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第329話
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話し終えたアリスは、自分の知っている陽気で自信にあふれる表情とは程遠かった。
辛い話をさせてしまったことに、リゼも申し訳ない気持ちになる。
もし、自分に会わなければ、こんな表情をすることもなかったに違いない。
「ありがとうございました」
言葉の見つからないリゼが発したのは礼だった。
「バンブーロさんは、ササ爺の幼馴染で親友らしいの。何かあったら……と、何年も前にスクロールを購入した時、この場にサークルを設置したと、バンブーロさんから教えてもらったの」
突然、現れたクウガとアリスを温かく迎え入れたバンブーロ。
そして、ササジールの身に何が起きて、この二人にスクロールを託したのだと知り、アリスに事情を聞いたそうだ。
そのうえで、弟子夫婦ということで、この家で暮らすことを提案すると、アリスは感謝して受け入れた。
「クウガさんの記憶は……」
「オプティミスの魔道具の影響かは分からないけど、私たちとの記憶は失っているわ。それに左目も上手く見えていないようなの」
なにがどうなっているのか理解が追い付かなかったが、片方の目しか見えない者が冒険者を続けることは難しい。
そう……記憶が戻っても、クウガが冒険者に復帰することはない。
だからこそ、アリスはクウガに寄り添って生きていくことを決めたのだと感じていた。
リゼの表情から察したのか、アリスが呟いた。
「もう、私は冒険者としては生きていけないわ……ごめんなさい」
「謝らないでください。冒険者になるのも辞めるのも本人次第です。アリスさんの気持ちが最優先です」
「ありがとう」
自分の言葉でアリスが少しでも楽になればと思っていた。
本心でいえば、アリスが冒険者を引退することは寂しい。
「ところで、この村を訪れたのは偶然? それとも……」
「偶然です。本当に、この村にアリスさんたちがいたことは知りませんでした」
「そう……やっぱり、誰も戻って来ていないのね」
どこからか情報が漏れたということを警戒していたのだと感じたリゼは、アリスが言い終わる前に”偶然”を強調した。
アリスは「ササジールたちが無事に生還したのではないか」という希望もあったが、リゼの言葉で砕け散った。
アリスの言葉で、そのことに気付いたリゼ。
再びアリスに絶望を与えてしまったと、残念そうな表情を浮かべるアリスを見ていた。
銀翼のメンバーたちから託された思い。
アルベルトたちの最後の言葉……敢えて「遺言」という言葉は使わない。
その思いに応えようとするアリスを攻める権利などリゼにはない。
だが、アリスを慕うアンジュには伝えてあげては……という思いもあったが、人目を避けて生きている二人にとって存在を知る者は少ないほうがいいに決まっている。
その一方で、リゼはアンジュに嘘をつくことに躊躇いもあった。
目の前のアリスは冒険者の……上級魔術師のアリスでなく、ひとりの女性として座っている。
「アンジュには……会えないですよね」
ダメもとで問いかけると、アリスは困ったような表情だった。
「そうね。リゼちゃんも私たちのことを他人に言わないでしょう。……もし、アンジュがなにも聞かないという条件であれば、これを渡してくれる」
アリスは着けていた首飾りを外すと、リゼの目の前に置いた。
「これは?」
「昔、アンジュが欲しがっていたものよ。一流の冒険者になったら渡すと約束をしていたのよ。だから、ここ何年かは仕舞ったままだったけど、この村に来てから着けていたの。アンジュしか知らないから、渡せば分かると思うわ」
「ありがとうございます」
この首飾りを渡すことが、今のアリスにとってアンジュにしてあげられる最大のことなのだろう。
それは自分の危険を……存在が知られる危険を承知した贈り物だとリゼは分かっていた。
そして、それを託された意味も――。
「アーリンという名前は言っても差し支えないですか?」
「……えぇ、いいわ。頭のいいあの子なら、察してくれると思うわ」
アリスとアーリンが同一人物だと裏付けるものは、なにもないがアンジュなら意味が分かるだろうということなのかもしれない。
大事な区部飾りを、すぐにアイテムバッグに仕舞うと、リゼは大事なことを思い出す。
