってきた。ビールもいいが日本酒にいきたい。しかし、さくりとした天ぷらを食べると当然蕎麦も行きたくなる。
「田辺さんなら自力で詠唱短縮いけませんか?」
要塞な田辺さんなんだし、素養はありそうだ。
「実は、火球は詠唱短縮を獲得したんですが、1週間かかりました。……正直しんどいですね」
思わせぶりな視線だ。
「蕎麦、頼んじゃってもいいですかね?」
「え、ええ。いいですが」
カボスと塩でいただく塩蕎麦もあるようだが、天ぷらに付いていた塩もある。
「すいません。ザル一枚お願いします」
「はいよ。ザル一枚」
「風幕とか濃霧あたりはタンクと相性良さそうじゃないですか。精領域も定点設置型ですし」
「タンクなら固定砲台路線もアリですよね」
「なるべく早めに取れたらなと思っているんですが」
しばらくして出てきたのは細麺の蕎麦だ。
何もつけずに数本啜るとするりとした喉越し。これはあれだ。
「すいません! 熱燗一本つけてください」
戻ろうとした店員さんに急いで声を掛ける。
「あいよ。熱燗一丁ね」
「さいとーさん、ここから熱燗ですか」
「ええ、これはあれです。急いだほうが吉ですね」
喉をゴリゴリと刺激する太めの田舎蕎麦も好きであるが、喉越しよく冷えた蕎麦ならばあれだ。
やってきた熱燗をぐいと呷り、カッと火照った喉にこいつを啜りこむ。
意思を持つかのような清涼なるせせらぎが、喉を渓流の如く優しく強く流れ行く。
「……Splash Mountain」
鼻腔を抜けるカツオ出汁や山葵の香りとともに吐き出された言葉には意味なんてなかった。ただただ……スプラッシュでマウンテンだった。
「さいとーさん、美味そうに食べますよね。私の話、聞いてます?」
「……自力でいけそうって話ですよね。聞いてますよ」
「いえ、早めに頼めないかって話なんですけど」
「田辺さん、戻りはいつですか?」
「明日の昼の便です」
「出張対応は当分無理かと」
「明日の朝までになんとか! 風幕だけでも!」
こうして、田辺さんのホテルに軟禁され、寝ている田辺さんの隣で延々と朝まで代理詠唱させられるはめになったのだった。
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