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総司は太一のサインに首を振りインコースにストレートを食い込ませた。バットの根元にあたり後ろに飛んでファールになる。総司がバッターを睨みつけ、早く構えろと無言の威圧をかけていた。
普通なら一球外に外してもいい場面だ。打ち気なバッターのタイミングを外すためにカーブを投げて精神を落ち着かせてもいいだろう。しかし今の総司は遊び球を投げるつもりはない。
二球目もストレート。厳しくインコースを攻めたのは強い気持ちの表れだと思った。
銀二は打球が右中間に飛んだ時、雄大よりも早く体が動いていた自分に驚いていた。
守備練習のほとんどをアメリカンノックに費やした。全速力で走ることでブレる視線は落下点を予測しボールから一度目を切ることによって防ぐことができる。グラウンドに吹く風。芯で捉えながらも少し詰まり気味の打球。今の銀二には本能的にこの広い右中間のどこにボールが落ちるのか予測が出来た。
『三回を越えたあたりからスタンドが気になって仕方なかった。イジメられて、僕はずっと弱気になっていた。へたくそだから嫌な思いをする。それで自分や自分以外の人を悲しませるなら野球なんてやりたくなかった。でもそんなのカッコつけてただけだったと思う。たぶん僕は逃げ出したかったんだ。勉強も好きだから頑張っていたのでなく、とにかく人から、父さんから褒めてもらいたかったのだ。それは初めて夢中になれた野球でも同じだ。ただ僕には才能がなかった。でも今は少し違う。本当にこのチームのために役に立ちたい。へたくそだって最低限の仕事はできるはずだ。後ろ指をさされようが、笑いものにされようが僕はこの試合を勝ちたい。そのためにできること全力でやってみる。それに勝てば何かが変わる気がする。そう言う気持ちにみんながしてくれた』
――だからこの試合が終わったら、父さん。あなたに伝えたいことがあるんだ。
飛びつけば捕れる。銀二は思い切って体を投げ出した。左腕を伸ばした途端、左の手の平に衝撃が走った。
銀二は高々とグラブを上げて捕球をアピールする。
おぉ! という唸り声がスタンドから巻き起こった。
アウトが宣告され雄大が銀二の名前を叫ぶ。三塁ランナーはタッチアップの体勢に入っておりすでにスタートを切っているが、一塁ランナーは打球の行方を黙認してそのまま二塁ベースを回っている。
「銀二ボールをかせ!」
雄大は銀二からボールを受け取り、素早く中継に入った朔に返球する。飛び出したランナーは必至の形相で一塁に帰塁しようとするが間に合わず、ダブルプレーが成立した。
スタンドは初めて飛び出した幸手連合のナイスプレーに拍手喝采で次第に声援に変わっていく。
「よく捕ったな、お前すげぇよ」
駆け寄ってきた雄大が銀二の腕を引っ張って助け起こした。
「ピッチャーあと一人」
銀二は立ち上がり総司に向って人差し指を上げる。総司は何も言わずにマウンドに立ち尽くしていたが、キャッチャーの太一だけは満面の笑みをグラブで隠す総司の表情を眺めていた。
「ツーアウト、ここは最少失点で抑えよう」
太一の呼びかけに選手たちは応える。康太は一度上げた腰を再び下ろしこの瞬間に酔いしれていた。
「これが野球なんだな」
つぶいてみる。
あのレベルの選手があんな初歩的な走塁ミスを起こしたのは、相手チーム全体に勝ちを確信し油断を誘うような空気感が出来たからだ。加えて今の怠慢プレーに監督は一切声を荒げて注意をしていない。このチームにもし勝利への活路を見出すなら相手の傲慢を利用してやることだ。そこに漬け込むしかない。
「よっしゃー」
総司は雄たけびを上げ後続を最後の力で三振に抑えた。
幸手連合最後の悪あがきが始まる。
普通なら一球外に外してもいい場面だ。打ち気なバッターのタイミングを外すためにカーブを投げて精神を落ち着かせてもいいだろう。しかし今の総司は遊び球を投げるつもりはない。
二球目もストレート。厳しくインコースを攻めたのは強い気持ちの表れだと思った。
銀二は打球が右中間に飛んだ時、雄大よりも早く体が動いていた自分に驚いていた。
守備練習のほとんどをアメリカンノックに費やした。全速力で走ることでブレる視線は落下点を予測しボールから一度目を切ることによって防ぐことができる。グラウンドに吹く風。芯で捉えながらも少し詰まり気味の打球。今の銀二には本能的にこの広い右中間のどこにボールが落ちるのか予測が出来た。
『三回を越えたあたりからスタンドが気になって仕方なかった。イジメられて、僕はずっと弱気になっていた。へたくそだから嫌な思いをする。それで自分や自分以外の人を悲しませるなら野球なんてやりたくなかった。でもそんなのカッコつけてただけだったと思う。たぶん僕は逃げ出したかったんだ。勉強も好きだから頑張っていたのでなく、とにかく人から、父さんから褒めてもらいたかったのだ。それは初めて夢中になれた野球でも同じだ。ただ僕には才能がなかった。でも今は少し違う。本当にこのチームのために役に立ちたい。へたくそだって最低限の仕事はできるはずだ。後ろ指をさされようが、笑いものにされようが僕はこの試合を勝ちたい。そのためにできること全力でやってみる。それに勝てば何かが変わる気がする。そう言う気持ちにみんながしてくれた』
――だからこの試合が終わったら、父さん。あなたに伝えたいことがあるんだ。
飛びつけば捕れる。銀二は思い切って体を投げ出した。左腕を伸ばした途端、左の手の平に衝撃が走った。
銀二は高々とグラブを上げて捕球をアピールする。
おぉ! という唸り声がスタンドから巻き起こった。
アウトが宣告され雄大が銀二の名前を叫ぶ。三塁ランナーはタッチアップの体勢に入っておりすでにスタートを切っているが、一塁ランナーは打球の行方を黙認してそのまま二塁ベースを回っている。
「銀二ボールをかせ!」
雄大は銀二からボールを受け取り、素早く中継に入った朔に返球する。飛び出したランナーは必至の形相で一塁に帰塁しようとするが間に合わず、ダブルプレーが成立した。
スタンドは初めて飛び出した幸手連合のナイスプレーに拍手喝采で次第に声援に変わっていく。
「よく捕ったな、お前すげぇよ」
駆け寄ってきた雄大が銀二の腕を引っ張って助け起こした。
「ピッチャーあと一人」
銀二は立ち上がり総司に向って人差し指を上げる。総司は何も言わずにマウンドに立ち尽くしていたが、キャッチャーの太一だけは満面の笑みをグラブで隠す総司の表情を眺めていた。
「ツーアウト、ここは最少失点で抑えよう」
太一の呼びかけに選手たちは応える。康太は一度上げた腰を再び下ろしこの瞬間に酔いしれていた。
「これが野球なんだな」
つぶいてみる。
あのレベルの選手があんな初歩的な走塁ミスを起こしたのは、相手チーム全体に勝ちを確信し油断を誘うような空気感が出来たからだ。加えて今の怠慢プレーに監督は一切声を荒げて注意をしていない。このチームにもし勝利への活路を見出すなら相手の傲慢を利用してやることだ。そこに漬け込むしかない。
「よっしゃー」
総司は雄たけびを上げ後続を最後の力で三振に抑えた。
幸手連合最後の悪あがきが始まる。
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