「これを預かってもらえませんか?」
アイテムバッグから取り出した小太刀を、今度はアリスの目の前に置く。
「大事に使っていたんですけど――」
その言葉に嘘はない。
だが、折れてしまったことも事実だった。
申し訳なさそうに話すリゼは、罪悪感からアリスの顔を直視出来ないでいた。
「これは……そうね。クウガとの約束だったわね」
懐かしそうに、そして楽しかった時を思い出すかのように折れた小太刀を手にする。
(昔のアリスさんだ)
アリスの声色が変わったこともあり、アリスの顔を見る。
そこには自分の知っているアリスの顔に戻っていた。
「たしか、銅貨一枚だったわね」
アリスは小太刀を購入した時の約束を覚えていたのか、財布から銅貨一枚を取り出そうとする。
「待って下さい。その……小太刀をクウガさんに返すまでは、いただくことはできません。それに、出来ればクウガさんからいただきたいです」
「……そうね」
アリスにリゼの思いが伝わる。
気持ちは違えど、クウガを慕う思いは同じだ。
「他に聞きたいことは?」
「……いいえ、大丈夫です。ありがとうございました」
聞きたいことは他にもあったが、これ以上は聞くべきではないと思っていた。
「私が言うことではないですが……幸せになって下さい、アーリンさん」
「……ありがとう、リゼちゃん」
リゼが”アリス”という名でなく”アーリン”という名で呼んだことの意味をアリスも感じ取っていた。
冒険者のアリスでなく、アーリンという女性の人生を認めてくれたのだと――。
(みんな……本当に、これでいいの?)
自分は許されたのだろうか? と、天を仰ぐ。
空の上にいて欲しくはない仲間たちを思い浮かべながら――。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十一』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百三十五』
『回避:五十六』
『魅力:三十』
『運:五十八』
『万能能力値:五』
■メインクエスト
・魔物の討伐(最低:五十、最大数:百)。期限:三十日
・報酬:討伐数、魔物の種類に応じて変動
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
辛い話をさせてしまったことに、リゼも申し訳ない気持ちになる。
もし、自分に会わなければ、こんな表情をすることもなかったに違いない。
「ありがとうございました」
言葉の見つからないリゼが発したのは礼だった。
「バンブーロさんは、ササ爺の幼馴染で親友らしいの。何かあったら……と、何年も前にスクロールを購入した時、この場にサークルを設置したと、バンブーロさんから教えてもらったの」
突然、現れたクウガとアリスを温かく迎え入れたバンブーロ。
そして、ササジールの身に何が起きて、この二人にスクロールを託したのだと知り、アリスに事情を聞いたそうだ。
そのうえで、弟子夫婦ということで、この家で暮らすことを提案すると、アリスは感謝して受け入れた。
「クウガさんの記憶は……」
「オプティミスの魔道具の影響かは分からないけど、私たちとの記憶は失っているわ。それに左目も上手く見えていないようなの」
なにがどうなっているのか理解が追い付かなかったが、片方の目しか見えない者が冒険者を続けることは難しい。
そう……記憶が戻っても、クウガが冒険者に復帰することはない。
だからこそ、アリスはクウガに寄り添って生きていくことを決めたのだと感じていた。
リゼの表情から察したのか、アリスが呟いた。
「もう、私は冒険者としては生きていけないわ……ごめんなさい」
「謝らないでください。冒険者になるのも辞めるのも本人次第です。アリスさんの気持ちが最優先です」
「ありがとう」
自分の言葉でアリスが少しでも楽になればと思っていた。
本心でいえば、アリスが冒険者を引退することは寂しい。
「ところで、この村を訪れたのは偶然? それとも……」
「偶然です。本当に、この村にアリスさんたちがいたことは知りませんでした」
「そう……やっぱり、誰も戻って来ていないのね」
どこからか情報が漏れたということを警戒していたのだと感じたリゼは、アリスが言い終わる前に”偶然”を強調した。
アリスは「ササジールたちが無事に生還したのではないか」という希望もあったが、リゼの言葉で砕け散った。
アリスの言葉で、そのことに気付いたリゼ。
