塩と水とその器

望凪

文字の大きさ
33 / 38
第二章

ライバルだと証明するために(三)

しおりを挟む
 プールに着くと、すぐにアップが始まった。
 といっても、いつもと違って各自が思い思いの内容で行う。
 始めは戸惑ったが、取り合えず疲れない程度に身体を温めることにした。この一週間の特訓を思い出しながら。

 それぞれアップを終えた後、一度プールサイドに部員全員が集合した。そこには、入部手続きを終えた一年生も含まれている。
 もちろん、あの佐々倉さんも然り。

「はい!みんな集まったね―」

 硝さんが前に出て声を上げた。
 如何にもスポーツマンって感じの男女の前に立つのは、やっぱりちょっと不釣り合いな感じがした。
 が、居てくれるだけで和むタイプの人だと思うのでボクはおっけー。実際他の人もつられて頬が緩んでいる気がする。

「というわけで、今日から初体制ということで!予告通り、一年生歓迎の意も込めてレペをやります!」

 硝さんがそう高らかに宣言する。堂々と振舞っている所を見ると、主将っていう肩書きへの違和感は消え失せた。

「夏へのスタートダッシュを切れるように、皆さん全力で行きましょう!」

 はい!と一様に声が上がる。

「続いて注意事項。レペで使用するコースは五コース。残りの一つはフリースペースとして、アップやダウンに使ってください。基本的にはプール内で待機すること。……まあ、スタートに遅れなければ何をしてもいいけど。あとレース順はホワイトボードに掲示してあるから、後で各自見ること」

 以上、とそれで話が終わる。一旦解散し、各々準備に取り掛かる。
 まずはレース順を確認しようとホワイトボードを見ようとすると、レース順とは別に張り紙があることに気づいた。
 各種目が書かれた列と、男子と女子、それぞれのタイムと思しき列で構成されたリストだ。
 一番上に、何のリストであるのかが明確に記されている。

「インターハイの標準記録……」

 全ての種目がそれぞれ書かれているが、タイムを見た所であまりピンと来ない。
 分かるのは一種目くらいだ。

「半フリは……27秒15」

 改めて、現実の厳しさを知る。
 猛特訓の成果で、自分の最速のタイムは34秒3にまでなった。元々は39秒だったから、自分でも結構縮められたのではと思う。
 それでもまだ、6秒以上の隔たりがある。
 別にこれからも半フリを専門に泳ぐってワケじゃないけど、インハイとの差がそれだけあるっていうのは、歯噛みしたくなるような事実だ。

「いよいよだね~」

 そんな焦燥は露知らず、たつみちゃんが話しかけてくる。心なしか、いつもよりも張り切っているようにも見える。
 そっか。たつみちゃん含めてマネージャー二人しかいないし、多分大変なんだろう。

「たつみちゃん、がんばってね」
「えー?」
「ん?」

 お互いに顔を見合わせる。たつみちゃんはキョトンとした表情でこっちを見ている。

「がんばるのはあーちょんでしょ?」
「ああ、いや、そーだけど。でもたつみちゃんもさ、忙しいでしょ?マネージャーの仕事」
「あ、そっか」

 なるほど。お互いに嚙み合ってなかったんだ。

「うん、よし。あたしもがんばろー」
「ボクも負けない!」

 作った拳をお互いにトンと合わせる。
 たつみちゃんはストップウォッチとバインダーを持って、もう一人のマネージャーの先輩の方へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。 帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、ほのぼの学園百合小説。 ♪ 野阪 千紗都(のさか ちさと):一人称の主人公。帰宅部部長。 ♪ 猪谷 涼夏(いのや すずか):帰宅部。雑貨屋でバイトをしている。 ♪ 西畑 絢音(にしはた あやね):帰宅部。塾に行っていて成績優秀。 ♪ 今澤 奈都(いまざわ なつ):バトン部。千紗都の中学からの親友。 ※本小説は小説家になろう等、他サイトにも掲載しております。 ★Kindle情報★ 1巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ 7巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0F7FLTV8P Chit-Chat!1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H Chit-Chat!2:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FP9YBQSL ★YouTube情報★ 第1話『アイス』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE 番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI Chit-Chat!1 https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34 イラスト:tojo様(@tojonatori)

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...