9 / 38
第一章
気に入らないのに、綺麗(二)
しおりを挟む
新しい生活が始まってもうすぐ一週間。段々とだが、新しい生活にも慣れてきた。
金曜日、午前七時五十分。ようやくボクは布団から起き上がった。昨晩一緒の布団にいたはずの家主は、もう姿を消していた。正式に部活に入り、朝練に行ったらしい。
平日ずっとだった。毎日、朝の五時に起きて、三十分くらいしたらしれっと出かけている。
「…………」
朝に弱いボクにはとても出来ない芸当だった。
未だに水泳なんて何が面白いのかさっぱり分からない。けどそれを差し引いて考えれば、すごいことだと感心できる。意味とかはともあれ、熱心に打ち込んでいることに違いはない。
それにもう一つ、この一週間で気づいたことがある。
アイツには余分というものがなかった。
朝には決まった時間に起きて練習に向かい、放課後ももちろん練習しているそうで。帰ってきたらきたで、同じ時間に夕食、入浴などを済ませる。
特に空いている時間が顕著だった。その殆どは、何もしていなかった。目を閉じて、寝転がった状態か座った状態か、眠っているのかも定かではない状態でじっとしている。
もちろん、宿題をやったり、筋トレやストレッチをしたりといったこともあったけど、そんなのは割合としてはたかが知れている。とにかく、趣味の時間が一切見られなかった。私生活が勉学と水泳の二つだけで構成されていた。
素人目に見ても、それはストイックに映った。……だからこそ、その姿を見るたびにイライラが募った。
それだけのやる気がどこから湧いてくるのか、教えてほしい。ボクにも分けてほしい。その熱量こそがボクの求めているものなんだと、薄々分かっていたから。
「ん?」
よっこいせと立ち上がったらミニテーブルに書き置きがあった。
『明日退去日。厳守。』
殴り書きでそう記されていた。
「んのやろ……」
こういうとこ腹立つんだよなぁ……。
そりゃ、こっちだって半ば無理やり居候させてもらってる身ではあるけど。家事の殆どを受け持ってるし、役には立ってると思ってるんですけどねぇ?
……でも。それを口にするのは、なんかイヤだった。
不服ながらも、ボクは塩原翔を認めてしまっている。少なくとも現時点で、ボクの目標により近いのはアイツの方だった。
それを棚に上げてさも対等であるかのように振る舞うのは、きっと違う。それじゃ……あの時と何ら変わらない。
早く自分も、夢中になれるようなことを見つけないと。
この四日間でほとんどの部活は見て回った。これといってビビッとくるものはなかった。
あと見学に行けていない部活は一つだけ。意図的に避けていたやつだ。
「……水泳部」
理由はもちろん、アイツがいるから。
でも、見ずに終わることはできない。もしかしたら何かの間違いで光るものを見出だせるかもしれないし。
それに何より、塩原翔がどれほどのものかが知れる機会でもある。あれだけ豪語したんだから相応の実力があるんだろう。そうでなかったらその時は思いっきり笑ってやる。
「アレ、自分ってこんなヤなやつだったかな」
ツッコミのない独り言に頭を掻きつつ、ボクは支度を始めた。
金曜日、午前七時五十分。ようやくボクは布団から起き上がった。昨晩一緒の布団にいたはずの家主は、もう姿を消していた。正式に部活に入り、朝練に行ったらしい。
平日ずっとだった。毎日、朝の五時に起きて、三十分くらいしたらしれっと出かけている。
「…………」
朝に弱いボクにはとても出来ない芸当だった。
未だに水泳なんて何が面白いのかさっぱり分からない。けどそれを差し引いて考えれば、すごいことだと感心できる。意味とかはともあれ、熱心に打ち込んでいることに違いはない。
それにもう一つ、この一週間で気づいたことがある。
アイツには余分というものがなかった。
朝には決まった時間に起きて練習に向かい、放課後ももちろん練習しているそうで。帰ってきたらきたで、同じ時間に夕食、入浴などを済ませる。
特に空いている時間が顕著だった。その殆どは、何もしていなかった。目を閉じて、寝転がった状態か座った状態か、眠っているのかも定かではない状態でじっとしている。
もちろん、宿題をやったり、筋トレやストレッチをしたりといったこともあったけど、そんなのは割合としてはたかが知れている。とにかく、趣味の時間が一切見られなかった。私生活が勉学と水泳の二つだけで構成されていた。
素人目に見ても、それはストイックに映った。……だからこそ、その姿を見るたびにイライラが募った。
それだけのやる気がどこから湧いてくるのか、教えてほしい。ボクにも分けてほしい。その熱量こそがボクの求めているものなんだと、薄々分かっていたから。
「ん?」
よっこいせと立ち上がったらミニテーブルに書き置きがあった。
『明日退去日。厳守。』
殴り書きでそう記されていた。
「んのやろ……」
こういうとこ腹立つんだよなぁ……。
そりゃ、こっちだって半ば無理やり居候させてもらってる身ではあるけど。家事の殆どを受け持ってるし、役には立ってると思ってるんですけどねぇ?
……でも。それを口にするのは、なんかイヤだった。
不服ながらも、ボクは塩原翔を認めてしまっている。少なくとも現時点で、ボクの目標により近いのはアイツの方だった。
それを棚に上げてさも対等であるかのように振る舞うのは、きっと違う。それじゃ……あの時と何ら変わらない。
早く自分も、夢中になれるようなことを見つけないと。
この四日間でほとんどの部活は見て回った。これといってビビッとくるものはなかった。
あと見学に行けていない部活は一つだけ。意図的に避けていたやつだ。
「……水泳部」
理由はもちろん、アイツがいるから。
でも、見ずに終わることはできない。もしかしたら何かの間違いで光るものを見出だせるかもしれないし。
それに何より、塩原翔がどれほどのものかが知れる機会でもある。あれだけ豪語したんだから相応の実力があるんだろう。そうでなかったらその時は思いっきり笑ってやる。
「アレ、自分ってこんなヤなやつだったかな」
ツッコミのない独り言に頭を掻きつつ、ボクは支度を始めた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。
帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、ほのぼの学園百合小説。
♪ 野阪 千紗都(のさか ちさと):一人称の主人公。帰宅部部長。
♪ 猪谷 涼夏(いのや すずか):帰宅部。雑貨屋でバイトをしている。
♪ 西畑 絢音(にしはた あやね):帰宅部。塾に行っていて成績優秀。
♪ 今澤 奈都(いまざわ なつ):バトン部。千紗都の中学からの親友。
※本小説は小説家になろう等、他サイトにも掲載しております。
★Kindle情報★
1巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
7巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0F7FLTV8P
Chit-Chat!1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
Chit-Chat!2:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FP9YBQSL
★YouTube情報★
第1話『アイス』朗読
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
Chit-Chat!1
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34
イラスト:tojo様(@tojonatori)
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる