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第二章
ライバルだと証明するために(三)
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プールに着くと、すぐにアップが始まった。
といっても、いつもと違って各自が思い思いの内容で行う。
始めは戸惑ったが、取り合えず疲れない程度に身体を温めることにした。この一週間の特訓を思い出しながら。
それぞれアップを終えた後、一度プールサイドに部員全員が集合した。そこには、入部手続きを終えた一年生も含まれている。
もちろん、あの佐々倉さんも然り。
「はい!みんな集まったね―」
硝さんが前に出て声を上げた。
如何にもスポーツマンって感じの男女の前に立つのは、やっぱりちょっと不釣り合いな感じがした。
が、居てくれるだけで和むタイプの人だと思うのでボクはおっけー。実際他の人もつられて頬が緩んでいる気がする。
「というわけで、今日から初体制ということで!予告通り、一年生歓迎の意も込めてレペをやります!」
硝さんがそう高らかに宣言する。堂々と振舞っている所を見ると、主将っていう肩書きへの違和感は消え失せた。
「夏へのスタートダッシュを切れるように、皆さん全力で行きましょう!」
はい!と一様に声が上がる。
「続いて注意事項。レペで使用するコースは五コース。残りの一つはフリースペースとして、アップやダウンに使ってください。基本的にはプール内で待機すること。……まあ、スタートに遅れなければ何をしてもいいけど。あとレース順はホワイトボードに掲示してあるから、後で各自見ること」
以上、とそれで話が終わる。一旦解散し、各々準備に取り掛かる。
まずはレース順を確認しようとホワイトボードを見ようとすると、レース順とは別に張り紙があることに気づいた。
各種目が書かれた列と、男子と女子、それぞれのタイムと思しき列で構成されたリストだ。
一番上に、何のリストであるのかが明確に記されている。
「インターハイの標準記録……」
全ての種目がそれぞれ書かれているが、タイムを見た所であまりピンと来ない。
分かるのは一種目くらいだ。
「半フリは……27秒15」
改めて、現実の厳しさを知る。
猛特訓の成果で、自分の最速のタイムは34秒3にまでなった。元々は39秒だったから、自分でも結構縮められたのではと思う。
それでもまだ、6秒以上の隔たりがある。
別にこれからも半フリを専門に泳ぐってワケじゃないけど、インハイとの差がそれだけあるっていうのは、歯噛みしたくなるような事実だ。
「いよいよだね~」
そんな焦燥は露知らず、たつみちゃんが話しかけてくる。心なしか、いつもよりも張り切っているようにも見える。
そっか。たつみちゃん含めてマネージャー二人しかいないし、多分大変なんだろう。
「たつみちゃん、がんばってね」
「えー?」
「ん?」
お互いに顔を見合わせる。たつみちゃんはキョトンとした表情でこっちを見ている。
「がんばるのはあーちょんでしょ?」
「ああ、いや、そーだけど。でもたつみちゃんもさ、忙しいでしょ?マネージャーの仕事」
「あ、そっか」
なるほど。お互いに嚙み合ってなかったんだ。
「うん、よし。あたしもがんばろー」
「ボクも負けない!」
作った拳をお互いにトンと合わせる。
たつみちゃんはストップウォッチとバインダーを持って、もう一人のマネージャーの先輩の方へと向かった。
といっても、いつもと違って各自が思い思いの内容で行う。
始めは戸惑ったが、取り合えず疲れない程度に身体を温めることにした。この一週間の特訓を思い出しながら。
それぞれアップを終えた後、一度プールサイドに部員全員が集合した。そこには、入部手続きを終えた一年生も含まれている。
もちろん、あの佐々倉さんも然り。
「はい!みんな集まったね―」
硝さんが前に出て声を上げた。
如何にもスポーツマンって感じの男女の前に立つのは、やっぱりちょっと不釣り合いな感じがした。
が、居てくれるだけで和むタイプの人だと思うのでボクはおっけー。実際他の人もつられて頬が緩んでいる気がする。
「というわけで、今日から初体制ということで!予告通り、一年生歓迎の意も込めてレペをやります!」
硝さんがそう高らかに宣言する。堂々と振舞っている所を見ると、主将っていう肩書きへの違和感は消え失せた。
「夏へのスタートダッシュを切れるように、皆さん全力で行きましょう!」
はい!と一様に声が上がる。
「続いて注意事項。レペで使用するコースは五コース。残りの一つはフリースペースとして、アップやダウンに使ってください。基本的にはプール内で待機すること。……まあ、スタートに遅れなければ何をしてもいいけど。あとレース順はホワイトボードに掲示してあるから、後で各自見ること」
以上、とそれで話が終わる。一旦解散し、各々準備に取り掛かる。
まずはレース順を確認しようとホワイトボードを見ようとすると、レース順とは別に張り紙があることに気づいた。
各種目が書かれた列と、男子と女子、それぞれのタイムと思しき列で構成されたリストだ。
一番上に、何のリストであるのかが明確に記されている。
「インターハイの標準記録……」
全ての種目がそれぞれ書かれているが、タイムを見た所であまりピンと来ない。
分かるのは一種目くらいだ。
「半フリは……27秒15」
改めて、現実の厳しさを知る。
猛特訓の成果で、自分の最速のタイムは34秒3にまでなった。元々は39秒だったから、自分でも結構縮められたのではと思う。
それでもまだ、6秒以上の隔たりがある。
別にこれからも半フリを専門に泳ぐってワケじゃないけど、インハイとの差がそれだけあるっていうのは、歯噛みしたくなるような事実だ。
「いよいよだね~」
そんな焦燥は露知らず、たつみちゃんが話しかけてくる。心なしか、いつもよりも張り切っているようにも見える。
そっか。たつみちゃん含めてマネージャー二人しかいないし、多分大変なんだろう。
「たつみちゃん、がんばってね」
「えー?」
「ん?」
お互いに顔を見合わせる。たつみちゃんはキョトンとした表情でこっちを見ている。
「がんばるのはあーちょんでしょ?」
「ああ、いや、そーだけど。でもたつみちゃんもさ、忙しいでしょ?マネージャーの仕事」
「あ、そっか」
なるほど。お互いに嚙み合ってなかったんだ。
「うん、よし。あたしもがんばろー」
「ボクも負けない!」
作った拳をお互いにトンと合わせる。
たつみちゃんはストップウォッチとバインダーを持って、もう一人のマネージャーの先輩の方へと向かった。
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