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プレイボール
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この期に及んで康太は不服であった。名ばかりの監督とはいえ試合前に気の利いた言葉ひとつかけられない。そもそも試合慣れしていない選手たちが久しぶりに公式戦の舞台に立ったのだ。緊張しても仕方ない。
簡単なゴロを打っても上手くさばけずにあたふたする内野陣。天然芝の感覚に慣れずにボールのバウンドを見誤る外野陣。雲泥の差が見受けられる両チームのスタンドに陣取る応援団の数と質。わかりきっていたことだが試合が始まる前にすでに勝負が決まっていると言われても過言ではない。
「ラ、ラ、ラストォ~」
太一は相変わらずの甘噛みでキャッチャーフライを要求する。康太は高々と打ち上げると上空の風に煽られた打球はちょうどホームベースとマウンドの間に落下し始め、落下点を誤った太一は絵に描いたようにばんざいしながらずっこけて落球した。あまりに後味が悪いので康太はもう一度打ち上げる準備をする。するとアナウンス席から「ノックを終了してください」と女子高生の甲高い声で注意をされ、相手ベンチに頭を下げて退散した。スタンドにはまばらな各校の生徒と関係者の顔が揃っていたが、グラウンドに目をやっているのはごくわずかで、みなしきりにうちわを扇いだり、日焼け止めクリームを塗りたくっていたりしている。野球に全く興味のない若い教員がめんどくさそうに同僚に文句を言っている姿も見て取れたが、最前列に腰を下ろしていた上宮だけが心配そうに康太に目配せした。
「みんな緊張し過ぎだリラックス、リラックス」
気休めにもならないと分かっているが康太は選手たちに声をかける。試合前からこんなに重苦しい空気をベンチに漂わせてはチームの士気に影響する。
「そうだよみんな。シートノックで上手くいかなくても試合で切り替えればきっとうまくいくよ」
明るい声がベンチにこだまする。雄大の爽やかな笑みにつられてようやく何人かの選手に笑顔が見られ康太はベンチに腰を下ろした。
プレイボールの十二時半が刻一刻と迫ってきている。真夏の太陽は容赦なくグラウンドに立つ球児たちの肌を焦がしていく。この炎天下に関わらず一切の乱れなく躍動する谷村学院の選手たちは康太から見てもよく鍛えられていると感じた。無駄のない動き、野太い声。
シートノックは体をほぐしたり、グラウンドの状況を確かめる目的以外に相手に対してプレッシャーを与える役目も兼ねているのだが、谷村学院の場合、相手を威嚇しているというより猫が最後の抵抗を試みるネズミに牙をちらつかせているような余裕を感じとれた。「どうころんでも俺たちがお前たちに負けるわけがないだろう」と言ったおごりがあのグラウンドから漂っているのだ。
簡単なゴロを打っても上手くさばけずにあたふたする内野陣。天然芝の感覚に慣れずにボールのバウンドを見誤る外野陣。雲泥の差が見受けられる両チームのスタンドに陣取る応援団の数と質。わかりきっていたことだが試合が始まる前にすでに勝負が決まっていると言われても過言ではない。
「ラ、ラ、ラストォ~」
太一は相変わらずの甘噛みでキャッチャーフライを要求する。康太は高々と打ち上げると上空の風に煽られた打球はちょうどホームベースとマウンドの間に落下し始め、落下点を誤った太一は絵に描いたようにばんざいしながらずっこけて落球した。あまりに後味が悪いので康太はもう一度打ち上げる準備をする。するとアナウンス席から「ノックを終了してください」と女子高生の甲高い声で注意をされ、相手ベンチに頭を下げて退散した。スタンドにはまばらな各校の生徒と関係者の顔が揃っていたが、グラウンドに目をやっているのはごくわずかで、みなしきりにうちわを扇いだり、日焼け止めクリームを塗りたくっていたりしている。野球に全く興味のない若い教員がめんどくさそうに同僚に文句を言っている姿も見て取れたが、最前列に腰を下ろしていた上宮だけが心配そうに康太に目配せした。
「みんな緊張し過ぎだリラックス、リラックス」
気休めにもならないと分かっているが康太は選手たちに声をかける。試合前からこんなに重苦しい空気をベンチに漂わせてはチームの士気に影響する。
「そうだよみんな。シートノックで上手くいかなくても試合で切り替えればきっとうまくいくよ」
明るい声がベンチにこだまする。雄大の爽やかな笑みにつられてようやく何人かの選手に笑顔が見られ康太はベンチに腰を下ろした。
プレイボールの十二時半が刻一刻と迫ってきている。真夏の太陽は容赦なくグラウンドに立つ球児たちの肌を焦がしていく。この炎天下に関わらず一切の乱れなく躍動する谷村学院の選手たちは康太から見てもよく鍛えられていると感じた。無駄のない動き、野太い声。
シートノックは体をほぐしたり、グラウンドの状況を確かめる目的以外に相手に対してプレッシャーを与える役目も兼ねているのだが、谷村学院の場合、相手を威嚇しているというより猫が最後の抵抗を試みるネズミに牙をちらつかせているような余裕を感じとれた。「どうころんでも俺たちがお前たちに負けるわけがないだろう」と言ったおごりがあのグラウンドから漂っているのだ。
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