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Summer Camp

第39投

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  玄武大学とは関甲信リーグに所属している全国大会常連チームだ。先日神宮球場で行われた創世大学との試合で激闘の末、柊から三得点を奪い、3対2でベスト4に進出した強豪だ。準決勝では敗れたものの、その強さは他の大学を圧倒した。部員は女子野球にも関わらず100人以上もいて当然のように専用グラウンドが二つもあり、しかも三軍まである大所帯でもある。毎年社会人野球、女子プロ野球に多くの選手を輩出していて軍隊のように規律が多くもちろん練習も厳しいらしい。
「元チームメイトがそこでコーチをしていておもに二軍選手のオープン戦を指揮しているのよ。いい機会だから一軍とやりたかったけどそいつは鼻で笑って『それは秋の関東大会でならいいよ』とか言ってきたの。悔しくない?」
 菜穂は本当に悔しそうだった。
「来週の土曜日に玄武大学のグラウンドに行くからそのつもりでいてね」
 今まで試合では勝ち負けよりも個人の能力を把握することを重視しているが、今回は本気で勝ちにいく気でいる。
 そうなったとき、自分が先発でないことが悔しかった。
「イップスか……」
 菜穂と別れたあとすぐに家には帰らず、いつも降りる駅より二駅早く降りて駅前の大きな書店に足を運んだ。新刊から古本、文具なんでも売っているこの書店は多くの学生が利用する。イップスに関する本を探しながら菜穂に言われた「マウンドにあげられない」という言葉が何度も頭の中で繰り返された。あの場ではイップスなんてと本を突っ返してしまったがやはり気になってしょうがなかった。スポーツの本の棚に到着すると野球だけでもいろいろな内容の本があった。正しい投げ方、打ち方、ストレッチの本、ウェイトトレーニングに関する本。なん十種類の本がそこにはあった。イップスというのは精神的な病気でスポーツ医学? の部類の入るのかどうかは知らないが求めていた本はそこにあった。手に取って内容を確認した。
「くるみちゃん?」
 久留実は振り向いた。一瞬困惑したが、すぐに分かった。
「遥ちゃん......」
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