戦力外スラッガー

うさみかずと

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プレイボール2

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「レベルが違いすぎるこれは五回までできたら上出来だ」
 記録係でベンチに入っている金井の場違いな独り言に康太は咳払いした。
「菱田くんごめん、つい……」
「まぁ気持ちは分かりますがね」
 康太は再び選手たちの表情を窺うため視線を傾ける。
「最初で最後の夏なんだから楽しくやろうぜ」
 翔は込み上げてきたものを飲み込んだように言って頬を和らげる。
「ったりめーだろ、打たせるんだからお前らしっかり守れよ」
 背番号1を背負い得意げになっている総司は頷きながらグラブを叩く。
「特にデカブツ! てめーはいつまで緊張してんだよ! 試合始まってからはビビんじゃなねーぞ」
「あはは、が頑張るよ」
 キャッチャーの太一は強張った笑みを浮かべて何度も首を縦に振った。
 全員なんとも煮え切らない曖昧な笑顔を引っ提げてグラウンドを眺める姿は、相手から見たら格好のカモだ。
「みんなそろそろ整列の準備だ。整備が終わったらすぐに号令がかかるぞ」
 康太はベンチ内に声をかけた。選手たちは帽子をかぶりグラブを携えてグラウンドに出る。夏の大会は日程が詰まりに詰まっているためインターバルの時間を十分にとれない。場慣れしていないチームはそのスピード感にのまれなにもできずに終わってしまうことが多いのだ。
 康太はそれを見越して早めに選手たちをベンチから出した。雄大は体を解したり、手を叩いたりして気合の入る声をチームに浸透させている。「よしやってやろう」口々に選手たちが雄大に答える。しかし、全体的にその自信のなさが雰囲気として体の外に漏れだしているのが現実だ。
 ユニフォームやスパイクは自分たちの高校のものを使用しているため、チームとしての一体感は皆無だ。幸手連合と書かれた黒い帽子だけが彼らをチームとして繋ぎとめる唯一の共通点であり、最大のよりどころである。
「集合!」
 号令がかかって、雄大たちはベンチの前を飛び出していった。同じく反対側からも威勢の良い掛け声とともに勢いよく走ってくる。
 審判の合図で礼を交わした直後、康太は両手で自分の頬を思いきり叩き赤い紅葉を二つ作ると、自然に精神が落ち着いてくる。
「菱田くん?」
 いきなりの奇行に金井は驚いていたが関係ない。
「今日は奇跡を起こしますよ」
 今から約二時間後、勝者と敗者は残酷なほどはっきりわかる。でも怖がることはない。ただそれだけのことだ。
 そして俺たちは絶対に勝者側にいるんだ。

                        

 バッテリーを組む総司と太一が投球練習を始める。センターを守る雄大は大きな声でキャッチャーの太一を鼓舞しチームを盛り上げようと必死だ。
「キャプテン頑張ってるぞ、声出していこう!」
 康太がベンチの最前列に立ちメガホン越しに選手を奮い立てる。
 八球の投球練習が終わるまで休まず声を出し続けている雄大は相手から見れば空回りしているように見えなくもないが、やはり合同チームで個々の精神力が未熟の中雄大だけは強い。
 今は雄大の頑張りに康太まで引っ張てもらっている。
 その声をかき消す大声援を背に谷村学院の一番バッターがバッターボックスに入った。
「バッテリー落ち着いて、コースだけ意識して」
 康太がそう言ったのは、ただの定型文句にすぎない。試合前あれだけ威勢が良かった総司でさえも公式戦初マウンドとなると強張った微笑を引きずり、試合前に何度も確認した内野、外野を見渡してからサインを見るといった動作をすっとばして投球モーションに入ってしまったのだ。案の定、不本意に高めに浮いたストレートを相手バッターに容易く外野に運ばれてしまう。
「これは、いきなり苦労するな」 
 康太はため息交じりにつぶやく。
 初球を簡単に打たれた総司は不安な表情で康太を見つめていた。
「総司2、3球けん制入れろ」
 谷村学院の野木監督と目が合った気がした。その一瞬、野木監督はにやりと笑って見えた。
「菱田くん、相手は手堅く送ってくるかね?」
「それはないですよ、もし僕が相手チームの監督なら……」
 相手の作戦は分かっている。地に足ついてないうちに揺さぶって潰すつもりだ。シートノックの段階で気がついてやがったんだ。合同チーム最大の守備の弱点、気の弱いキャッチャー穂波太一を。

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