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第一章
ムカつくヤツ(二)
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出て行けと言われては反抗できない。長居をするつもりはないけど、まだ新たな居候先が決まっていない現状で追い出されるのは色々としんどい。
それからというもの、小競り合いは散発的に起こりつつも、会話らしい会話は特に無かった。
気まずい空気のまま、休日を終えた。
そして来たるは月曜の朝。
爽やかには程遠い時間の中、朝食を終えた。朝からメニューを変えるのが面倒だったので昨日と同じに。何もかけないで出すと、しょーちゃんは大して美味しくもなさそうに口に運んだ。
それからお互い学校へ行くために着替えるわけだが。
「あれ、もしかして……」
お互いに灰色のブレザーと、紺がベースのチェック柄のスカート、そしてワインレッドのリボン。スカートの長さを除けば全く同じ格好をしていた。
つまり、同じ学校ってこと……?確かに高校生とは聞いてたけど。
それにしても、制服になると印象が変わる。昨日、一昨日と常にジャージだったというのはあるが、スカートが女の子らしさを如実に際立たせている。
短くざっくばらんにカットされた黒髪に、流れるようなボディラインと相まって、スポーティで可愛い少女という感じの姿だ。……顔に貼りつけた仏頂面さえなければ、だが。
同じ学校であるという事実に塩原翔も気づいて、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……何年生?」
渋々と尋ねる塩原翔。
「一年だけど」
「一緒か……」
大きなため息で、鬱陶しいですと暗喩にすらなっていないメッセージをボクに叩きつける。あからさま過ぎて腹が立つこともない。
そういや、ここからどうやって高校まで行くんだろ。殆ど縁のない地域だから、地理が全く頭に入っていない。せっかくだから教えてもらおうか――――ああいや、スマホで調べればいいか。
どうにも朝は弱くて、いまいち頭が回らない。
コーヒーでも飲もうかと思案していると、いつの間にか塩原翔は玄関で指定のローファーを履いていた。
トントン、と地面を軽く蹴って、靴の履き心地を整えながら、こちらを向く。
「おい、何してる。さっさと行くぞ」
「なんで。別に一緒に行く必要なんかないでしょ」
「鍵閉めなきゃだろ」
「ああ……」
そういやそうか。すっごい形相で睨んでくるかつい反射的に訊いちゃった。
でもなあ。
「んー……。いや、やっぱいいや。ボク、サボるわ」
「は……?」
「鍵くれない?二度寝した後に学校行くからさ」
無理をして勉強しても、頭には何も入ってこない。眠い時はちゃんと睡眠を取らないと。
渡すのがイヤだったのか、一瞬眉間のシワが真っ黒になるくらい深くなったけど、やがて渋々と鍵を差し出した。
「絶対失くすなよ」
「分かってるってば」
鍵を受け取ると、後は黙って家を後にした。
三日目にして、初めてこの家で一人になる。こうして全体を見渡してみると、部屋自体は年季が入っていても、置いてある物とかは真新しい。
「さて……寝るかー」
制服を脱ぎ捨て、そのまま布団に潜り込む。
新しいといえば、この布団だってそうだ。まだ誰の匂いも染み付いていない。シーツはすべすべで、枕にはちゃんと反発がある。
「そういや、まだアイツのこと何も知らないんだよな……」
ケンカばっかでロクに口も聞けないし。
まあ、所詮は他人のこと。あと数日の縁でしか無いし、どうだっていいか。
今はとにかく、静かに押し寄せてくる睡魔に身を委ねるとしよう——————
それからというもの、小競り合いは散発的に起こりつつも、会話らしい会話は特に無かった。
気まずい空気のまま、休日を終えた。
そして来たるは月曜の朝。
爽やかには程遠い時間の中、朝食を終えた。朝からメニューを変えるのが面倒だったので昨日と同じに。何もかけないで出すと、しょーちゃんは大して美味しくもなさそうに口に運んだ。
それからお互い学校へ行くために着替えるわけだが。
「あれ、もしかして……」
お互いに灰色のブレザーと、紺がベースのチェック柄のスカート、そしてワインレッドのリボン。スカートの長さを除けば全く同じ格好をしていた。
つまり、同じ学校ってこと……?確かに高校生とは聞いてたけど。
それにしても、制服になると印象が変わる。昨日、一昨日と常にジャージだったというのはあるが、スカートが女の子らしさを如実に際立たせている。
短くざっくばらんにカットされた黒髪に、流れるようなボディラインと相まって、スポーティで可愛い少女という感じの姿だ。……顔に貼りつけた仏頂面さえなければ、だが。
同じ学校であるという事実に塩原翔も気づいて、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……何年生?」
渋々と尋ねる塩原翔。
「一年だけど」
「一緒か……」
大きなため息で、鬱陶しいですと暗喩にすらなっていないメッセージをボクに叩きつける。あからさま過ぎて腹が立つこともない。
そういや、ここからどうやって高校まで行くんだろ。殆ど縁のない地域だから、地理が全く頭に入っていない。せっかくだから教えてもらおうか――――ああいや、スマホで調べればいいか。
どうにも朝は弱くて、いまいち頭が回らない。
コーヒーでも飲もうかと思案していると、いつの間にか塩原翔は玄関で指定のローファーを履いていた。
トントン、と地面を軽く蹴って、靴の履き心地を整えながら、こちらを向く。
「おい、何してる。さっさと行くぞ」
「なんで。別に一緒に行く必要なんかないでしょ」
「鍵閉めなきゃだろ」
「ああ……」
そういやそうか。すっごい形相で睨んでくるかつい反射的に訊いちゃった。
でもなあ。
「んー……。いや、やっぱいいや。ボク、サボるわ」
「は……?」
「鍵くれない?二度寝した後に学校行くからさ」
無理をして勉強しても、頭には何も入ってこない。眠い時はちゃんと睡眠を取らないと。
渡すのがイヤだったのか、一瞬眉間のシワが真っ黒になるくらい深くなったけど、やがて渋々と鍵を差し出した。
「絶対失くすなよ」
「分かってるってば」
鍵を受け取ると、後は黙って家を後にした。
三日目にして、初めてこの家で一人になる。こうして全体を見渡してみると、部屋自体は年季が入っていても、置いてある物とかは真新しい。
「さて……寝るかー」
制服を脱ぎ捨て、そのまま布団に潜り込む。
新しいといえば、この布団だってそうだ。まだ誰の匂いも染み付いていない。シーツはすべすべで、枕にはちゃんと反発がある。
「そういや、まだアイツのこと何も知らないんだよな……」
ケンカばっかでロクに口も聞けないし。
まあ、所詮は他人のこと。あと数日の縁でしか無いし、どうだっていいか。
今はとにかく、静かに押し寄せてくる睡魔に身を委ねるとしよう——————
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