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第二章
迷惑女(二)
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だからなんだ、という話ではある。
別に仲間が欲しい訳ではない。むしろそれは不純物に等しい。この女がどこで何しようが、私に迷惑をかけない限りは与り知らないことだ。
迷惑女が水泳を始めるというなら好きにすればいい。私がコイツをサポートすることもない。
「なんで急に泳ぐ気になったんだ」
とはいえ、爪の先くらいは気になった。手持ち無沙汰だったし。
迷惑女は競泳用の水着を一着買い物かごに放り投げて、うん、と頷く。
「教えてあげない」
べ、と迷惑女は舌を出す。
「なんだそれ」
「強いて言うならしたいと思ったから。あとお前は負かすから」
取ってつけたようなセリフ。そういえば昨日も似たようなことを言ってたか。
虫唾が走る。ド素人の発言に聞く耳など持たないが、それでも根拠のない言葉は気に障る。軽い言葉はその時点で嘘と変わらない。
「別に誇示するわけじゃないけど。私の実力知ってて言ってんの?」
かれこれ十年足らずは泳いでいる。別にそれを長いと思ったことはないし、そんなことを普段は気にしない。
でも、天地がひっくり返ってもド素人に負けるようなことはないという自負くらいはある。
「いや、そんなに知らないけど?」
それが何か?とでも言うような調子で答える迷惑女。どこまでもあっけらかんと……いまいち本気なのか計りかねる。
「で、あとは帽子とゴーグルかな」
「……試着しなくていいの、水着」
どうにも噛み合わない。コイツとの会話はまるで水を掴むようで、まともに取り合おうとしたら途端に掌から零れていく。
本当に、なんで私はコイツに付き合っているんだろうと思う。
「あーそっか。あ、ねぇねぇ」
「今度はなに……」
「ボクが試着してる間に練習用の水着見繕ってよ」
「は?」
「ほら時間の節約節約」
「なんで私がそんなこと————」
「じゃ、よろしくねー」
返事も待たずに迷惑女は試着室へと入っていった。
取り残された私は一人、なんでこんなことをしているんだろうと、馬鹿みたいに同じ質問を繰り返す。
出会ってから一週間、結局詳しい事情は知らないが、あの女の人となりはよくわかった。
圧倒的なエゴの塊。勢いと腕力で人から益を搾り取るだけ搾り取り、恩を返すことをしない恥知らず。他人を省みない社会不適合者。
時既に遅しではあるが、なんでそんなヤツを自分の家に泊めることを許したのだろうと思う。……昨日の夜、強引にでも突っぱねておけばよかったのに。
かといって、自分の言葉を撤回するのもためらわれた。何故だか、そういうことには強いストレスを感じてしまうのだった。
後悔はもちろん、自分の不器用さへの苛立たしさ等々。胸の内に様々な感情が湧いて、心の中が散らかっていく。
そんな状態で確かに言葉に出来るのは一つだけだった。
「帰るか」
願わくば二度と面を見せるなと念じつつ。
エゴ女を置いて、全く無意味な時間を後にした。
別に仲間が欲しい訳ではない。むしろそれは不純物に等しい。この女がどこで何しようが、私に迷惑をかけない限りは与り知らないことだ。
迷惑女が水泳を始めるというなら好きにすればいい。私がコイツをサポートすることもない。
「なんで急に泳ぐ気になったんだ」
とはいえ、爪の先くらいは気になった。手持ち無沙汰だったし。
迷惑女は競泳用の水着を一着買い物かごに放り投げて、うん、と頷く。
「教えてあげない」
べ、と迷惑女は舌を出す。
「なんだそれ」
「強いて言うならしたいと思ったから。あとお前は負かすから」
取ってつけたようなセリフ。そういえば昨日も似たようなことを言ってたか。
虫唾が走る。ド素人の発言に聞く耳など持たないが、それでも根拠のない言葉は気に障る。軽い言葉はその時点で嘘と変わらない。
「別に誇示するわけじゃないけど。私の実力知ってて言ってんの?」
かれこれ十年足らずは泳いでいる。別にそれを長いと思ったことはないし、そんなことを普段は気にしない。
でも、天地がひっくり返ってもド素人に負けるようなことはないという自負くらいはある。
「いや、そんなに知らないけど?」
それが何か?とでも言うような調子で答える迷惑女。どこまでもあっけらかんと……いまいち本気なのか計りかねる。
「で、あとは帽子とゴーグルかな」
「……試着しなくていいの、水着」
どうにも噛み合わない。コイツとの会話はまるで水を掴むようで、まともに取り合おうとしたら途端に掌から零れていく。
本当に、なんで私はコイツに付き合っているんだろうと思う。
「あーそっか。あ、ねぇねぇ」
「今度はなに……」
「ボクが試着してる間に練習用の水着見繕ってよ」
「は?」
「ほら時間の節約節約」
「なんで私がそんなこと————」
「じゃ、よろしくねー」
返事も待たずに迷惑女は試着室へと入っていった。
取り残された私は一人、なんでこんなことをしているんだろうと、馬鹿みたいに同じ質問を繰り返す。
出会ってから一週間、結局詳しい事情は知らないが、あの女の人となりはよくわかった。
圧倒的なエゴの塊。勢いと腕力で人から益を搾り取るだけ搾り取り、恩を返すことをしない恥知らず。他人を省みない社会不適合者。
時既に遅しではあるが、なんでそんなヤツを自分の家に泊めることを許したのだろうと思う。……昨日の夜、強引にでも突っぱねておけばよかったのに。
かといって、自分の言葉を撤回するのもためらわれた。何故だか、そういうことには強いストレスを感じてしまうのだった。
後悔はもちろん、自分の不器用さへの苛立たしさ等々。胸の内に様々な感情が湧いて、心の中が散らかっていく。
そんな状態で確かに言葉に出来るのは一つだけだった。
「帰るか」
願わくば二度と面を見せるなと念じつつ。
エゴ女を置いて、全く無意味な時間を後にした。
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