仮想現実という現実世界

絢瀬レン

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ⅩⅧ.消えた記憶。消し去りたい記憶。(前編)

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「ここは……どこ?
……そっか、きっとここは私の記憶。でも私、こんな場所……知らない」


見たことの無い場所。建物の造りからしてどこかの学校なのであろう事は安易に推測出来る。


「机と椅子、凄く低いなぁ」


そして教室を出入口の扉から確認する限り、そこは小学校なのであろう。ここは廊下。モモはその教室が3-2である事は確認できた。
誰もいない教室。いや、この学校そのものに人の気配がしない。時刻を教室の時計から確認してみると、短針は4の数字を指しており、茜色の空を見るからに夕方である事は確証出来た。でも……


「ここは……何処なの……?」


誰もいない学校。独りぼっちという何とも言えない恐怖。ぼそりと呟いただけなのにこだまする声。


「……こんな所で止まってちゃいけないんだった!早く裕太を助けるために試練をクリアしなくちゃ……!」


モモは廊下を力いっぱい疾走し、校舎の外へ出る。見たことも無い校庭を迷いもなく正門へと進んでいく。


(あれ……?どうして正門の場所が分かるんだろう……?)


不思議には思ったが、先ずは外に出ないと始まらない。そう思いながらモモは走り続けた。
が、しかし。


「外に……出れない……?」


もうすぐ手の届く距離に正門が見えるのに届かない。いつまで経ってもその数歩に近づけないのだ。


「どうして……?もしかして……この学校に私の記憶が……?」


モモは意を決してまた校舎に戻ろうとする。それは裕太を助けるため、そして自分自身の過去と向き合うために。


「もう……やだよ……」


校舎に戻ろうとしたその時、校舎脇にある体育館から一人の少女が校庭をとぼとぼと歩いてきた。モモは試練の中で初めて人を目撃出来た喜びと、一方の不安に心が破裂しそうになっていた。


「お嬢さん、どうしてそんなに辛そうな顔をしているの?」


考える前に行動してしまう。それはモモの悪い癖でもある。モモは少女に歩み寄り、しゃがみながら少女に問いかける。


「あのね……そこの体育館近くでお兄ちゃんが……お兄ちゃんが悪いお友達に、たくさんぶたれてるの……」

「ぶたれてる……?」

「うん……だけどももは弱いから、助ける事が出来ないの……」


(もも……?)


名前が同じというのは有りうるだろうが、容姿も何となく自分の昔に似てる気がする。


「それは大変!すぐに助けなきゃ!
……ところでお兄ちゃんの名前ってなんて言うの?」


真相を確かめるにはこれが一番早い。


「だいごお兄ちゃん……絢瀬大吾……だよ」


(どおやら私の感は違ってたみたい。でも、助けてあげなきゃ……!)


「……よし、そしたらお姉ちゃんがだいごお兄ちゃんを助けてあげるね!」

「またそうやってお兄ちゃんに迷惑かけるの……?」

「え……?」


血の気が引いた。少女のその言葉に、何か心が 痛むのを感じた。


「それってどういう……」

「まだ思い出せない……?これは私自身の記憶なんだよ……?あなたの名前は絢瀬もも。嫌な事から逃げ続けた弱虫ももじゃない」

「やめて……」

断片的ではあるが少しづつ思い出してきた。

「またそうやって現実から目を背けるの?だから私はいつまでも弱い。全て逃げて忘れようと無駄に努力して……
きちんと直視して。いつもの様にお兄ちゃんが私の盾になって暴力を振るわれるのを見てる自分が嫌なの……」

「分かってる……そんなの分かってるよ……!
お兄ちゃんが私のために戦ってるのに私は何も出来ない……裕太の時だって……私は役立たず……昔から立ち向かう勇気なんて持ってないの……だからもうやめて……」

「モモさん、僕はそんな事ないと思います」


遠くから聞こえる男の子の声。まだ声変わりもしてない高い声質で。そしてその声はどこかで聞いた事のある声。


「裕太……?」

「そうです。モモさんの知ってる裕太です。正確的にはモモさんの記憶の断片から生み出されたただの記憶ですけど」

「でも、私は裕太とは会ったことも無いけど……?」

「いえ、違います。あの時、僕は確かにももさんと出会っていたんです。
僕はその時まだ一年生でしたが、どうしても大吾さんを助けたかった……結果は一緒に殴られて終わっちゃいましたけどね」


幼い裕太はクスリと笑いモモの方を見る。迷いもない真っ直ぐな目で。


「さあ、一緒に戦いましょう。三人で加勢すれば何とかなりますよ。数で勝負です」


そして裕太と二人のモモは一人の男の子を助けるために体育館の方へ向かう。
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