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第二章 行き着く先は
第十六部
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本当に良いのか?もし、騎兵に攻撃を加えると、大規模な戦闘に発展しかねない。いくら自衛権の行使とは言え、自衛隊の存在意義の議論が国会で展開されるだろう。
私には、“攻撃”以外の選択肢は無いのだろうか。
私はゆっくりと鈴宮の元へと歩んだ。到着し、肩に手を乗せる。
鈴宮は、89はそのままに顔だけをこちらに向けた。
「鈴宮……」
言葉を紡ごうとした時、
〈敵集団確認。低空飛行で威嚇するぞ〉
鈴宮の無線機から音が漏れた。
直後、さっきまで気付くことのなかった重厚感溢れるローター音が屋上に反射して私の耳に届いた。私の目は点になってしまったであろう。
一緒に屋上の端に来たイリューシャンは、頭を手で覆ってうずくまっている。……よく見ると、猫耳を塞いでいるらしい。あまりにも大きな音だったため驚いてしまったのか。
接近している騎兵を思い出し目を向けた。騎兵の方には、ある程度小回りの効くUH-60JAとUH-1が群がり、大きな音に驚いた馬は、騎兵なんぞをほっぽり出して明後日の方向へと走っていった。落馬した騎兵の中でも、動ける人は少なかった。しかも、その動ける人も悶えるか逃げ出すかしていてこちらに迫る者はいなくなった。
音だけで、敵を戦闘不能に追い込んだ。これを閃き実行したパイロットらには頭が上がらない。
直ぐに無線機をひったくり、礼を告げた。
「ありがとうござます!我々はもう少しで射撃してしまうところでした」
〈だそうですよ。隊長〉
先程、無線機から聞こえた声は、隊長に話を流した。どうやら、彼は隊長ではないらしい。
〈君達を救えて良かった。これより回収に移る。チヌークは建物の端に後部ハッチを付ける。接地をしない。重患は、60とヒューイに優先的に乗せる。送れ〉
「CB、了解」
彼女の声に驚きつつも、すぐさま応答した。
第12ヘリコプター隊より選抜された混合飛行隊の長は、私と同じ女性であった。
その事実に驚きと嬉しさを覚えていると、チヌークはゆっくりと縁に近付き、後部ハッチと屋上は電車と駅のホーム程の幅まで近付いた。まさしく、プロの技だ。
「チヌークには歩ける負傷者を!歩行困難者は、60とヒューイに!」
UH-60JAとUH-1には、担架を巻き上げて負傷者を乗せるのだろう。騎兵に群がり撃退したヘリコプターらは、屋上の直上でホバリングを始めていた。
負傷者の中でも特に重症のパジャシュは、地位的にも回復する事が望ましい。当然ながら、機動力のある空輸で輸送すべきだ。副旅団長のイリューシャンには一言断りをいれた方が良いか。
「イリューシャン?」
腰を下ろし、イリューシャンに近付いた。
私は、体毛が足元から逆立ち、それが頭まで至るのを感じた。
イリューシャンは、目をかっぴらき、瞳孔も開ききり、震え喚きながら「ごめんにゃさい!ごめんにゃさい!」と謝罪の言葉を口にしている。
実は猫のような喋り方をするんだ、と笑い合えたかもしれない。が、こんな状態で聞かされてはそんなことを気に留める方が可笑しい。
イリューシャンは、体全体で"恐怖"を表現していた。
咄嗟にイリューシャンの肩を揺らした。正気に戻したかった。しかし、その方法が分からなかった。
顔を上げたイリューシャンと目が合った。
「にゃぁぁぁああああ!ごめんにゃさい!許して!許して!」
人間が想像するようないわゆるねこ語の可愛らしさとは裏腹に、イリューシャンが喋るごとに私に恐怖が伝染し積み重なっていく。
中学生位の顔立ちをしながら、淑やかな口調だった彼女が、周りの目を気にせず大声で自らの恐怖を表しているのは、はっきり言って異常だ。
居ても立っても居られず、私はイリューシャンを思いっ切り抱き締めた。
今まで謝罪しかしていなかった口は、途端に動かなくなった。
戦闘装着セットと鎧がぶつかり合い、音が立ってしまった。私の体に、弾帯等に装着している弾倉や、防弾チョッキに挟まっている防弾板が押し付けられて痛い。けど、痛いという感覚を顔に出さないように理性を働かせた。
イリューシャンの方が、絶対「痛い」筈だから。
「新渡戸……殿、私は……」
ゆっくりと、イリューシャンの口が再び動いた。しかし、出てきたのは謝罪の言葉なんかではなかった。
「落ち着いた?」
母親が子供に発するような優しい声をイメージして、私は問い掛けた。
「……温かい……パジャシュ様じゃないのに、温かいよぅ……!」
今度は恐怖に歪められた顔面から絞り出された涙ではなく、さっきまで心を締め付けていたものが外れたから、箍が外れたように涙腺が崩壊したのだろう。
戦闘装着セットと鎧。当然、温もりを感じる筈は無い。しかし、イリューシャンはこの温かさを声に出してまで噛み締めた。温かい。私もこの温かさを感じる。
「中隊長!少女は空輸でよろしいですか?!」
傍に寄った桐は、自分の声がローター音に掻き消されぬよう声を張った。
少女一人をどうするかという判断を私に請うということは、その少女というのはパジャシュの事なのだろう。
パジャシュはビルブァターニの一旅団長。言わば要人だ。桐の提案通りに、パジャシュは空輸で出来るだけ早く駐屯地に運んで治癒してもらって、上級曹長に引き渡した方が良いだろう。
「それでお願い!」
60を見ると、既に吊り上げ用の担架は下に降ろされていたのが分かった。それには、パジャシュが寝かされていて固定具もしっかりと装着されていた。私への問い掛けは確認だったみたいだ。
私には、“攻撃”以外の選択肢は無いのだろうか。
私はゆっくりと鈴宮の元へと歩んだ。到着し、肩に手を乗せる。
鈴宮は、89はそのままに顔だけをこちらに向けた。
「鈴宮……」
言葉を紡ごうとした時、
〈敵集団確認。低空飛行で威嚇するぞ〉
鈴宮の無線機から音が漏れた。
直後、さっきまで気付くことのなかった重厚感溢れるローター音が屋上に反射して私の耳に届いた。私の目は点になってしまったであろう。
一緒に屋上の端に来たイリューシャンは、頭を手で覆ってうずくまっている。……よく見ると、猫耳を塞いでいるらしい。あまりにも大きな音だったため驚いてしまったのか。
接近している騎兵を思い出し目を向けた。騎兵の方には、ある程度小回りの効くUH-60JAとUH-1が群がり、大きな音に驚いた馬は、騎兵なんぞをほっぽり出して明後日の方向へと走っていった。落馬した騎兵の中でも、動ける人は少なかった。しかも、その動ける人も悶えるか逃げ出すかしていてこちらに迫る者はいなくなった。
音だけで、敵を戦闘不能に追い込んだ。これを閃き実行したパイロットらには頭が上がらない。
直ぐに無線機をひったくり、礼を告げた。
「ありがとうござます!我々はもう少しで射撃してしまうところでした」
〈だそうですよ。隊長〉
先程、無線機から聞こえた声は、隊長に話を流した。どうやら、彼は隊長ではないらしい。
〈君達を救えて良かった。これより回収に移る。チヌークは建物の端に後部ハッチを付ける。接地をしない。重患は、60とヒューイに優先的に乗せる。送れ〉
「CB、了解」
彼女の声に驚きつつも、すぐさま応答した。
第12ヘリコプター隊より選抜された混合飛行隊の長は、私と同じ女性であった。
その事実に驚きと嬉しさを覚えていると、チヌークはゆっくりと縁に近付き、後部ハッチと屋上は電車と駅のホーム程の幅まで近付いた。まさしく、プロの技だ。
「チヌークには歩ける負傷者を!歩行困難者は、60とヒューイに!」
UH-60JAとUH-1には、担架を巻き上げて負傷者を乗せるのだろう。騎兵に群がり撃退したヘリコプターらは、屋上の直上でホバリングを始めていた。
負傷者の中でも特に重症のパジャシュは、地位的にも回復する事が望ましい。当然ながら、機動力のある空輸で輸送すべきだ。副旅団長のイリューシャンには一言断りをいれた方が良いか。
「イリューシャン?」
腰を下ろし、イリューシャンに近付いた。
私は、体毛が足元から逆立ち、それが頭まで至るのを感じた。
イリューシャンは、目をかっぴらき、瞳孔も開ききり、震え喚きながら「ごめんにゃさい!ごめんにゃさい!」と謝罪の言葉を口にしている。
実は猫のような喋り方をするんだ、と笑い合えたかもしれない。が、こんな状態で聞かされてはそんなことを気に留める方が可笑しい。
イリューシャンは、体全体で"恐怖"を表現していた。
咄嗟にイリューシャンの肩を揺らした。正気に戻したかった。しかし、その方法が分からなかった。
顔を上げたイリューシャンと目が合った。
「にゃぁぁぁああああ!ごめんにゃさい!許して!許して!」
人間が想像するようないわゆるねこ語の可愛らしさとは裏腹に、イリューシャンが喋るごとに私に恐怖が伝染し積み重なっていく。
中学生位の顔立ちをしながら、淑やかな口調だった彼女が、周りの目を気にせず大声で自らの恐怖を表しているのは、はっきり言って異常だ。
居ても立っても居られず、私はイリューシャンを思いっ切り抱き締めた。
今まで謝罪しかしていなかった口は、途端に動かなくなった。
戦闘装着セットと鎧がぶつかり合い、音が立ってしまった。私の体に、弾帯等に装着している弾倉や、防弾チョッキに挟まっている防弾板が押し付けられて痛い。けど、痛いという感覚を顔に出さないように理性を働かせた。
イリューシャンの方が、絶対「痛い」筈だから。
「新渡戸……殿、私は……」
ゆっくりと、イリューシャンの口が再び動いた。しかし、出てきたのは謝罪の言葉なんかではなかった。
「落ち着いた?」
母親が子供に発するような優しい声をイメージして、私は問い掛けた。
「……温かい……パジャシュ様じゃないのに、温かいよぅ……!」
今度は恐怖に歪められた顔面から絞り出された涙ではなく、さっきまで心を締め付けていたものが外れたから、箍が外れたように涙腺が崩壊したのだろう。
戦闘装着セットと鎧。当然、温もりを感じる筈は無い。しかし、イリューシャンはこの温かさを声に出してまで噛み締めた。温かい。私もこの温かさを感じる。
「中隊長!少女は空輸でよろしいですか?!」
傍に寄った桐は、自分の声がローター音に掻き消されぬよう声を張った。
少女一人をどうするかという判断を私に請うということは、その少女というのはパジャシュの事なのだろう。
パジャシュはビルブァターニの一旅団長。言わば要人だ。桐の提案通りに、パジャシュは空輸で出来るだけ早く駐屯地に運んで治癒してもらって、上級曹長に引き渡した方が良いだろう。
「それでお願い!」
60を見ると、既に吊り上げ用の担架は下に降ろされていたのが分かった。それには、パジャシュが寝かされていて固定具もしっかりと装着されていた。私への問い掛けは確認だったみたいだ。
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