再びアリスに絶望を与えてしまったと、残念そうな表情を浮かべるアリスを見ていた。
銀翼のメンバーたちから託された思い。
アルベルトたちの最後の言葉……敢えて「遺言」という言葉は使わない。
その思いに応えようとするアリスを攻める権利などリゼにはない。
だが、アリスを慕うアンジュには伝えてあげては……という思いもあったが、人目を避けて生きている二人にとって存在を知る者は少ないほうがいいに決まっている。
その一方で、リゼはアンジュに嘘をつくことに躊躇いもあった。
目の前のアリスは冒険者の……上級魔術師のアリスでなく、ひとりの女性として座っている。
「アンジュには……会えないですよね」
ダメもとで問いかけると、アリスは困ったような表情だった。
「そうね。リゼちゃんも私たちのことを他人に言わないでしょう。……もし、アンジュがなにも聞かないという条件であれば、これを渡してくれる」
アリスは着けていた首飾りを外すと、リゼの目の前に置いた。
「これは?」
「昔、アンジュが欲しがっていたものよ。一流の冒険者になったら渡すと約束をしていたのよ。だから、ここ何年かは仕舞ったままだったけど、この村に来てから着けていたの。アンジュしか知らないから、渡せば分かると思うわ」
「ありがとうございます」
この首飾りを渡すことが、今のアリスにとってアンジュにしてあげられる最大のことなのだろう。
それは自分の危険を……存在が知られる危険を承知した贈り物だとリゼは分かっていた。
そして、それを託された意味も――。
「アーリンという名前は言っても差し支えないですか?」
「……えぇ、いいわ。頭のいいあの子なら、察してくれると思うわ」
アリスとアーリンが同一人物だと裏付けるものは、なにもないがアンジュなら意味が分かるだろうということなのかもしれない。
大事な区部飾りを、すぐにアイテムバッグに仕舞うと、リゼは大事なことを思い出す。
「これを預かってもらえませんか?」
アイテムバッグから取り出した小太刀を、今度はアリスの目の前に置く。
「大事に使っていたんですけど――」
その言葉に嘘はない。
だが、折れてしまったことも事実だった。
申し訳なさそうに話すリゼは、罪悪感からアリスの顔を直視出来ないでいた。
「これは……そうね。クウガとの約束だったわね」
懐かしそうに、そして楽しかった時を思い出すかのように折れた小太刀を手にする。
(昔のアリスさんだ)
アリスの声色が変わったこともあり、アリスの顔を見る。
そこには自分の知っているアリスの顔に戻っていた。
「たしか、銅貨一枚だったわね」
アリスは小太刀を購入した時の約束を覚えていたのか、財布から銅貨一枚を取り出そうとする。
「待って下さい。その……小太刀をクウガさんに返すまでは、いただくことはできません。それに、出来ればクウガさんからいただきたいです」
「……そうね」
アリスにリゼの思いが伝わる。
気持ちは違えど、クウガを慕う思いは同じだ。
「他に聞きたいことは?」
「……いいえ、大丈夫です。ありがとうございました」
聞きたいことは他にもあったが、これ以上は聞くべきではないと思っていた。
「私が言うことではないですが……幸せになって下さい、アーリンさん」
「……ありがとう、リゼちゃん」
リゼが”アリス”という名でなく”アーリン”という名で呼んだことの意味をアリスも感じ取っていた。
冒険者のアリスでなく、アーリンという女性の人生を認めてくれたのだと――。
(みんな……本当に、これでいいの?)
自分は許されたのだろうか? と、天を仰ぐ。
空の上にいて欲しくはない仲間たちを思い浮かべながら――。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十六』
『魔力:三十三』
『力:三十一』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百三十五』
『回避:五十六』
『魅力:三十』
『運:五十八』
『万能能力値:五』
■メインクエスト
・魔物の討伐(最低:五十、最大数:百)。期限:三十日
・報酬:討伐数、魔物の種類に応じて変動
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
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